恩人召喚国の救世主に

製作する黒猫

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23 人間は無理

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タングット城が魔族の手に落ちて、タングット城に残っていた王族と兵士は魔族に下った。それでもタングット王国は諦めず、残った兵士でパグラント王国に近い位置にある砦で魔族を迎え撃つ構えを示した。

一度パグラントに戻った私達だったが、その砦が落ちれば次はパグラントの地が戦場と化すことを嫌った国によって、砦に援軍として送られることになった。



 パグラント軍は、砦から少し離れた場所を拠点とし、テントのような拠点だった。テントの一つを与えられたカンリは、テントのすぐそばでトカゲにえさを与えている。



「ぎゃうぎゃーう!」

「・・・私から与えられた餌でないと食べないんて・・・不便な子だね。」

「では、自分で餌を調達してもらいましょうか。私にいい考えがあります。あちらの方角に、質のいい肉がそれはもうたくさんあるので、それを主食としてもらうのはいかがでしょうか?」

 そういってランズが指さした方向は、旧タングット城・・・魔族が占拠した城がある方角だった。



「いや、あんな色からしてヤバイもの食べちゃダメでしょう!トカゲの腹が壊れたらどうするの!?」

「ですが、栄養価は高いと思いますよ。脂身は少ないでしょうが・・・魔力たっぷりの筋肉質な肉・・・色にさえ目を瞑ればいいと思いますが。」

「色は重要だよ!キノコだって、紫色の傘のキノコとか食べないでしょ!それと同じだよ!もしも毒がなかったとしても、精神的にお腹壊しそうだから!」

「きゃうきゃうっ!」

「ほら、トカゲもそう言って・・・え、トカゲ・・・」

 そこには、魔族が占拠した方角をよだれを垂らしながら見るトカゲの姿があった。



「いやあぁああああっ!」

「一石二鳥でいいと思いますが。」

「あんなもん食べたペットとか、いやだ!」

「きゅうぅうう・・・」

 カンリの言葉を聞いて、トカゲは魔族は諦めるというように視線を下げた。なんだか可愛そうに思えてきたカンリだったが、魔族との戦いの最中によだれを垂らしながら戦うトカゲを想像し、妥協はできないと思った。



 餌をあげ終えたカンリの耳に、喧噪が届いた。確かに多くの人間が集まっているので静かではないが、ここまで騒がしくなったことはない。胸騒ぎがした。



「ツキガミ様、中へお入りください。私が様子を見てきます。」

「・・・わかった。」

「トカゲ様、ツキガミ様をしっかりとお守りください。」

「きゃう!」

 ランズは私をテントに入れると、すぐに消えた。遠のく足音も聞こえなかったが、ランズはいつもそうなので気にしない。たぶん、特別なトレーニングでもしているのだろう。

 城の執事って大変だな・・・







 ランズを大人しく待っていると、どたどたとうるさい足音が近づいてくるのが聞こえた。まっすぐカンリのテントに向かう足音は、もちろんランズのものではない。



 何かはわからないが、トカゲが止めてくれるだろうと思って、カンリは武器を手に取るだけにとどめた。



「ぎゃうっ!」

「どけ、この魔物がっ!」

 トカゲのうろこに剣があたった様な音が聞こえた。何度もそのような音が響いてカンリは飽きれる。おそらく、剣の刃は潰れているだろう。それだけトカゲのうろこは固いのだ。

 その時、ゾクリと悪寒を感じたカンリは、とっさに前へと踏み出して振り返った。



 びりっ!

 テントを切り裂いて中へと入ってきた男が、カンリに剣を向ける。装備を見るとタングットの兵士だった。



「な、どういうつもり!?」

 砦から来た兵士だと思っての言葉だが、言ってから魔族に下った兵士かもしれないと思いなおす。しかし、目の前の男はどう見たって魔族には見えない。

 肌の色は紫でなく、動きは凡庸だ。



 魔族に下ったものは、例外なく・・・いや、例外はカンリの親友というものがあったが、それ以外は魔族に変えられると聞いていた。

 しかし、こうして内部にまで侵入するなら、人間のままの方がいいだろう。



 カンリは、剣を構えた。だが、いつもとは違って腰の引けた構えだ。



 なぜか感情が揺れ動いて戸惑うカンリに、男は容赦なく斬りかかった。カンリはバックステップでかわして、テントの外へとでる。光にひるんだ男、余裕ができたカンリは周囲をざっと見まわして状況を把握する。



 トカゲは、3人のタングット兵の相手をしているが、余裕がありそうだ。ただ、カンリと同じ人間なので、対処に悩んでいる様子。始末するように命じれば瞬殺だろう。

 周囲には仲間のパグラント兵が10人程度いるが、トカゲの戦闘にどう加わればいいのかわからないといった様子で、距離を置いて様子をうかがっている。

 2,3人がこちらに気づいて、一人がこちらへと向かおうとしている。



 カンリは目の前の男に視線を戻して剣を構えなおす。だが、やはりいつもと違った感じになってしまい。腰の引けた構えだ。



「・・・ランズ!」

 自分では駄目だと判断し、執事を呼ぶが返事はない。分断させられたのだろうと察して、ギリっと奥歯をかみしめた。



 カンリは、自分が人間に刃物を向けることはできないのではないかと感じていた。だから、城での練習を辞退し、森などで魔物を狩っていたのだ。

 その直感は正しいのだろう、いつものように剣を構えられないでいるカンリがその証拠だ。



 斬りつけることはできない。だが、守りに入って時間を稼ぐくらいならできるかもしれない。ランズが来るまでの時間を稼ぐしかないと決めて、カンリは少しだけ調子を取り戻して剣を構える。

 ちょうど、男が距離を詰めて斬りつけるところだった。



 誰か、早く来て欲しいと、カンリは心の中で叫んだ。





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