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32 カンリ
しおりを挟むトカゲに乗って、剣を振うカンリ。相手にするのは、四足歩行の魔物に近い魔族たちだ。
パグラント兵を襲う魔族を切り捨て、次の魔族へと剣を向ける。
人間に剣を向けることが難しいと判断されたカンリは、比較的魔物に近い容姿をした魔族を相手にすることになった。もと人間だったとしても、カンリ関係なく剣を振って命を奪う。
カンリが人間に剣を向けられないのは、別に人間を殺すことに忌避感があるからではない。カンリは特別な人間で、前の世界でも文武両道、誰よりも優秀で完璧だ。だが、人間として決定的何かが欠けている、もしくは完璧すぎる人間だった。
必要なものは必要、不要なものは不要だとはっきりと決めるし、実行できる。しかも、生きるためには周囲と同調することが必要なこともわかっていて、そのことを隠していた。
カンリには、小沼花菜だけが必要だった。だから、彼女が屋上から飛び降りた時、それが山本のせいだと分かって、もっと早くに山本を殺しておけばよかったと後悔した。
山本を殺した後には、無駄なことだとよく理解できて、どうしようもない喪失感に襲われた。
その時の気持ちが、人間に剣を向けると甦ってくる。それが、カンリが人間に剣を向けられない理由だ。
トラウマになっているのだろう。
ざしゅっ。
魔族を刺し殺す。
刃についた血を振り払って、上空へ。人がごみのように見える場所まで来て、カンリは息をつく。
「いつになったら、終わるんだろう・・・斬っても斬っても、まだあんなにいる・・・はぁ。」
「きゃう?」
「ブレスは駄目。見方も一掃しちゃうから・・・地道に斬ってくしかないかぁ。」
空を見上げると、太陽の位置から作戦が始まったことを理解する。その作戦は、山本が参加している、悪女討伐作戦。小沼花菜を殺すというものだ。
一度は、彼女を失って絶望し、死を選ぶほどだったカンリだが、もうカンリにとって彼女は不要となっていた。
「・・・かなちゃんは・・・死んだ。」
ぽっかりと空いた喪失感。それは親友を失った悲しみだけではない、自分が小沼花菜とは全く関係がない、縁のない人物になってしまったという状態のせいでもある。
小沼花菜は「不必要」なのに、なぜかそれがカンリの心に穴をあける。
「きゃーう?」
「・・・トカゲ・・・そうだね、穴なら・・・埋めればいい。」
トカゲの固いうろこをなでて、叩いた。
「?」
「いこっか!」
「きゃうきゃうっ!」
地上へと降りるたびに、むわっとした空気と埃っぽさ、血なまぐささが混ざり合った、居心地の悪さを感じる。
カンリは息を止めて、剣を構え狙いを定める。
ざしゅっ。
今日の戦いが終わって、拠点へとランズと共に帰還したカンリ。忘れそうになるが、ランズはずっとカンリと共にいて近くで戦っており、いつでもカンリを助ける用意をしている。
しかし、護衛としてきたはずのケイレンスは、今日は別行動だった。ランズ一人で十分なのでカンリは気にしていない。ランズも気にしていなかった。
「だいぶ汚れてしまいましたね。早速湯あみの準備をいたしましょう。」
「よろしく。ものすごく湯につかりたい気分だし。髪の毛ぱさぱさだよー・・・うわ、本当に砂が出てきた・・・」
髪をいじって出できた砂を見て、しかめ面をする。この世界に来てからというもの、カンリは表情豊かになった自覚がある。それは、親友といた時と同じような感じで・・・だから、もう彼女は不要なのだろうと頭によぎった。
「ツキガミ様、少々お待ちいただけますか?何やら報告があるようでして。」
「え、うんわかった。」
髪から目を外してランズを見れば、いつの間にか隣に兵士が立っていた。もちろんパグラントの兵士だ。あの事件以降、タングット兵は拠点に入ることを禁止されている。
こんな結束の取れていない状態で勝てるのだろうかと、結束が取れない原因でありながらも疑問に思うカンリ。ランズは、タングット以外の国が団結するからいいといったが、他の国もあまり協力的でないような気がする。一番協力的なのは、山本のいるザキュベだ。
今回ザキュベは、悪女討伐作戦の主戦力として参加する。山本が要となる作戦なので当然だろうが、今危機に瀕しているタングットが全く参加しないのには笑ってしまう。参加するのは、パグラントとザキュベだけだ。
今回ヒックテインがカンリのそばにいないのは、この作戦に参加したからだ。
作戦では、山本たちザキュベが、山本のギフトで親友を無力化し魔族の近衛側を混乱させる。その後ケイレンスたちパグラントが親友の近衛を攻撃。ザキュベは、損傷具合によっては後退。
この作戦で親友を倒し、より多くの力の強い魔族を倒す予定だ。
つまり、カンリの親友は本当に死んだ。
成功すればの話だが。
「ツキガミ様、お待たせしました。」
「・・・あの、ヒックテインの参加した作戦って、どうなったの?」
「失敗いたしました。」
「・・・失敗?」
「はい。悪女は無傷、近衛の魔族は数匹倒しましたが、悪女と同乗している魔族を取り逃がしました。」
「・・・ヒックテインは?」
「無事です。ですが、今日は・・・護衛として戻っては来ません。」
「何かってなことを言っているんだ。」
ランズの言葉を否定したのは、ヒックテイン本人だった。カンリの後ろから歩いてきたヒックテインは、何処か疲れた表情をしていたがそのままカンリと合流した。
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