【完結】悪役令嬢ですが、国が滅びそうなので、そんなことにかまってはいられません

製作する黒猫

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1 最後のお茶会

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 婚約者を愛しているかですって?もちろんお慕いしていますわ。
 サラサラの金の御髪に、火の使い手の象徴であるような赤い瞳。王子なのに金の髪はいいとして、赤い瞳かぁ。普通青じゃね?・・・などと思ったのは、とうの昔の話ですわ。えぇ、本当に昔の話。現在は、この色の組み合わせが目に映るだけで、熱い吐息がこぼれてしまうほど。

 外見に惹かれたのかって?それも全くないといえば、嘘になります。ですが、私はあの方の御心に惹かれたのが始まりです。外見なら、ベネディクト様がドストライクですわ。女性ですが。

 つまり、私は愛しているのです。婚約者様を。ですが、残念ながらその愛に命を懸けるほど、盲目ではないのでございます。



「ヘレーナ!君との婚約は、破棄させてもらうよ。」
 この言葉を聞いたが最後、私には死か惨めな死しか残されていないことになります。

 もう、お分かりになったでしょう?
 私は、乙女ゲーム世界に転生した、悪役令嬢ですわ。名を、ヘレーナと申します。職業は、公爵令嬢・王子の婚約者。
 王子とヒロインがくっついたら最後、破滅の道を歩む定めの私ですが、それは恋心を捨てる理由にはなりません。なので、努力いたしました。

 母の教えを守り、素直になって王子にその思いを伝え、良好な関係を保つように努力しました。もちろん、わがままにならない程度に。

 今は学院に通っている身ですので、勉学に励み・・・ましたがそれはあまり実りませんでした。それでも、授業態度は評価していただけています。
 運動神経も悪くはありませんので、無様な真似をさらすことはありませんでした。
 そこそこ、同級生との交流も楽しみ、分別のある友人関係も構築いたしました。

 すべては、死にたくない。そして、王子と結ばれたい。その思いで頑張ってきました。

 だから、自分の死を身近に感じすぎたのが、いけなかったのでしょう。親しいものに訪れる死を失念いたしていました。



「おはようございます、お嬢様。」
「・・・おはよう、アン。」
 嫌な汗が流れ、心臓の音が響きます。
 目が覚めた私がいた場所は、寝室のベッドの上。今日は休校ですので、私の1日の予定は空いています。

「お嬢様、うなされていたようですが?」
「アン・・・か・・・か、お母様、は、今日何かご予定があるかしら?」
「はい。今日は、奥方様にお茶のお誘いをお嬢様は受けていますので、その後予定がありますね。もちろん、お受けになるでしょう?」
「・・・えぇ。そう、それは好都合ね。」
「では、準備させていただきますね。」
 そう言って、始終無表情な侍女は、てきぱきと朝の支度をはじめます。

 思い出したのです。
 近々、お母様が暗殺者の手によって、命を落とされる運命であることを。



 悪役令嬢の母は、物語終盤で命を落とす設定です。
 そのことがきっかけで、悪役令嬢はさらに悪度が増し、今まで陰湿だった嫌がらせをエスカレートさせ、物や心にだけではなく直接ヒロインの体に手を出すようになったのです。
 中庭を歩けば、レンガを落とし、校内では足を引っかけて転ばしたり、突き飛ばしたりするほどです。今までの、机に落書き、不幸の手紙、悪口などが可愛らしく思えるほどに。



 お昼前。中庭で行われたお茶会に招待されたのは、私だけでした。私とお母様だけのお茶会に、使用人はアンのみ。

「レナ、どうしたのかしら?何か悩みでもあるの?」
 レナ・・・と呼ばれた私は、お母様を正面から観察いたしました。
 慈しみのある瞳、私を案じているのでしょう。顔色が悪いように見受けられます。何か、心配事でしょうか?

「たいしたことではありません。ただ、学校の勉強が私には難しいと感じます。それよりも、お母様の方が心配です。お顔が真っ白ですよ。」
「それは、化粧が濃いといいたいのかしら?」
「お化粧をなさる必要がないほどに、血の気が引いていらっしゃる様子です。」
「・・・いい娘を持ったわね、私は。」
「お母様?」
「あなたは、きっと・・・立派な王妃になれるわ。勉強ができないという点は、頭を悩ませるところでしょうけど、きっとそれを補ってくれる人を、あなたは周囲に置くことができるはずよ。」
 最初の言葉に少し浮つきましたが、はっきりと勉強ができないといわれると、胸に痛みが走ります。本当に痛いです、お母様。

 胸を抑える私に、お母様は微笑みました。少し悲しそうなお顔に、私は不安がよぎります。

 もしかして、お母様は気づいている?
 どうしてそう思ったのかはわかりません。ただ、何となくお母様は、ご自身がもう長くないと気づいていると思ったのです。ですが、お母様の死因は他殺。病でならまだしも、殺されるかもしれないと、気づくことが可能でしょうか?

 気のせいですね。

「ルナ、殿下とはうまくいっているのかしら?」
「っ!」
 ドキリとしました。
 王子・・・とは良好な関係を気づいていると自負しています。ですが、恋とはままならないもの。
 ここのところ、王子はヒロインといることが多くなりました。その分、私と過ごす時間は減り・・・いいえ、私から離れていきました。怖かったのです。

 愛した殿方に、邪魔者と認識されるのはつらいでしょう?
 それに、私には命がけですからね。お2人の邪魔をして、惨殺されたくはありません。

「その、悪くはなっていない、はずです。」
 顔を合わせていないので、嫌われているということはないでしょう。ヒロインに嫌がらせをしているわけでもありませんし。

「・・・そう。そこは、自信をもって、良い関係だといってほしかったわ。でも、きっとあなたなら・・・そう、信じることにしましょう。」
「申し訳ございません。」
 お母様の期待に応えられない自分が嫌です。怖がらずに、もっと王子と話をするべきか、しかしそれで嫌われたら。・・・いい考えが浮かばないです。期待に応え、王子との関係をより良好にするには、どうすればいいのでしょうか?

 そんな私の頭に手をのせて、お母様は微笑みました。

「あなたの幸せを願っているわ。」
「・・・!」
 うれしさが込み上げると同時に、自分の薄情さに嫌気がさします。こんなにも自分を思ってくれるお母様の死を、死の運命をどうして忘れていたのでしょうか?

「奥様、失礼いたします。」
「どうかしたのかしら?」
 そこへ、執事長が屋敷からこちらに来て、お母様に声を掛けました。来客でしょうか?そう思っていますと、それは当たっていたようで、私の来客を告げました。

「お嬢様、ベネディクト様がお見えです。」
「え、ディーが?」
「レナのお友達ね。通して。」
「かしこまりました。」
 足早にかつ優雅に去っていく執事長を見送りながら、お母様はディーの分の席をアンに追加するよう指示を出します。

「実は、私が呼んだのよ。あなたの名前を使ってね。」
「お母様!?」
「かわいい愛娘は、私に隠し事が多いようですから、お友達にたっぷり聞かせていただくわ。」
「うぅ・・・」


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