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15 目覚め
しおりを挟む朝。サウスが俺を叩き起こし、無理やり外へと連れだした。
「さ、今日も素振りをやりましょう!新しい剣で心機一転、張り切っていきましょう!」
「嫌だ。」
「やってください。ただでさえ弱いのですから、少しでも強くなって頂かないと困ります。」
サウスは、俺の手に剣を握らせるが、俺はそれを地面に落とした。
「無駄だろ。」
「何がですか?」
とぼけるなと怒鳴りつけたい。何の才能もない俺が、努力したって魔王になんて届かない。それは、昨日3人で再確認したことだろうが。
「どうせ、死ぬ。それが早いか遅いかだけだ。」
「確かに、魔王と対峙すれば、ほぼ間違いなく死ぬでしょう。しかし、今のあなたではその前に死にます。」
「わかっている。だが、それがなんだ?」
俺は、この旅が始まってすぐに思いついたことを、思い出していた。2人が助かる方法。死ぬ運命にある3人が、2人だけは助かる方法を。
「早い方が、お前たちのためだろう。」
ぽつりと、口からこぼれてしまった言葉。その声は小さかったが、サウスには聞こえていたようで、息をのんでいた。
俺は何を言っているんだ?これじゃまるで・・・
「勇者様!?」
俺は、走り出した。この場から離れたくて、とにかく走った。
俺は、早く死にたいのか?違うだろ?少しでも長生きして、俺の力が覚醒するのを待っているのがベストだろ?
走っていた俺だが、すぐに体力の限界が来て、歩き始めた。どうやらサウスは追ってきていないようだ。
カラン。何かを落とした音が聞こえ、自然とそちらを見れば、そこは路地裏だった。
そこにいる、ぼろ雑巾のように汚い女。近くにはビンが転がっている。
汚い。それくらいのことしか思わない。
決して、助けたいとか、何かできることはないか、という考えなど浮かばない。そんな俺は、普通だと思う。
鈴木が好きな物語の主人公は、ああいうのを好き好んで助け、惚れられて、みんなで幸せに過ごすような人物だ。はっきり言って狂っている。
だが、勇者ってのはそういう者だろう。だから、俺は、勇者じゃない。
勇者じゃないのなら、希望なんて抱けない。
俺も、あの女も変わらない。
俺は、不潔ではないし、衣食住に困らないが、死がすぐそばまで迫っているところは同じだ。
「このまま、逃げれたら。」
幸い、サウスは追いかけてこなかった。しかし、それはその気がなかったから。追跡者が2人ならまだ希望はあったかもしれない。だが、俺を追う者は国単位だ。
「無理な話か。」
俺の状況は、きっとこの女より最悪だ。なぜなら・・・
キンッと、硬質な音を立て、女の前に何かが落ちた。それは、太陽の光を反射して、きらきらと輝いている。
「金・・・貨?」
女のかすれた声が俺の耳に届いた。
これで女は何ヶ月か、不自由のない生活を送れる。あとのことは知らない。だって、俺は勇者じゃないから。
「全く、青いの。物を知らん。」
勇者の様子を陰からうかがっていたロジは、面白そうに笑った。
「だな。あの女性が金貨を使うのは難しい。逆に、使えば無実の罪に問われるかもしれない。だが・・・」
勇者は、2人に背を向けて歩き出していた。朝日が照らし出す勇者は、普段は感じられない特別なものを感じる。
「そんな彼だからこそ、死なせてはならない。」
「じゃな。」
「しかし、あのような使い方をするのなら、銅貨や銀貨を渡しておけばよかったの。」
フォフォフォと笑うロジの目は、優しく細められて孫を見るようなものだった。
2人は、頃合いを見て、勇者と合流し、旅を再開させた。
次に目指すのは、第二の首都と呼ばれる、ルマス。王都に引けを取らないほど発展したルマスでは、多くの商人が出入りをし、様々な文化が混ざる場所。そこでは、欲しいものは何でも手に入るとまで言われるほど、様々なものがあふれる都だ。
「どうせ、死にゆく身じゃ。」
それは、もう彼らの口癖になっていた。
「ならば、大いに楽しもうではないか。のう、小僧?」
考えが後ろ向きになっていた俺だが、ロジの言葉に同意した。どうせ死ぬんだ。なら、この懐の重いものをすべて使ってしまうくらい、楽しく生きればいい。
「そうだな。死んだら、それで終わりだ。なら、終わる前に、めいいっぱい楽しむか!」
カラ元気なのかもしれない。でも、俺は笑った。
「楽しむのはいいことです。しかし、鍛錬はしてくださいね。嫌と言っても、させますから。」
サウスの言葉に俺の笑顔は、ひきつった。
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