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17 本当の愛を
しおりを挟む「お嬢様、お逃げください。アンが道を作ります。」
「アン・・・」
道を作ってくれたとしても、私の足で逃げ切れるとは思えません。それに、私を逃がしたとなれば、多くの人が責任を問われます。特に、アンは・・・その命が脅かされる危険もあります。
「アン、気持ちはうれしいけれど、それはやめて。私はここで捕まることにするわ。」
「捕まってどうするのですか?国を救うとおっしゃたではありませんか。」
「・・・何とかするわ。」
国を救うには、術者と接触をしなければなりません。捕まればそれは難しいでしょうが、逆にその機会を作れる可能性もあります。
お母様が面会に来てくださるかもしれません。もし、来てくださらなかったとしても、ディーの言葉が本当なら心配した王子が来てくれるはずです。そこで、お母様に会えるように図ってもらえれば。
「レナ、逃げよう。僕が必ず守るから。今ここで捕まっても、国を救う目途が立っていない今では、ただいわれのない罪をかぶって幽閉されるのがおちだよ。」
「でも、逃げるのは現実的じゃないわ。」
「確かに、だけど、それでも、逃げないと!このまま捕まれば、悪いことしか起こらない!」
ディーが私の手を取って、真剣な目で見つめてきます。どうにか私を逃がせないかと考えている様子です。
ですが、もうこれ以上することはないのだと、私は知っています。だって、情報はもうすべてそろっていて、後は確かめるだけなのですから。
「ディー・・・もういいの。」
「レナ、諦めるのかい?」
揺れる瞳で私を見つめるディーに首を振ります。
私は深呼吸して、一度落ち着いてから口を開きました。
「もう、十分なの。あとは、私が覚悟を決めるだけ。」
「覚悟を?」
「そう。だから、私は捕まるわ。」
ディーの手を振り払って、私は馬車を下りました。
「レナ!」
「お嬢様、おやめください!」
2人が手を伸ばしますが、その手は届きません。2人の手を伯父様がつかんでいるからです。
「伯爵!放してください!レナっ!」
「この、クソじじぃ!」
「だめだよ。それに、これは計画通りだからいいのさ。ここに騎士を待ち伏せさせて、家に助けを求めに来たレナが捕まる。そういう筋書き。」
「図ったな!伯爵!」
「殺す!」
「それは困るね。」
「っ!」
小さなアンの悲鳴を聞いて、私は振り返りました。そこには、ぐったりとしたアンが伯父様に抱えられている姿がありました。私はそれを見て引き返そうとしましたが、それを城の騎士が阻みます。
「ご同行願えますね?」
「・・・はい。」
アンのことはディーに頼むことにしましょう。伯父様も敵ではないはずですから、命に別状はないはずです。なぜ、私を騎士に捕まるよう図ったのかはわかりませんが、騎士が乱暴に扱わないということは、伯父様が上手く言ってくれているのでしょう。
ここで、私は短いながら旅をした仲間たちと離れることになりました。
それからは、自由はなくいつも見張りが張り付くような生活でしたが、乱暴されることのない令嬢として最低限の扱いを受けて、王城まで連れていかれました。
王都は、死の雪が舞っています。
活気があった街並みも、さっぱり人気がなくなり、陰気な空気が漂います。街中でも襲ってくる玉を、騎士たちは遠くへ弾き飛ばし、スピードを上げて街道を突き進みます。
外から見た王城も人気が無く、窓や扉がすべて閉ざされていました。
「王都が一番ひどいようですね。」
「まるで、他人事のようですね。あなたがこの現象を起こしたと、あなたの母君は証言しましたよ。」
「・・・父ではなく、母が?」
「えぇ。」
「そうですか。」
道中、覚悟はしたつもりです。でも、お母様が裏切ったとしても、私はお母様を突き落とすことができるような気がしません。
お母様を、犯罪者にすることが、私にはできないのです。だからこそ、お母様は私にぬれぎぬを着せたのでしょうか?
国を救うために動く?
そんなこと、正直どうでもよいのです。私は、ただお母様の期待に応えたかっただけです。でも、言葉通りに国を救うことが正しいのでしょうか?本当にお母様は期待をしてその言葉を発したのでしょうか?お母様の真意はわかりません。
国を救うことを期待されているのなら、私はこの国を絶対に救います。
その覚悟はしたのです。したのですが・・・まだ、不十分だったようですね。
その時が近づくたび、私は逃げ出したくなります。ですが、これ以上時間稼ぎをしても、何もならないでしょう。
お母様、あなたの望みは何なのでしょうか?
私にはわかりません・・・
揺れる覚悟のまま、私は裁判にかけられることになりました。ここで無実を証明できなければ、私は犯罪者となり罪を償わなければなりません。
城内に入り、私が連れていかれたのは玉座の間。
最奥に王、その隣に王妃、そこから少し離れた場所に、王子が座っています。王の前に敷かれたレッドカーペットを挟むように、多くの貴族が並び立っています。
私は、騎士に挟まれてレッドカーペットの上に置かれた机の前に立たされました。
「これより、七禁書である「喰らいの書」を使用した罪を問う、裁判を行う。」
宣言により、始まった裁判は、最初ここまでの経緯の確認から始まりました。死の雪が降り始めてから、今この時までの話を時系列に沿って語られ、私はもう覚悟を決めました。
お母様が、私を逃がしたのは、私が禁書を使用したという話に信ぴょう性を持たせるためなのでしょう。勘当したのは父ですが、お母様なら父の考えそうなことはわかるもの。私と無関係になることで、自分に被害が出ることを避けたのでしょう。
娘の罪を告白したお母様は、国の忠誠心が高く、分別がつく人だという判断をされるはずです。罪人となった娘との関係も切れているなら、悪いようにはならないはず。
「ヘレーナ。お主にかかった禁書の使用という疑いを、お主は認めるか?嘘偽りなく答えよ。」
「・・・」
ここで、本当のことを話せば、私は国を救うことができます。嘘をつけば、私も国も終わりでしょう。
お母様、あなたは何を望んだのでしょうか?何度も考えましたが、たった一つしか私は答えを出せません・・・国の破滅。そうとしか思えませんが、それに何の意味があるのか、私にはわかりません。
ですが、それが望みというのなら。
「・・・はい。私、ヘレーナは・・・」
お母様の望みのままに。
「その疑いを否定します。」
動くことをやめます。
直前まで、私はお母様に従おうと思いました。でも、そう思うには、大切なものが増えすぎたのです。
なにより、私は諦められないのです。
ざわつく貴族たちには目を向けず、私はただ正面を向きます。
視界の端に映る赤。ハインリヒ様の赤い瞳は、私の無実を信じている瞳です。その瞳に一切の陰りはなく、全幅の信頼を感じ取りました。
何度も見た、乙女ゲームの悪役令嬢ヘレーナに向けられた侮蔑の瞳が、私に全く真逆の感情を向けるのです。
私は、ハインリヒ様を愛しています。たとえ、婚約者ではなくても、命を懸けるほどではなくても、愛しています。だから、その瞳が信じてくださるなら、それに応えましょう。
ハインリヒ様、今度こそあなたの愛を勝ち取ってみせましょう。そうすれば、きっとあなたのことを、命を懸けるほどに愛せるかもしれません。
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