死神勇者は狂い救う

製作する黒猫

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110 いたずらされたければ、お菓子をよこしなさい!

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 指名手配犯「死神ピエロ」は、誰もが一度は耳にしたことがあるほどの知名度を誇り、魔王の次に人類の敵認定された存在だ。いや、魔王亡き今、そもそも魔王を倒したのが死神ピエロであることを踏まえると、危険度は魔王よりも上に位置づけられるだろう。

 とにかく、人類の敵となった勇者「死神ピエロ」は、未だに生き延びている。



 というか、指名手配されてるけど、あまりに危険すぎて検問も素通りさせてくれるから、楽だよね~



私達は普通に旅を続けている。時々現れる賞金狙いや馬鹿な正義感を振りかざしたやつを殺しまくってるけど、毎日楽しく過ごしていた。それは今日も同じこと。



 黒いマントを羽織ったルトが、おいしそうなケーキを持って私の前に現れる。可愛いな。どこか既視感を覚える光景、想定の範囲内の私は赤のコートをマント風に羽織って、昨日なぜかゼールに渡されたティアラを頭に乗せた。きっとこのためだったのだろう、何でティアラに猫耳?合ってないでしょ?と思ったが、一応仮装のつもりだろう。

 テーマは、猫の女王?化け物感をあまり感じないが、前の世界でもコスプレ大会のようなものだったので、この程度でいいのだろうと納得し、役になりきる。



「跪きなさい。いやしくも「いたずら」を望む愚かなわんちゃん。いたずらされたければ、お菓子をよこしなさい。」

「あ・・・サオリ様・・・どうぞ、お納めください。この愚かな犬が、ない頭を絞って作った、あなた様だけのケーキを!」

「・・・」

 頭を絞って・・・?え、それは比喩だよね?

 完璧な女王を演じたつもりだが、ルトの返しに戸惑って答えが返せない。うわーーーーーだめだ、一年前から何も変わってない私!確かに、確かに!気づいたのはつい10分前のことだけど、時間は確かになかったけどこの体たらくはないだろう!



 去年はハロウィンと知らずにお菓子を用意できなくて、なぜかみんなからお菓子をもらって、みんなにいたずらするという謎な1日になった。それを経験して、次は自分もお菓子を!いや、いたずらされたいわけじゃないけど、もらうだけじゃ申し訳ないから・・・とにかく今年は参加するつもりだったのに、気づいたのが10分前。

 仕方がないから去年と同じ感じの流れに持っていき、去年とは違って仮装と演技で参加しようと思ったのに!駄目だ。



「ありがとう、ルト!」

「もらっていただけて嬉しいです!」

 諦めよう。演技は諦めよう、うん。でも、今回は私がいたずらを進んでやろう!ちょっといいのを思いついた。うん、今年は邪魔者がいないからね・・・ふふっ。



「それじゃ、ルトに今年も悪戯するね?」

「あ・・・はい、よろしくお願いします。」

 去年のことを思い出したのか、赤くなったルト。私より背が高くなって、私が見上げるようになったルトだが、今は跪いているので私を見て上目遣いのルトを見下ろす形となる。

 あ・・・これはちょっといいかも。ん、まずいな。あの変態の影響を私も受けているのかもしれない。でも、いい!



「それじゃ、目を瞑ってくれる?今からルトに悪戯するけど、私がどんな悪戯をしているか当てたらやめてあげる。当てるまで続けるけど、いい?」

「もちろんです!たとえ首が飛んだとしても、僕は当てるまで目を瞑っています!」

「いや、そんなことしないから。」

「わかっていますよ。はい、目を瞑りました。」

 銀の髪からのぞいていた金の瞳が隠れる。しっぽは期待を表してパタパタとせわしなく動き、耳はこちらの方に傾いている。一体何をされるのか、私の一挙手一投足を耳で探っているのだろう。



 私は立ち上がってルトの前に立つ。ルトの体に手を置いて、軽く口を開けて目的のものを口に含んだ。



「はむ」

「んっ!?」

「はむはむ・・・どう?」

「・・・しあわせ・・・」

 それはこちらのセリフだ。去年はここで悪戯終了だったが、今回は邪魔をするものがいない。いや、一度聞いてみよう。



「違うよルト。私が何をしたのかわかった?て聞いたの。」

「は、あ・・・み・・・耳に、息を吹きかけられましたぁ・・・」

「はずれー・・・はむ」

「ふむぅ!」

 ルト、わざと外したね?いいよ、私ももっと堪能したいと思っていたから。それにしても、本当に食べてしまいたいくらい魅力的だ。1年、いやもっと前から鍛え続けてきたルトは、程よく筋肉がついた身体をしている。なのに、ここはどうだろうか!?

 少し力を入れれば噛み千切ってしまいそうなほど柔らかくて、ルトが声を出すのを我慢しているのを表す様に震えている。



 可愛すぎる。しゅんとなれば垂れ下がり、ぱぁっとなればせわしく動き始めるこの耳!しっぽも捨てがたいけど、やっぱり耳だよね。

 ちょっとだけ、本当にたまに、ふとした拍子に、噛みつきたくなる。それがルトの耳だ。でも、いくらルトが私のいうことを何でも聞いてくれるとしても、耳に噛みつきたいなんて言えない。だから、この日は合法的に、悪戯としてルトの耳に噛みつける素晴らしい日だと思う。



「う・・・はぁ・・・ん」

「はむはむはむはむはむはむ」

「しゃお、りっしぁま・・・」

「あ、ごめん。理性が飛んでた。で、どんな悪戯をされたかわかった?」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・すぅーーーーはぁーーー・・・」

 大きく深呼吸をし、ルトは真顔になった。これはあれだ・・・情けない姿を見せるわけにはいかないという、ルトの謎の意地だ。



 まぁ、ずいぶんいい顔をしていたので、この辺でもう終わりにしたほうがいいだろう。犬なら、大好きな主人にお腹を撫でまわされてご満悦な顔をしていた。



「肩もみですね。流石サオリ様、悪戯にも気遣いが見られます。」

「・・・・・・・・え、それは本気なの、ルト。」

 確かに肩に手は置いているが、肩もみではないことは明らか。これはまさか、続行の意思表示?いや、待て私。これはルトの天然ガ炸裂したのではないか?そうだ、きっとそうだ。



「なら、続けるね・・・はむっ・・・わかった?」

 一度だけ噛みついて、すぐに聞いた。これ以上は危険だと感じたのだ。これ以上続けると、犬なら主人に撫でまわされてうれしくておもらししてしまった、と同じような結果になるのではないかと思ったのだ。つまり、お互い気まずい。それは嫌だ。



「いま、何かしましたか?」

「・・・!?」

 なんということだ!!私が耳を噛みつきすぎたせいで、神経がすり減って機能しなくなってしまったのかもしれない!?



「ルト、大丈夫なの!どこか異常はない?耳に違和感を感じるとか・・・」

「問題ありません。そうですね、耳にキスをしましたか?」

「・・・ルト、それがあなたの答えなの?」

「はい。間違いであるなら続けてください、サオリ様。そういうや・く・そ・くでしたよね?」

「・・・」

 ごくり。私は、もしかして取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。だが、後戻りできないなら進むしかない。自分で言ったことだ、責任はとろう!



「わかったルト、私も本気を出すよ。」

 羽織っていたコートを椅子の上に投げ出して、再びルトの肩に手を置いた。

 ルトの耳もとで呟く。



「おいしそう・・・ルトの頭にあるふわふわの毛が可愛らしい耳、本当においしそう。これはちょっと噛みつきたくなる。」

「・・・っ」

「はむ・・・」

 どうだ!?かなりヒントを呟いた。これはさすがに答えるだろう。これで答えなかったら、自分は馬鹿ですと認めているようなものだ。そんなこと、ルトは絶対にしな



「僕の耳毛抜きましたか?」

「ぐふぅ!・・・ルト・・・」

 まずいって。何がまずいって?ルトが可愛すぎるのがまずい!確かに毛の話はしたよ、したけど・・・抜くって、そんなことするわけないし・・・そんな下手な回答をしてまで悪戯されたいって、どんだけ可愛いの!



「だめ・・・また噛みつきたい。」

「サオリ様、まだ終わっていないですよ?」

「でも、これ以上は・・・」

「サオリ様は、ご自身で言ったことを覆す方ではありません。自分が口にしたことに責任を取れる立派な方です。ね?」

「・・・はむ!」

 もういい!私はこの耳に噛みつきたい!もうどうとでもなれ!



 ひたすらルトの耳を堪能し、ゼールが部屋に入ったことにも気づかなかった私は、いつかのハロウィンのようにブレイクされ、愛しい耳と離れることになってしまった。



「これはちょうどいいですね。狼は使い物にならなそうなので、サオリさん私ともハロウィンを楽しんでいただけますよね?トリック オア トリート・・・」

 にっこり笑ったゼールは、私にお菓子をねだった。しかし、私はお菓子を用意していない。まさか・・・



「お菓子を頂けないのなら、悪戯するしかありませんね?では、ちょうどサオリさんの悪戯も見せていただきましたし、参考にさせていただきましょう。」

「ひっ!?嘘でしょ、ゼール!」

「や、やめ・・・サオリ様に、手を出すな!うっ!?」

「あざと狼は黙ってそこで見ていなさい。さぁ、サオリさん・・・いたずらされるお時間です。」

「・・・!?」

 へたり込んで動けないルトを軽く蹴飛ばしたゼールが迫る。

 私のを参考って・・・嘘、あれを私がやられるの!?なんで、私なんて普通の耳をしているのに!噛みついてもいいことないよ!?



 気が動転して動けない私の肩を掴んだゼールが、顔を近づけてきた。



 あ・・・・・・・





 きれいな水が流れる川の前で、私は大きく深呼吸をする。

 わりと最近で一番の身の危険を感じたよ全く。



 すばらしき移動魔法に感謝をささげ、私のハロウィンは終わった。





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