恩人召喚国の救世主に

製作する黒猫

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33 生き残った

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 様子がおかしいヒックテイン。カンリは、とりあえず何か話をしようかと思い、今日の作戦について聞いた。すると、ヒックテインの表情は硬くなって、カンリはまずいことを聞いたことが分かった。



「聞いただろ、大失敗だ。お前の友達には逃げられるし、その護衛は想像以上に強くて、こっちの損害は馬鹿でかい・・・もう、同じ作戦は使えないだろうし、最後のチャンスを逃してしまった。」

「何度も同じ手は使えないよね。敵も馬鹿じゃないし・・・そんなに護衛は強かったの?確かに、魔族だから強いのだろうけど、ヒックテインだって強いでしょ?」

「桁違いの強さだった・・・あんなのを相手にできるのは、ケイレンスくらいだ・・・俺とあいつじゃ・・・」

 言葉を詰まらせて、ヒックテインは黙り込んだ。その顔は悔しさにゆがめられている。



「ヒックテイン?」

「・・・お前が、戦えれば・・・いや、悪い。何でもない。やっぱり、今日はもう休ませてもらう。ランズ、頼んだ。」

「賢明ですね。今のあなたは、私の主に失礼を働きそうですので・・・大怪我は負いたくないでしょう?」

「あぁ、これ以上はごめんだ。悪いな、カンリ。」

「いや、いいけど・・・大丈夫?」

「大丈夫じゃねーから、休むんだよ。じゃーな。」

 ひらひらっと後ろ手で手を振って、ヒックテインはカンリの元から去った。無神経だったかもしれないと落ち込むカンリに、ランズが微笑みかける。



「始末してきましょうか?」

「いやっ、いいから!いらないから!そんな気遣いいらないから!」

「さようですか。」

「それより、本当に何があったの?負けたのが悔しいって様にも見えないし、取り返しのつかない怪我を負っているようにも見えないけど。」

「取り返しのつかない傷を、負ったのですよ。目に見えない、心の傷を。」

「心の傷?」

「・・・ヒックテイン様のご友人に、メガネをかけたそっけない男がいたでしょう?サングートという名前の。覚えていらっしゃいますか?」

「あー、あのインテリの。」

「彼が、戦死しました。ツキガミ様の元ご学友の護衛の凶刃によって、その命を奪われてしまったのです。」

「っ・・・そう。」

 脳が、親友を失ったと思ったときの喪失感を追体験しようとしたが、カンリはそれをこぶしを握り締めることで止める。強く握りしめた拳の痛みが、カンリに現実を見せる。



「ランズは、ヒックテインよりも強いの?」

「えぇ。」

「・・・そっか。」

 カンリの強さはカンリ自身いまいちわからないが、もしもカンリが人間に近い魔族と戦うことに抵抗がなければ、作戦に参加していただろう。そして、そこにはランズも付いてくることになるだろうし、もしかしたらランズがいればヒックテインの友達は命を落とすことはなかったかもしれない。



 いや、そもそもカンリが親友と本当の絆を持っていたら、あの時親友は仲間になっただろうから、この作戦は必要なかった。

 もっと言えば、親友のいじめを止める力があれば、この世界に来ることはなかった。



「あなたが気を病む必要はありません。あなたは、この世界の事情に巻き込まれているだけなのですから。さぁ、今日はもう休みましょう。お疲れでしょう?」

「・・・本当に、そうかな。」

「どういうことでしょうか?」

「私たちが、異世界から来た私たちが、この世界をかき乱しているんじゃないかって・・・思っただけ。」

 カンリは、数百体の魔族を倒した。

 親友は、千近い魔族を癒した。

 山本は、そんな親友を自由に操ることができる。



 たった一人で、百、千単位の命を自由にできるカンリたちは、世界を乱している。



 生きるはずだった命を殺し、死ぬはずだった命を生かす。

 勝つはずだった魔族、負けるはずだった人類・・・3人の力によって、いまだに決着はわからない。それは、悪いことではないだろうか?いたずらに、争いの時期を伸ばしているような気さえしてきたカンリは、気持ちが沈んだ。







パグラント王国の城で、ケイレンスは膨大な仕事をひたすら処理していた。ヒックテインが戦争に行っている今、その分の仕事まで肩代わりしているので大忙しだ。



「ん、これは・・・あぁ、身代わりの腕輪の費用か・・・」

 庶民なら泡を吹いて倒れそうなほどのゼロの多さに、ケイレンスは眉をしかめた。

 カンリが壊してしまったアスレーンの身代わりの腕輪。その代わりを発注したのだが、用意するのに半年かかり、その金額は莫大。王族のみが許される魔法のアイテムだった。



「命には代えられないが・・・頭が痛い金額だよ、本当に。」

 相手が愛する兄弟でなければ、ケイレンスは腕輪が必要な人間を暗殺するほどの金額だ。しかし、ケイレンスは兄弟愛があるので、そのようなことはしない。

 兄弟たちは、兄が味方でよかったと心から喜ぶほど、ケイレンスは不要なものは切り捨てる人間だ。



 実際、邪魔な人間はサクッと暗殺して、自分の心の平穏を保つという選択を彼はよくとっている。



「ケイレンス様。」

「何?」

 唐突に降ってきた声に、驚くこともなく反応するケイレンス。声の主は、サックっといつも暗殺をしてくれる、影さんである。



「目覚めました。」

「わかった、今行く。」

 手に持っていた紙を机に置くと、指を鳴らして転移する。

 転移魔法は本来莫大な魔力を使うので、気軽に使えるものではない。大魔術師という存在でも1日に3回使える程度の魔法だが、ケイレンスは割とその魔法を使っている。

 その理由は、もちろんギフトにある。



 ケイレンスは、剣の腕で右に出るものは数えるほどしかいないという剣豪だが、実は彼の持つギフトは魔法を補助するものだった。

 ギフト「消費魔力軽減」は、その名の通り魔法を使う際の魔力量を抑えることができ、少ない魔力で強力な魔法も使えるというものだ。

 そんなケイレンスを兄に持つヒックテインも、魔法を補助するギフト持ちでケイレンスよりも高威力の魔法を使えるが、転移魔法は4回程度しか使えず、剣の腕も劣る。兄には勝てないと悟りを開いた今は平気だが、昔は劣等感にさいなまれていた。



 そんな、ヒックテインの劣等感がぶり返しそうなほど簡単に転移魔法を使って彼が転移した場所は、城の一室。もしもこれをヒックテインが見たのなら発狂するだろう。歩いて行ける距離に大魔法を使っているのだから。



 大きなベッドが置かれた寝室の椅子の上に転移したケイレンスは、足をくんでベッドの上で呆けた顔をしている青年に目を向け、挨拶をする。



「よく寝れたかな、グラール?」



 ベッドの上にいたのは、山本だった。







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