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犠牲者たち

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 俺は、人を殺した。それで天国にいって、数年間そこで過ごし、また同じ場所へと戻された。そこは変わらず、俺に飢えを与える場所だった。





 天国で暮らしていた俺は、昔のやせ細った体ではない。満足の行く食事に、規則正しい生活のおかげで、たくましい体つきになった。だが、俺の目はどこか淀んでいた。









 天国への行き方は知っている。





 俺は、持たされたお金である物を買い、あの場所へと行った。



 そこは、俺の恩人が死んだ場所だ。





 寂れたビルの間の薄暗くじめじめとした場所。生ごみが置いてあるような場所だ。ひどい匂いがする。



 ここで恩人は死んだ。俺が殺したのだ。







「大丈夫ですか?」



 唐突に聞こえた幼い声に驚き、俺は辺りをうかがった。



 よく見れば、ビルの間に少年がうずくまっている。その顔は青白く、手足は木の枝のように細かった。





「大丈夫は、こっちのセリフだ。」



「でも、顔色が悪いですよ。」



「お前の方が悪いと思うぞ。」



「そうかもしれませんね。」



 少年はそう言って、はかなく笑った。



 聞かなくてもわかる。少年は俺と同じなのだと。あの頃の俺と同じように、何日もまともな食事をとっていないのだろう。





 俺は、これを運命だと思い、覚悟を決めた。





「お前、天国に行きたくないか?」



「天国・・・そうですね。行けるといいな、とは思っています。」



 昔の俺とは違い、少年は自分の死と向き合っているようだった。俺は、近くにある、日の当たる場所で時を刻む、公共の時計に目を向ける。ちょうどいい時間だった。





「なら、天国への行き方を教えてやるよ。」



 そう言うと同時に、俺は買ったものを地面に落とした。



 それは、言うまでもない。ナイフだ。





 俺の恩人が俺にそうしたように、俺は少年に天国への行き方を説明した。





「俺を殺せばいい。時間はない。もうすぐ治あ



「そんなことできません!」



 俺が説明を終える前に、少年は叫んだ。



 あぁ、彼は俺とは、俺らとは違うのだ。





 まっすぐに俺を見る少年は、澄んだ目をしている。





「もし、人を殺して天国に行けるというのなら・・・」



 少年は、ナイフを拾った。そして、そのナイフを俺に向ける。ナイフの柄の部分が、俺に向けられていた。





「どうか、あなたが天国に行ってください。」



 はかなく笑う少年を眩しく思った。









 名前も知らない、背の高い男は、俺の恩人で殺人鬼だった。



 名前も知らない、はかなく笑う少年は、俺の恩人で俺とは違う澄んだ目をしていた。





 恩人たちは、哀れな俺のためにその命を捧げ、俺を天国に連れて行ってくれた。







 これが、とある殺人鬼が精神病院で残した日記だ。



 哀れだったのは誰か。2人を殺したのは、殺人鬼を生んだのは誰だったのだろうか?





 その答えは、あなたの胸の中にあります。







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