4 / 32
4 理想の王子様
しおりを挟む隣国の服屋に、私はディーと共に入りました。どうやらここは、少し裕福な庶民が利用する場所のようです。貴族の利用する店とは扱う品も店員の質も異なりますが、それでも店内は清潔で、気持ちの良い空間となっています。
「おや、別嬪さん。騎士の旦那さまとデートかい?」
「え?」
「そうなんだ。今日は僕の誕生日でね。それを聞いた彼女が一緒に外套を選んでくれるといってね。」
「そうなの、ならこちらへどうぞ。外套はこのあたりにそろえてあるわ。ごゆっくり。」
「ありがとう。」
デートという言葉に気を使ったのだろう。店員は少し離れた場所でこちらの様子をうかがっていた。
「早く選んでしまおう。」
「えぇ。なるべく目立たない色の方がいいかしら?・・・でも、ディーはかっこいいから、どっちにしろ目立ってしまうわね。」
「かっこいい?」
「あ、ごめんなさい。女の子にかっこいいは、失礼かしら?」
「さぁ?他の女性がどうかはわからないけど、私はうれしいよ。かっこいいって言われると、自分を認めてもらっているって気がするんだ。ありがとう。」
「ならよかった。ディーはかっこいいわ!私の理想の王子様がそのまま出てきた、というくらい、私はあなたの容姿が好きだわ。あ、もちろん、あなたの優しいところや、気遣いのできるところ、剣が強いところとか・・・全部好きよ!」
「・・・ありがとう。」
少し頬を赤らめて、ディーはそっぽを向いてしまいました。褒められても、いつも笑顔を向けて礼を言う彼女には珍しい反応です。
「なら、レナの理想の王子様は、どの色のコートが似合うかな?」
「うーん・・・この中でなら、これね。」
私は、抑え目の青色のコートを手に取りました。本当はもっと鮮やかで、作りの凝ったものがよかったのですが、ここは庶民の店。これくらいの妥協は必要でしょう。
「私の瞳の色と同じだね。そして・・・」
ディーは私の瞳を覗き込みます。
「君の色でもある。」
「・・・そうね。」
そう、私の瞳の色も青色なのです。ちなみに、髪は銀色で、我ながらきれいな髪だと思っています。アンが丁寧に手入れをしてくれるおかげですね。
「選んでくれて、ありがとう。これにするよ。」
私に一瞬微笑んだ後、ディーは店員に買う旨を伝えました。
無事、コートを買い終えた私たちは、集合場所である広場に行きました。そこでは、すでにアンが待機しており、私たちの姿を見ると駆け寄ってきました。
「お嬢様、馬車の準備が整いました。ご案内いたします。」
「ありがとう、アン。でも、どこへ向かえばいいのかしら・・・」
「本日中に移動できる場所は限られておりますので、アンに任せていただけませんか?」
「そうね。任せるわ。ディーもそれでいい?」
「あぁ。」
全員納得し、私たちは馬車に乗り込みました。御者はアンが務めてくれます。
見た目はぼろいですが、しっかりしたつくりの馬車は、中はとても清潔で匂いなどもありません。クッションもいくつか用意されていますので、想像よりは楽な旅路になりそうです。アンに感謝ですね。
「では、出発します。」
ゆっくりと動き始めました。まだ街中ですからね。
「それで、これからどうするつもりだい?とりあえず、我が国は危機に瀕しているらしく、それを救うすべがこの隣国にあることは理解したよ。でも、そのすべとは何だろう?何か、思いつくものはあるかい?」
「そうですね・・・洞窟の中でも考えていたのですが・・・お母様から隣国の話など聞いたことがありませんの。私が知っていると、お母様は確信している様子でしたが・・・こころあたりがありませんわ。」
「・・・なら、もう一度君の母君の言葉を思い出してみるしかないね。そこに何かヒントがあるかもしれない。」
「そうですね。今日のお茶会は、急遽ひらかれたものでした。」
「?それは、今日母君にお茶に誘われたということかい?なら、私とは2人きりでお茶をするつもりだったんだね。」
「いいえ。実は、あなたを呼んだのはお母様ですの。」
「・・・それは、本当かい?私のもとには、昨日招待状が届いたんだけど・・・その招待状の筆跡は君のものだったよ。」
「え・・・名前を使われただけでなく、筆跡も同じだったと?」
「そう。君とは何度も手紙のやり取りをしているわけだし、私が君の筆跡を見間違えることはないと思うけど・・・とりあえずそれは置いておくよ。招待状が届いたのが昨日というのも、不思議だと思わないかい?」
「・・・確かに。不思議だと思うけど、それは家族ですから当日でいいかと、後回しにしただけかもしれません。」
「そうだね。その可能性もあるか。なら、この問題はひとまず流して、他に母君は何か言っていたかい?」
少しだけ招待状の話は引っ掛かりますが、それは頭の中から追い出します。筆跡のことは、私の書き損じの手紙を使った、筆跡をまねて書いただけ、という理由で無理やり納得させ、お茶会でのことを思い出させます。
「最初は、2人だけのお茶会でした。給仕もアンだけで・・・いつもなら、お母様の侍女もいるのですが・・・話の内容は、大したものではありませんでした。ただ、お母様のお顔の色が悪かったですね。私も悪かったので、お互い様ですが。」
「それは、何か悩み事でもあったの?私でよければ相談に乗るよ。」
「ありがとう、でも大丈夫よ。お母様にも、そう聞かれました。その後は、褒められましたね。良い娘・・・立派な王妃になれると。嬉しかったです。」
同時に、苦しかったですけどね。だって、王妃になれない可能性があるのですから。
「それから、ハインリヒ様と上手くいっているか聞かれました。」
「なんて答えたの?」
「・・・悪くはなっていないはずと。」
「そう。確かに、上手くいっているとは私も思わない。原因はわかっているよね?」
ヒロインが登場したからです。そのせいで、私が近づけません。恐ろしいヒロインの前には、悪役令嬢はしっぽを巻いて逃げるしかないのです。
「なぜ、ハインリヒを避けているの?彼は、君に何かしたのかな?」
「そ、それは・・・」
ディーは怒っているようです。いつもより声が低く、まとう空気も重いものになりました。ディーは王子とヒロインの友人でもあります。友人思いのディーは、王子を避ける私を責めているのでしょうか?それとも、ヒロインに何かあったのでしょうか?
「何か、したんだね?」
「いいえ!何もいたしていません!過ちなど犯していません!」
本当に、ヒロインには手を出していません。もちろん、彼女の私物にも。足も出していませんし、視線で攻撃などもしていません!
「過ちだと!?」
「ひぃっ!?」
声を荒げるディーが怖くて、つい情けない声が漏れてしまいました。
そんな私を、彼は困ったように見て、抱きしめました。
「ごめん、怖かったね。怖がらせて悪かった。君は、何も悪くない。」
「で、ディー・・・」
背中をさすり、私を落ち着かせようとしてくれているのでしょう。その試みは、成功しました。私の恐怖は払しょくされ、今は落ち着いていられます。
「大丈夫だよ、レナ。私が守るから・・・言って辛くなるなら言わなくていい。でも、楽になるのなら、どうか話して欲しい。」
「・・・はい?」
「ハインリヒに、何をされた?」
「・・・?いいえ、何も。」
「そうか。」
優しくそう呟いて、ディーは私の頭を優しくなでてくださいました。それが思いのほか気持ちがよくて、いつの間にか私は意識を失っていました。眠ってしまったのです。
「ハインリヒ・・・次会うときは、貴様の最後だ。」
眠ってしまったヘレーナを起こさないように小さな声で、しかしはっきりとベネディクトは呟いた。その目はどこまでも冷たく、氷の様だった。
「・・・殺す。」
馬車の中の会話を聞いていた侍女アンも、無表情ながらその瞳に怒りを宿して、宣言した。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる