恩人召喚国の救世主に

製作する黒猫

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30 戸惑い

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 気づいたときには、既視感のある浮遊感が襲っていて、乗っていたはずのグリフォンが遥か上空に見えた。



「ひぃっ!」

 情けない声が小沼花菜の口から洩れる。彼女はあの時と同じように、何かに助けを求めるように手を伸ばしていた。



 落ちている。あの時と同じように、落ちている。死にたくない、誰か助けて。そう心の中で叫ぶ彼女に、答えるものはあの世界ではいなかった。



 落ちる瞬間にカンリの顔を見たような気もしたが、いつも助けてくれるカンリが助けてくれることもなく、小沼花菜はその生を終えようとしていた。だが、別の世界にいた魔族が、彼女を救ったのだ。そう、この世界には彼女の叫びに答えてくれる魔族がいる。



 助けて!

 グラブリ様、マツェラ様、ゴムラ様、ゼバン様、ガーグル様!



 すでにこの世にいないグラブリの名まで心の中で叫び、涙を流して助けを求める彼女を、優しい風が受け止めた。

 徐々に減速した彼女は、優しい風を作り出したガーグルに受け止められる。



「はぁはぁはぁはぁはぁ」

「大丈夫だから、落ち着け。もう、大丈夫だ。」

「はっ、はぁはぁ、はぁ、が、はぁ、がーぐるっ、さ、ま・・・」

「あぁ、俺だ。だから、大丈夫だ。」

「わ、たし・・・はぁ、しんで、ない・・・ですかぁ?」

「馬鹿なことを言うな。お前はちゃんと生きている。俺たちが、絶対お前を守る、死なせたりなんてしない。」

「・・・よか、た・・・」

「城に戻ろう。・・・この落とし前は、ゴムラがつけるだろう。」

 そう言って、オオトリにまたがり、小沼花菜を抱えるガーグルは、戦場を後にした。本当なら、彼女の命を落とす原因になったものを風の魔法で切り刻みたいくらいだったが、今は彼女の安全確保が優先だと唇をかみしめて去る。







 その頃山本は、血を流しながら戦場を抜け出そうとする護衛の男の傷を抑えていた。



 すごい血の量に、護衛の男にあとがないことを感じ、山本は柄にもなく涙腺が緩みそうになるのを必死にこらえた。



 今まで、他人にここまで心を痛めたことが、山本にはなかった。痛い目に合った人間を見ても、自業自得、どうしてもっとうまく生きられないのか、などと下に見るだけだった。

 それが、今泣きそうになっている。



 僕は、弱くなったのだろうか?



「グラール様・・・申し訳ございません。」

「何が?」

「・・・おそらく、もたないでしょう。」

「・・・っ!」

 もたない、何が?聞くまでもない、護衛の体がだ。山本は血の気が引いて、寒くもないのに体が震え始めた。



「あ、う・・・こういう時、何を言えばいい?何をしてあげられるんだ?」

「そうですね・・・女性なら、最後にいい思いもさせて欲しいものですが・・・仲間だったら、お前の好きな酒をいくらでも飲ませてやる、なんていう人もいますね。」

「酒・・・僕には何がいいかわからない。何が好きなんだ?」

「いただけるんですか、嬉しいなぁ・・・」

「それくらい・・・当然だよ。」

 思わず傷を抑える手に力が入ってしまい、慌てて緩める山本。



「ごめん、痛かっただろ?」

「これくらい平気ですよ。むしろ・・・痛い方がちょうどいい・・・意識、失いそうなんです。情けない。」

「情けなくなんてないっ!君は、僕を守り切ってくれたし、僕の要望にも応えてくれた!君は、最高の騎士だ!僕にとって、君以上の騎士はいない!・・・いないよ。」

「・・・あぁ・・・いいですね・・・」

「なに、が?」

「・・・ふっ。」

「大丈夫か?」

「・・・綱を・・・」

「・・・っ。わかった。」

 傷口を左手で押さえて、右手で手綱を握る山本。震えてうまくつかめないので、手に巻き付けるようにして握った。

 護衛の声は張りのある声から、徐々に聞き取りずらいものへと変わっていく。



「・・・握っていて、ください・・・城まで、きっと、行ってくれます。」

「わかった。」

「よく・・・聞いて、ください。」

「よく聞くよ。何?」

「・・・生き残って・・・この体を・・・盾に使って・・・」

「そんなこと・・・やめてくれ。」

 護衛が死んだあと、敵に攻撃されれば防ぐ術はない。だから、護衛は自分の体を盾に使えと言っているのだ。以前なら、山本も言われずとも実行しただろう行動を想像し、涙があふれだした。



「しんだら・・・意味が、ない・・・の死に、いみを・・・・」

「・・・一緒に帰ろうよ。そうだ、一緒に・・・」

 このような問答は無意味と分かっていて、残り少ない時間を無意味な問答に費やすことはないと避けていた希望が、口を突いて出てしまった。

 愚か、馬鹿、自分を心の中で罵ったが、口は動く。



「回復魔法・・・誰か、城の人間なら使えるでしょ?・・・あと、少し頑張れば・・・っ!」

「グラール様。」

 ただ名前を呼ばれただけなのに、叱られた子供のようにびくりとする山本。怒られるのだろうか、飽きられるのだろうか、怯える山本にかけられた言葉は全く違うものだった。



「ありがとう、ございます・・・・・よかった・・・」

「え・・・え?」

 護衛の体が前に倒れる。必死で左手で支えて落ちないようにするが、重すぎて状態維持をするので限界だ。無理のある体勢、乗騎が嫌がるそぶりを見せた。



「うっ・・・くっ。」

 もう、死んだのだろう。なら、捨てたほうがいい。このままでは山本まで落ちてしまうし、山本一人の方が帰るスピードも上がって、安全な城へ早く帰ることができる。

 合理的な山本がそう呟いたが、今の山本は全く聞く耳を持たなかった。



「せめて、体だけでも・・・持ち帰らないと。くっ・・・」

 涙がとめどなく流れて、視界が悪くなる。



「あぁ・・・うぅ、くぅっ・・・なんで・・・」

 自分の心が分からない。涙が流れるほど悲しいと感じる自分の心が分からず、山本は戸惑いながら涙を流した。



 そんな山本の背中を、無慈悲な槍の魔法が貫いた。



「ぐはっ・・・がはぁっ?」

 血を吐いた。力が抜けて、護衛の男の体を支えきれなくなる、彼が落ちる。山本も落ちるが、ぐるぐる巻きにしていた手綱のおかげで落下を免れた。



 山本の目に、こちらを睨みつける魔族の姿が映る。その魔族は、先ほど小沼花菜の護衛をしていた魔族だった。



 自業自得。小沼花菜を殺した自分は、この魔族に殺されるのだ。



 山本はすべてを受け入れ、目を瞑った。





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