死神勇者は狂い救う

製作する黒猫

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95 罠探知機

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 町にあるカフェに、アルクと2人で来た。
 他のみんなはそれぞれ修行中だ。今日は、アルクが私の護衛の当番ということになっている。

 私はチーズケーキ、アルクはフルーツタルトを食べながら、アルクから修行の進み具合などを聞いた。

「そういえば、ちょっと聞きたいんだけど。」
「ん?」
「痛いのが好きって気持ちわかる?」
「ぶふっ!」
 ちょうど紅茶を口に含んだアルクが、それを噴出した。別にタイミングを狙ったわけでなく、アルクが人の話を聞きながら飲んだのが悪い。

「何やってんの。」
 ウェイターから布巾をもらって、アルクの吹き出した紅茶を拭いた。

「いや、お前が何を聞いてんの!?そんな話を、公衆の面前でするなよ!?」
「は?」
 意味が分からない。私はただ、ゼールの気持ちがわかるかどうか聞きたかったのだが。
 もしわかると言ったら、アルクとは距離を置くけどね。

 とりあえず、アルクに昨日のことを話した。

「・・・何、監禁されそうになってんだよ。」
「ごめん。まさか、たった一日会わなかっただけで、あんなことになるなんて。」
「うん、まぁ、そうだな。」
 監禁未遂については、ゼールが悪いということで決まった。

「ま、もうゼールには会いに行くな。お前がいないと、魔王は倒せないだろ?監禁なんてされたら、たまったものじゃない。」
「いや・・・うーん。実は、四天王を倒すときに、ゼールも連れて行くって約束していて。」
「約束か。そんなのなしってことに・・・は?四天王を倒す!?それって、まさかお前だけでか?」
「うん。だって、私だけの方がやりやすいし。」
「・・・確かにそうだが・・・だけど、ひとこと言ってほしかった。」
「ごめん。」
「それで、ゼールと一緒じゃないとだめなのか?」
「別にだめってわけじゃないけど、ゼールにはいろいろとしてもらったから」
「まて、いろいろってなんだ?」
「え?ルトのこととか、クグルマの死体を処理してくれたりとかだけど?」
「・・・そうか。それに恩義を感じてるわけだな。なら、俺も行こう。」
「アルクも?」
「あいつに勝てる気はしないが・・・俺は鑑定が使えるし、それでサオリが罠にかからないように見ていることはできる。」
「鑑定・・・そういう名前の能力なんだね。」
「あぁ。話してなかったか。あまりこの能力の名前は使わないでくれ。名前を知っているだけで、セキミヤの関係者を疑われるからな。」
「わかった。・・・それじゃ、アルクにもついてきてもらうことにするから、よろしくね。」
「了解。・・・お前は、もっと仲間を頼れ。」
 頭をなでられる。

 頼れ・・・か。

「頼ったら・・・頼れなかったときに、憎んでしまうよ。」
 助けを望んで、その助けが得られなかったら・・・私はすべてを憎むだろう。

「俺は、お前に頼られれば、俺ができることはする。」
「ありがとう。でも、私は・・・大切な仲間を憎みたくない。」
「でも、俺は憎むぞ?」
「・・・?」
 アルクの方を見れば、真面目な顔をして紅茶を見つめていた。

「もし、お前に何かあったら・・・何もできなかった俺を、俺は憎む。だから、どっちにしろ俺は憎まれるんだ。だから、頼れよ。」
 こちらを見て微笑むアルクは、再び私の頭をなでた。

 あぁ、温かいな。



 夜、私の部屋へアルクがきて、私はアルクと共にゼールの屋敷へと移動した。

「お待ちしておりました、わが主。」
「移動魔法。」
ひざまずくゼールを見て、私はためらうことなく移動魔法を使い、宿に戻った。

「・・・サオリ、あれは俺の見間違いか?」
「言い忘れていたけど、私と2人の時はあんな感じ・・・だけど、主とかは言ってなかったと思う。いや、やめさせたんだけど。」
「そうか。もう、俺は何を見ても驚かないぞ。ま、昨日八つ裂きにしたんだろ?強者に従うのは自然の摂理だ。ゼールは野性的だったんだな。」
「はははっ。」
 乾いた笑いが出る。なんで、私が恥ずかしいとか感じないといけないのだ。恥ずかしいのは、ゼールだけだ。よし。

「移動魔法。」
 景色が切り替わり、先ほどと同じ場所でひざまずくゼールを見て、声を低くしていった。

「立ちなさい。」
「御意。」
 すくっと立ち上がるゼール。御意とか言う人だったけ?いや、もう考えるのはやめよう。

「さてと、昨日はひどい裏切りにあったと思ったんだけど、約束は約束だから・・・」
「もう、あのような真似は致しません。放置プレイは趣味ではありませんが、あなたの下僕である私があなたに合わせるのは当然のことでした。申し訳ございません。」
 そうして、ひざまずこうとするゼールを、蹴り上げた。

「え!?」
「いちいちひざまずかないで。」
「はぁっ!はぁはぁ・・・仰せのままに。」
 息の荒くなるゼールを無視して、ソファに腰かける。アルクもそれにならうが、ゼールがそれを止めた。

「馬鹿騎士が座るソファはありません。床にお座りなさってください。」
「な、全然態度が違うじゃねーか!ていうか、いじめられるのが好きなんだろ、お前が床に座ってろ!」
「はい?寝言は寝ておっしゃってください。なぜ、私があなたからそのようなことを言われなければならないのでしょう。大した力もなく、知恵もなく・・・ただの腰ぎんちゃくのくせに。」
「てめー!」
「さっさと座ってくれる?」
「申し訳ございません。」
「サオリ、こいつの態度どうにかならねーのかよ。」
「アルク、こんな変態にいちいち突っかかってたら身が持たないよ。」
「俺が悪いのかよ!?」
「はぁ・・・変態・・・っ」
「サオリ、俺もう帰っていいか?」
「まだ一人も四天王倒してないんだけど。」
「そうだな。」
 肩を落としながらも、アルクは私の隣に座ってくれた。どうやら、このまま一緒にいてくれるらしい。

 さて、倒しに行こうか。


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