恩人召喚国の救世主に

製作する黒猫

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5 乗騎

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 召喚されて一週間が経ち、カンリは初めて城外へと出ることになった。

 執事のランズを伴って中庭へと出たカンリ。ここで今日行動を共にする者たちと合流する予定だ。10人程度の人が集まって固まっている。遠くには、魔物だろう。しつけの行き届いた魔物たちが行儀よく待機している。



 快晴、吹く風も気持ちがよく、散歩日和だ。しかし、カンリは別に散歩に行くわけではない。これから自分のパートナーとなる乗騎を捕まえに行くのだ。



 乗騎は、一般人は馬で十分だが、戦いに参加する兵士の中で飛びぬけて強い者などは、相手にする敵もそれ相応の強者になる。そうなってくると、ただの馬では足手まといになってくるのだ。なら、そんな強者は何を乗騎にするのか?答えは魔物だ。



 そんな乗騎になる魔物を今日捕まえに行くのだ。



 え、用意してくれないの・・・と思ったカンリだが、用意することもできるが馬だといわれ、パートナーになる者が弱いと困るのは自分だといわれれば、自分で強い者を捕まえに行こうと思う。



 立ち止まって、遠くに待機している魔物を眺めるカンリに、一人の男が声をかけてきた。



「初めてだな、ヒックテイン・パグラントだ。今日はお前の護衛がわりをすることになっている。変なことはするなよ。」

「・・・パグラントって・・・」

 ケイレンスとアスレーン、プレイナと同じ苗字・・・つまり、王族だ。ヒックテイン・パグラント第二王子。金の髪に赤い瞳を持つ、勝気な青年だ。



「これで兄弟制覇だな、おめでとう。さ、俺の愛馬に乗せてやるよ。」

「え、ちょっと・・・」

 肩を抱き寄せられて困惑するカンリを気にした様子もなく、ヒックテインは自分の乗騎の前までカンリを連れて行き、さっさと騎乗した。



「・・・愛馬?馬じゃない・・・」

「細かいことは気にすんな。ほら、手を貸してやる。」

 ヒックテインの乗騎は、グリフォンと呼ばれる魔物だ。カンリは大きな鷹だなぁ、と思うだけでそれ以上は聞かず、ヒックテインの手を取った。



「ツキガミ様・・・」

「どうしたの、ランズ?」

 グリフォンに乗るカンリたちを見上げているのは、カンリ付きの執事ランズ。カンリよりも少しだけ背が高い彼だが、他の男性と比べれば背は低くそれを気にしているようだと、カンリは思っている。それは、彼が厚底の靴を履いていることを知っているからだ。



 見下ろして、ランズの自尊心を傷つけてしまうかもしれないと、少しだけ悩むカンリの心情など知らずに、平然とランズは続けた。



「よろしければ、私がお運びいたします。今日初めて会った男性では不安もあるでしょう。」

「おい、俺が何かすると思っているのか、お前は。」

「いいえ、そのようなことは。ただ、女性は異性というだけで警戒心を抱くものなので。」

「それは知らなかった。だが、今日俺はこいつの護衛を頼まれている。こいつと離れるわけにはいかないんだ、我慢してくれ。」

「・・・ツキガミ様。」

「ありがとう、ランズ。今日一日くらい平気だよ・・・」

「・・・出過ぎた真似を、申し訳ございませんでした。」

 すっと頭を下げて、ランズは自分の乗騎の元へと消えていった。驚くことだが、執事であるランズも、今日付いて行くのだ。いや、今日だけではない。彼は、どこまでもカンリに付いて行くというのだ。カンリ付きだからだと。



「執事って、みんなあぁなのかな・・・」

「は?」

「いや、執事って、主の帰りを待つような・・・その、買い物とかには付き合うけど、戦うことになりそうな場所にも付いて行くものなのかって・・・」

「何が言いたいのかわからんが、あいつはお前付ということで特殊な立場にいる。あれが普通の執事だとは思わない方がいい。さ、お前の執事も騎乗したことだし、行くぞ。」

 飛ぶのか!?と思ったカンリは、ヒックテインのグリフォンに巻き付けてある革ひもを掴み、身体を固くした。



 高所恐怖症というわけではないが、空を飛んだ経験はないので・・・いやあったか。屋上を飛び降りたことを思い出して訂正するカンリ。しかし、そんな管理の予想を裏切り、グリフォンは飛ばなかった・・・



「・・・飛ばないの?」

「なんだ、飛ぶと思っていたのか?まぁ、確かに翼があるからな・・・」

「これは、飾り?」

「んなわけないだろ。こいつはちゃんと飛ぶ。だけどな、俺以外に飛ぶ愛馬を持っているのは、お前の執事だけだ。まさか、あいつら全員置いて行けなんて言う気か?」

「あー、飛ぶには飛ぶってこと?」

「飛ぶ。それは鳥のように飛ぶぞ。」

 ヒックテインの乗騎は飛ぶが、今は飛ぶときではない。鳥のような前足と、獣の後ろ脚を動かして走るグリフォン。その足で走るのかと、カンリは心の中で驚いていたが、声には出さず顔にも出さず、ただ前を見た。



 だが、一つだけ言わなければならないことがあったので、それだけは言うことにした。



「飛ぶ時は言って。」

「なんだ、怖いのか?」

「・・・わからないけど、きっと驚くと思うから。」

 飛び降りた時は、特に恐怖を感じなかったカンリ。おそらく恐怖はないだろうが、驚く可能性はあるので、事前に申告することを約束してもらった。





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