死神勇者は狂い救う

製作する黒猫

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101 お菓子をあげるので、いたずらしてください。

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 夜、ルトが私の部屋を訪ねた。

「サオリ様、トリックオアトリートです!」
 そう言って、にこにことケーキを差し出すルト。ルトの格好は、いつもの中華服のようなものの上から、黒いマントを羽織っていた。
 先ほどの言葉と、一応仮装していることから、今日がハロウィンなのだと容易に想像がついたが、なぜケーキを差し出されるのかわからなかった。

「えーと、私がお菓子を渡す側だと思うけど?」
「サオリ様は僕の主ですから、お菓子をあげるのは僕で、いたずらされるのも僕って決まっています。」
「・・・いや、いたずらはしなくていいと思うけど?お菓子を渡さないと、いたずらするって意味だから、お菓子を渡したらいたずらされる必要はないよね?」
「・・・なら、このケーキは僕が食べます!でも、本当はサオリ様に食べてほしかったです。頑張って作ったのに・・・」
「いやいやいや!私が食べるから!ぜひ、食べさせて私に!ただルトにいたずらする必要はないというだけで・・・」
「なら、やはり僕が食べるしかありませんね。」
 悲しそうな顔をして、ケーキを見つめフォークを握りしめるルト。まったく話が通じない。

「・・・わかった。ケーキを頂戴?いたずらもするから。それでいいんだよね?」
 何がいいのかわからないが、ケーキを食べるにはいたずらをする必要があるようなので、私はルトにそう提案した。
 すると、花でも咲いたかのように、笑顔になるルト。可愛いな。

「では、ケーキはこちらに置きますね。ささ、どうぞ!お好きなようにしてください。」
 ケーキを机に置き、両手を広げるルトに、私はどうしていいかわからず視線をさまよわせた。

 いたずらって何をすればいいわけ!?

 ハロウィンなどしっかりやったことがない私は、いたずらの内容が思い浮かばず焦った。
 いたずら・・・壁に絵を描くとか?物を隠すとか、驚かすとか・・・あれ、なんかいじめみたいじゃない?いたずらって何よ?

「サオリ様、遠慮なさらずにどうぞ!」
「う、うん。・・・えーと。」
 困った。
 すると、ノック音が聞こえた。その音に助けを求めるように返事をすれば、アルクとリテが入ってきた。2人共、ルトと同じようにいつもの服の上から黒いマントを羽織っている。似合うな。

「ルト、抜け駆けしやがって・・・このこの。」
「まだまだ子供ですね、サオリさんが困っていますよ。」
 アルクがルトを肘でつついて笑い、リテも微笑ましそうにルトを見る。そして、懐からリテはカードとクッキーの入った袋を出した。

「これは明日にでもお食べください。さ、このカードを一枚引いて、ルトのいたずらを決めてください。次は僕のいたずらをお願いしますね。」
「え、リテも?」
「駄目ですか?」
「・・・いや、意味が分からなくて。ハロウィンって、そういう行事だっけ?」
「いいじゃねーか。俺たちは、サオリに菓子をあげたいし、サオリにいたずらもされたいんだよ。俺もよろしくな。」
 アルクも懐から飴を取り出すと、ルトのケーキの隣に並べた。

「それは、ありがとう?」
「お気になさらず、サオリ様。では、僕へのいたずらを決めていただいてもよろしいですか?」
「さ、このカードからお好きなものをどうぞ。」
 リテは、伏せたカードをこちらに差し出した。10枚くらいあるカードに何が書かれているかはわからない。そこが少し不安だったが、私は彼らを信じることにしてカードを引いた。

「・・・え、いいのこれ!?」
「なんだ、何が出たんだ?」
「サオリ様、なんだか嬉しそうですね。」
 リテが手を差し出してきたので、カードを渡す。

「耳を噛む。・・・これはなかなか。」
「ぼ、僕の耳を!サオリ様が・・・」
 真っ赤になるルト、かわいい。ずっとルトのことをかわいいと思っていて、その耳やしっぽに触りたいと思っていた。耳を噛む・・・なんという甘美な響きだろうか。あの可愛い耳に噛みついていいと・・・え、本当にやるけど、いいの?

「サオリ、顔が怖いぞ。」
「えーと、お嫌ですか?でも、さっきは嬉しそうでしたよね?」
 不安そうにこちらを見るルト。耳が少し垂れる。あの耳を・・・

「仕方がないよね。ルトが望んだことだもの。」
 ルトが逃げ出さないように、その肩を掴む。私と背丈があまり変わらないので、このままだと噛みつけないと思っていたら、ルトが耳を差し出す様にかがんだ。

「サオリ様、なるべく優しくお願いします。いえ、サオリ様が噛み千切りたいとおっしゃるなら、僕は受け入れます。」
「・・・ルト、私・・・ずっと前からルトの耳を触りたかったの。ごめん、もう我慢できない!」

 カプ。

「~~~!」
「はい、終了。」
「ブレイク、ブレイク。」
 アルクとリテが間に入り、私たちを引き離す。

 あぁ、私の耳が・・・!

「さ、次は僕の番ですね。」
 顔を赤くしてうずくまるルトもとい耳を見ていたら、リテにさえぎられた。目の前に差し出されたカードを、私は一枚引いて見た。

「・・・え?いや・・・これは。」
 恥ずかしくて、リテの顔が見れず、視線を床に固定する。

「おいおい!何を引いたんだ!」
「ふふふっ。楽しみですね。」
 アルクは、私からカードをひったくるように見て、息をついた。

「なんだ、ハグか。」
「ふふっ。ルトの耳には嬉々として噛みつき、僕と抱き着くのは恥ずかしい・・・ルトはペット枠ということですね。」
「・・・僕は奴隷ですから。ペットでもいいのです。それに・・・僕は今幸せなので。」
 私の視界にリテの足が入り込む。すぐそばにリテが来ていた。

「サオリさん、いたずらしてくれますよね?」
「・・・うん。」
 断るのも失礼だ。私は意を決して、ゆっくりとだが・・・リテの背後に手を回した。恥ずかしくて仕方がない。おそらく顔は真っ赤だろう。

「ありがとうございます。」
 ゆっくりと体を離す。この部屋、暑いな。

「よし、次は俺だな。」
「・・・」
 なんだか、もう疲れた。これ、今日でないといけないのだろうか?

「それではサオリさん、アルクの分のいたずらを選んでください。」
 差し出されたカード。時間をかけてもしょうがないので、さっさと引いた。

「・・・このカードって、誰が作ったの?」
 カードの内容を見て、先ほどの恥ずかしさなど吹き飛んだ。

「あぁ、これは魔王討伐隊のメンバーに書いていただきました。」
「え、あのカードがこれなんですか?」
「そうですよ。気づきませんでしたか?」
 呑気にリテとルトが話をしているが、私はそれどころではない。

「おいおい、何が書いてあるんだよ、そのカード。」
 アルクが私の顔色が悪いことに気づいて、カードを奪う。そして、アルクは引きつった顔をした。

「あぁ、僕はいたずらとか思いつかなかったので、ゼールさんに書いてもらったんですよ。たぶんろくなこと書かなかったでしょうね、あの人。」

 びりびり。
 私は、アルクからカードを奪って、破る。

「アルク、いたずらされたい?」
「いやいやいやいやいや!・・・あれは、いたずらじゃねーぞ・・・うん。リテ、さっきのは無効だ。お願い、本当頼むから。」
「・・・いったい何が書いてあったんですか?」
「言えるわけねーだろ。ほら、サオリさっさと引けよ。」
 リテから奪い取ったカードを差し出すアルク。意見は完全に一致した。私は、カードを引いた。



 数分後。顔に落書きをされたアルクは、心底ほっとした様子で私の部屋を出た。
 ルトとリテも満足そうに部屋を出た後、私の前に現れたオブルと共に、ゼールの屋敷へと移動した。

 トリックオアトリート。

 お菓子をありがとう。お礼に、あなたの望みを叶えよう。


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