聖女の首輪

製作する黒猫

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13 出発

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 歓迎されて、特に嫌な気分になることなく日々が過ぎていく。ワーゼルマンとの結婚も済ませ、王妃や王女が主催するお茶会などに招かれたりして過ごす日々。王族としての教育もそろそろ始めるらしく、それだけが心配だった。



 そんな時、唐突に現れたワーゼルマンと共に、王に謁見することになった。なぜと思う暇もなく準備が整えられて、私は初めて謁見の間へ入った。

 緊張しすぎて、周囲を見る余裕はないが、大勢の人が静かにたたずんでいる雰囲気があった。息遣い、衣擦れなどといった小さな音が、大きな謁見の間のあちらこちらから聞こえて、誰一人口を開いていないのに大勢の人がいるというのが分かる。



 私は緊張のあまり息の吸い方も忘れてしまって、そこに立っていることに必死になった。とにかく、ワーゼルマンが話すことは話してくれるので、私はワーゼルマンの隣に立っていればいい。

 数時間は感じたが、おそらく10分程度の謁見を終え、私達は退場した。







「緊張した・・・」

「付き合わせて悪かったね。さぁ、行こうか。」

 手を差し出されて、私はその手を取って顔をあげる。

 ワーゼルマンは、普段ごてごてに装飾された服を着ているのだが、今はシンプルな黒の服に、茶色のマントを着けている。この格好は、私を誘拐しに来た時と同じだ。



「どこにいくの?」

「そうだね、ちょっと暑くなってきたし、北はどう?冬は雪に覆われて大変だけど、今の時期なら涼しくて過ごしやすいと思うよ。」

「別にいいけど、何をしに行くの?避暑?」

「表向きは、ドラゴンを探しに行くってことになってるけど、実際は避暑だね。寒くなったら、逆に南に行って、暖を取ろう。」

「ちょっと待って、ドラゴンを探しに行くってどういうこと!?」

「しっ!ここでする話じゃないよ・・・とりあえず、王都を出よう。」

「・・・王都を出るって、本当に北に行くの?王都の北じゃなくて、この国の北に?」

 私の問いにワーゼルマンは笑って答えた。



「もう、俺を縛るものはないから、どこにだって行けるんだ。君と一緒なら、どこにだってね。」

 それ以上は後でということになって、私達は自分でモテる程度の荷物をそれぞれ持って、城を出た。王都も立ち止まることなく通り過ぎて、あっという間に王都も出て、私達はどこまでも続く原っぱへと来た。



「長い道、どこまで続いているの?」

 原っぱを踏みしめてできたような道を歩きながら進む先を見る。先が見えずそんなことを言えば、目を細めたワーゼルマンが私の手を握る。



「見に行ってみようか?この道がどこに続いているのかを。」

「北に行くって言ってたけど、この道は北に続いているの?」

「さぁ?方向的には北だと思うけど、もしかしたら北からそれているかもしれないね。別に、目的がある旅でもないし、やりたいことができたらそれを優先すればいいよ。暑いから北を目指すのもいいし、この道の先を知りたいなら行くのもいいし。」

「ドラゴンを探すって言ってなかったけ?」

「だから、それは表向きだって。王との話、聞いてなかったの?俺は、聖女に勇者として選ばれた。よって、今後は勇者としての使命を果たすって、王と話していたんだ。そして、最初の使命がドラゴンを見つけることってことにしてる。」

「そうなの?」

「俺が勝手に言ってるだけ。ねぇ、チカ。やりたいことが見つからないなら、もう少し俺に付き合ってくれないかな?」

「・・・?結婚してるんだから、もうあなたから離れられないし、付き合うよ?」

「ありがとう。なら、チカがやりたいことを見つけたら、俺に教えて。俺も付き合うよ・・・だって君は、俺に自由を与えてくれたから。」

 ワーゼルマンに自由を与えたということに覚えがなくて首をかしげるが、その前にワーゼルマンが話していたことを思い出して納得した。

 つまり、聖女という私の肩書を利用し、自分を勇者ということにして自由を手に入れたのだろう。



 勇者に自由があるのかは疑問だが、本人がそう言っているので王子よりは自由があるのだろう。



「それが、あなたが欲しかったものなの?」

「あぁ。国に縛られるのが、俺は嫌いだった。生まれた時からずっと王子で、王族である運命っていうのが、嫌だったんだ。でも、今は自由だよ。勇者となったことで、国は俺を王族から外した。義務がなくなったんだ・・・体が軽くなった感じがするよ。」

 からからと笑う彼の顔をまじまじと見て、私は口元が緩んだ。



「よかったね。」

「・・・あぁ。」

「ねぇ、本当にドラゴンを探してみない?私、この国にもドラゴンがいるのか知りたいんだ!」

「わかった。実は、俺も興味があったんだ・・・なら、この国一番の山に登ってみようか?」

「深い森の中にいるかもよ?」

「いや、洞窟の奥にいるかもしれない。」

「なら、全部。この国の全部を見て、一匹残らず見つけよう、ドラゴンを!」

 なんだか急に走り出したい気分になった。なんでだろう、でも悪い気はしない。



「なら、何か見つけるまでまっすぐ進もう。で、何か見つけたら徹底的に探すっていうのはどうかな?」

「いいよ。心配なのは食料くらいかな?」

「1週間くらいはもつかな。あとは、狩りや採集で見つけるか・・・もう、それでいいだろう。チカ。」

「うん、行こう!」

 繋いだ手を引き合って、私達は走り出した。



 早く、見たい。

 この国のすべてを見たい。



 ずっと忘れていたわくわくが、唐突に沸き起こって、世界がきらめいた。





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