12 / 41
12 目的
しおりを挟む人と魔族が争う戦場に、一騎のドラゴンが参戦した。いや、ドラゴンに乗った、一人の少女が戦争に加わったのだ。
魔族が1人人間を倒す時間に、少女は10匹の魔族を倒していく。魔族10人分の働きをする少女を見て、ひとりの魔族が腰を上げた。
「俺が出よう。」
少女が相手をしている四本足の魔族とは違い、2本の足でしっかりと立つ魔族の姿は、肌の色が紫ということを除けば、人間の様だった。
「一番人間に近い姿をしている俺が出て、相手の反応をうかがうとしよう。どう見たって、あの強者は素人・・・どこかの世界から召喚された、一般人だろう。人間たちは、俺たちのことをどう説明したのだろうな?」
嫌らしい笑みを浮かべて、魔族の男は自分の乗騎であるワイバーンにまたがった。ドラゴンよりは劣るが、グリフォンよりは格上の最上級とも言われた乗騎。そもそも、ドラゴンを乗騎にすることがイレギュラーなのだ。
一般的な範囲で言えば、ワイバーンが最上級の乗騎だ。そんなワイバーンにまたがる男は、今は亡き人間の王国の象徴を刺繍したマントをなびかせて、戦場へと向かった。
あらかたの魔族を血の海に沈めたカンリは、後方に下がって休憩をとっていた。用意された餌をトカゲに与え、ランズが用意したお茶を楽しむ。
外、戦場だとは思えないほど、質のいいお茶とおいしいお菓子、組み立て式ではあったが椅子と机、日傘まで用意されていた。
そこで優雅にお茶をしていれば、ヒックテインが現れた。
「これはさすがに引くな。」
「ランズが用意してくれたものだけど?」
「お前か。だが、用意されたからと言って、よくそう飲み食いできるもんだな?女っていうのは、血を見ただけで気絶する生き物だと聞いたのだが。」
「もしそうだとしたら、月に何回気絶するわけ?」
「・・・確かにそうだな。一緒にいいか?」
「うん。椅子はあるかな?」
「ご用意いたします。」
頭を下げて消えていったランズだったが、即座に戻ってきてヒックテインに組み立てた椅子を用意した。
一体どこから持ってきたのか不思議だったが、もしかしたら転移のギフト持ちなのかもしれないと、カンリはそれ以上考えるのをやめた。
「そういえば、後からお前の同級生だったか?あいつが合流するって聞いた。」
「へー・・・山本君も戦うの?」
「様子見だな。戦えるのなら戦ってもらって、無理そうなら見学だ。戦えれば戦力になるが、戦えないならただのお荷物になるな。」
「戦えるとは思うけど、どうだろう。戦えない方が得だって考えれば、戦えないふりをするかもね。」
「うわーめんどくせー。お前らさ、命を助けてもらったわりには、非協力的というか・・・ちょっと俺の想像と違ったわ。」
「命を助けられた、つまり命の恩人か。・・・確かにそうだね。」
召喚されなければ、カンリは間違いなく死んでいた。それはわかったが、でもそれをあの時は望んでいたので、どうも恩人という意識は無い。
「召喚のギフトを使って召喚された者が召喚者に協力するのは、命の危機に召喚されるからだと聞いた。なるほどって思ったんだがな。俺だって、死ぬという時に召喚されて間一髪で助かれば、それを成した相手の助けになろうと思う。」
「・・・まぁ、人それぞれじゃない?」
「そういうものか?こうも違うと、住む世界が違うというのがよくわかるな。」
カンリは命を助けられたという意識は少ない。だが、山本はどうだろうか?彼は、計画が狂ってしまい、報いを受けるように命を落とそうとしていた。だが、それに納得するような男ではないので、死を受け入れようなどとは思わなかっただろう。
命を助けられ感謝した可能性が高い。だとしたら、彼は本気で召喚した国、ザキュベのために力を尽くそうと思うのだろうか?
カンリにはわからなかったが、山本は本気で他人のために力を尽くすようには見えないと感じているので、この世界でも自由に暮らすのだろうとなんとなく思った。
別に、どうでもいい。
カンリは、学校の屋上で身を投げた時、もうすべてがどうでもいいと思ったのだ。それが、この世界に来て希望を抱くことになって、その希望だけは見つけたいと思っているが他は変わらずどうでもよかった。
希望、それは親友を探すこと。
小沼花菜こぬまかなは、カンリの唯一の親友で、馬鹿なところがとてもかわいい、ちっちゃい背もかわいい、ぷくっと膨らんだ頬もかわいい、すべてがかわいいとカンリが思う同級生だ。
そんな彼女を失って、でも彼女の死体を見ていないカンリは、この世界に来たことで希望が生まれた。
彼女もこの世界に召喚されているかもしれない。カンリや、山本君と同じように。
それが、彼女がここにいる理由だった。それがなければ、カンリはもう一度身を投げていただろう。
彼女のいない世界に意味などないとでもいうように、あっさりとその命を落としたことだろう。それだけ、カンリにとって花菜は大切で存在意義ともいえるほどの人物だった。
テーブルの下で、こぶしを握り締めて自分がここにいるのだと改めて認識し、誓う。必ず、この世界にいるだろう親友を見つけ出し、寄り添うと。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる