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39 これから
しおりを挟むまた、ここへ足を踏み入れることになるとは、思っていませんでした。
私が来たのは、学園。
ワイバーンを倒した時、もうこの場所に来ることはないだろうと思っていましたが、あっさりと私は学園に通うことを許され、戻ってきました・・・とは、少し違いますが。
「リリ、どうかした?」
「グレット・・・私、あなたの足かせにはなりませんか?」
私のすぐそばには、グレットがいます。私は、グレット監視下の元、人間社会で生きることを許されました。
私が魔物かそれ以外か・・・意見は分かれましたが、結論は不明となりました。しかし、人間ではないと判断はされたので、その処遇について議論されこのような結果になったのです。
まさに、私が望むような結果。グレットと離れずに済むという、そのまま私の望みを叶えたような結果になりました。
グレットの言うことは聞くというアピールが効いたのですね!
「足枷ね。」
グレットは周囲に聞こえないよう、私の耳元でひっそりと答えを言いました。
「・・・俺よりも優れた能力を持つお前が足枷になどならん。リリ、足枷とはな、ああいうのを言うんだ。」
ちらりと視線を後方に向けたグレットにならって、私も視線を後ろによこします。
「なんだよ、2人も?」
そこには兄が、頭に包帯を巻いた兄がいました。
そういえば、兄は抵抗むなしく牢屋に入れられて、グレットが私のことをごまかしている間、牢の中で気絶していたそうです。
何とかことをおさめた私たちが迎えに行くと、涙を流して抱き着いてきました。
無事でよかった。
涙を流しながら抱き着いてくる兄は、威厳も何もないですが・・・その言葉はとても嬉しいものでした。
なので、私は自然とほほが緩みます。
「お兄ちゃんの分まで、私はグレットの役に立ちます。だから、これからもお兄ちゃんをよろしくお願いします。」
グレットより剣の腕は弱く、私よりも秀でた身体能力を持たない兄ですが・・・それでも私の兄です。ドーナルド家の絆は・・・とっても強いらしいので、私リリ・ドーナルドも兄弟の絆を大切にしたいようです。
「仕方がないな。」
「おい、2人で何話してんだ?」
「お兄ちゃんが不甲斐ないことについて話していました。」
「グサっ!ま、マイエンジェル・・・言葉のナイフが鋭すぎるよ。」
胸に手を当てて、膝から崩れ落ちる兄。
私たちはそれを見て笑い合って、グレットは兄に手を差し出します。
「ほら、行こう。今日は君のおごりでいいかな?」
貴族バージョンのグレットが微笑みかけて、兄の表情は固まります。
「お前・・・結構食うんだよな・・・お手柔らかに。」
「そうだね、柔らかい肉が食べたいね・・・」
「一番高いステーキランチをご所望ですか!?」
「私も、お肉がいいです。」
「イエス、マイエンジェル!最高のお肉を用意するぜ!」
ニカっと笑った兄をグレットは目を細めて見守って、私の腰に手を回した。
「悪いけど、もう君の天使じゃないんだ。リリのすべてが私のものだよ。そうだよね、リリ?」
「・・・グレットがそれを望むなら、私はグレットのものになります。」
「マイエンジェル!?じょ、冗談だよな?」
慌てる兄に、小首をかしげます。
何を言っているのでしょうか、私はグレットのそばにいられるのなら何でもします。それに、グレットの望みは叶えたいと思っていますから。
「うおおおおっ!お兄ちゃん、寂しすぎるよ!?ぐあぁ!なんでだ、なんでだグレット!俺のマイシスターでマジ天使が!」
そういえば、マーレイフィ様との婚約をグレット様は破棄しました。平和な世であるから結ばれた婚約・・・平和でなくなるという兆しが見えて、破棄を検討していたそうですが、ワイバーンの出現で実行に移したそうです。
「リリちゃん、お兄ちゃんと一緒に来よう。こんな大魔神と一緒にいたら、その素直できれいな心が汚されてしまう!」
「何か言ったかい?」
「お前みたいな腹黒に妹はやれねーんだよ!」
いつものように応接間に案内されたマーレイフィ様。帰り際に見かけた彼女の顔は、悲壮感に漂っていました。グレット様のことが本当に好きだったのでしょうね・・・それか、おうちの人に怒られるからですかね?
そんなマーレイフィ様を見送っていた私に、グレットは彼女との婚約を破棄したことを聞かせてくれました。まぁ、それだけですけどね。
「役立たずが、何を言っているのかな?君、城の騎士の手から彼女を守ってあげられなかったよね?」
「うぐっ」
「私の手伝いもしてくれなかったよね?一人でよく頑張ったよなぁ・・・」
「それは・・・俺は役に立た・・・くそっ!」
自分が役に立たないと認めてしまい、兄は再び崩れ落ちて地面に拳を振り下ろしました。
「俺が幸せにしたかったのに!」
地面を睨みつける兄の肩に、私はそっと手をのせました。
「お兄ちゃん・・・もうすぐチャイムが鳴ります。早く行きましょう。」
「・・・あぁ、うん・・・」
「はい、ハンカチ。あぁ、返さなくてもいいから。」
「ありが・・・って、これ俺のハンカチ!失くしたと思っていたんだが!?」
「落ちてた。」
「言えよ!」
「いう機会がなくって・・・」
「あるだろーが!」
グレットは兄を一通りからかってから、私の手を取ります。
「行こう。本当に遅刻してしまう。」
「はい。」
ワイバーンより強く、人間ではないとばれてしまった私が、これからどのような生活を送ることになるのか・・・わかりません。
ですが、グレットと一緒なら、私はそれでいいのです。
そのためだったら、私はマギを使うことを厭いません。たとえそれが、リスフィの過ちを繰り返すことになったとしても。
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