【完結】悪役令嬢ですが、国が滅びそうなので、そんなことにかまってはいられません

製作する黒猫

文字の大きさ
21 / 32

20 嫉妬から好意へ

しおりを挟む


「これから模擬戦をやるそうですわ。私は見るつもりですが、ベネディクト様はどうされますか?血が流れるようなこともあると思いますが・・・」
「私も見させていただきます。血など、何度も見ました。私は聖女ですから、そういう現場に呼ばれることもあるので。」
「あぁ、そうでしたわね。それは失礼をいたしました。」
 なぜか嬉しそうに笑う彼女。私はただ苛立ちがつのるが、ここで引き返すのもなんだか嫌だったので、その場に残ることにした。

「ベネディクト様がよろしければ、私たちお友達になりませんか?」
「友達・・・ですか?」
 何度か言われたことがある言葉だ。私は、いつもそれに笑って答えるが、実際友達付き合いをしている人間はいない。その場の付き合いでしかないのだ。

「もちろんですわ。これからよろしくお願いします。」
「よかった。なら、私のことはレナを呼んで。あなたは、ベティでいいかしら?」
「かまいませんよ、レナ。」
「ありがとうございます。あなたなら、私の素を見せられますから、とっても嬉しいです。」
「それは光栄ですね。ですが、なぜそこまで私を信用なさって頂けるのでしょうか?まだ出会って1時間もたっていない仲だというのに。」
「聖女だからですよ。」
「・・・」
 やはり、私は聖女としか見られない。この令嬢にとって、私はただの聖女でしかないのだろう。都合のいい聖女でしか。

「あなたは、聖女の印象を大切にしているようだから。私がどんな変なことを言っても、あなたは口外なんてしないでしょ?」
「変だなんて、レナは素敵な令嬢ですわ。」
「心にもないこと、ありがとう。さぁ、模擬戦が始まるようです。一番手は、騎士見習い同士ですね。」
 鍛錬場には、王子の他に騎士の人も20名ほどいる。数名は見たことがある顔程度の認識はあるが、全くわからない顔の者が多い。ここに賊がいたとしても私は気づけないだろうな。

 私は、失礼のないようにしっかりと模擬戦を観戦することにした。

 1時間後、私は王子の手を握って目を輝かせていた。

「ハインリヒ様、私感動いたしました!あなたの流れるような剣技は、剣を知らぬ身でもため息がこぼれるほど美しく、相手をねじ伏せる力がありますね!すごいです!すごいですわ、ハインリヒ様!」
「え、えーと・・・べ、ベネディクト嬢か?あれ、こんなこど・・ごほんっ。えー、えー・・・レナ、一体どういう状況なんだ?」
 こど・・・子供か。確かに、少しはしゃぎすぎたかもしれない。私は王子の手を握っていたことに気づいて、そっと手を離した。

「目覚めたのですよ。そして、ハインリヒ様が目覚めさせたのです。」
「なんだそれは?」


 大して興味のない模擬戦だったが、何度か見ているうちに前かがみになって見るようになり、白熱した戦いになると息をするのも忘れるほどにのめりこんだ。そして、決め手は王子の模擬戦。
 まだ小柄な成長しきっていない王子が、大人の力強い剣を受け、それを打ち返しなおかつ打ち負かした。その姿は輝いていて、私は見惚れてしまった。

 かっこいい!


「ベティ。」
「はっ!申し訳ございません、私としたことが取り乱してしまいました。」
「そうですか。でも、それは喜ばしいことです。では、ハインリヒ様、私たちはこれで。今日は有意義な時間を過ごさせていただきました。」
「そうか。お前が満足したのならいいが・・・今度はどこかに出かけよう。いつも、俺の鍛錬の姿を見ているだけでは飽きるだろう。」
「そんなことありませんわ。私、ここに来るのが一番の楽しみですの。また、来てもいいですか?」
「もちろんだ!・・・ベネディクト嬢も、剣に興味がおありならいつでも来てくれていい。騎士団長や俺の護衛の剣は本当に素晴らしいものだ。機会があれば見て欲しい。」
「ありがとうございます!ぜひ・・・あ・・・」
 聖女が鍛錬場に通う?そんな聖女像は、ないだろう。
 でも、見たい。こんなにも心を動かされたのだ。私は、ここに通いたいと思った。でも、それはとても困難なことだった。
 父に、家の者に知れてはならない。しかし、聖女ともてはやされてはいても、ただの令嬢である私が王城に行く理由はなく、王城に行くことができなければ鍛錬場にも行けない。

「ベネディクト嬢?」
「ベティ、何を落ち込んでいるの?私たち、友達でしょう?」
「レナ?」
 彼女はにんまりと笑うと、唐突に疲れたようなため息を吐く。

「王妃教育って、とっても大変なの。一人でやっていると気が滅入っちゃうのよ。だから、どこかの聖女様を巻き込もうって考えているの。」
「それって・・・」
 王子の婚約者、しかも次期国王を期待されている王子の婚約者となれば、王妃教育を受けることになるのが通例だ。

 なぜ、私が王妃教育なんて・・・とは思ったが、別に王妃教育も聖女教育も変わらない。どちらもつまらない勉強だ。だったら、王城に行く言い訳ができる王妃教育を受けよう。いや、そちらの方が受けたいのだ。だって、私のためになるのだから。

「もちろん、一緒にやってくれますよね?辛い時だって一緒、それが友達というものですから。」
「わかりました。レナ、本当によろしくお願いしますわ。」
「こちらこそ。」
「なんだかよくわからないが、良かったなレナ。」
「えぇ。では、また。」
 王子に別れの挨拶を済ませた私たちは、鍛錬場を出てバラ園へと向かった。

「そうだ、一つだけ忠告します。」
「なんでしょうか?」
 前を歩く彼女が立ち止まり、振り返った。
 その顔は、真顔だ。

「王子に手は出さないでくださいね?あくまで、友人と接する分には目をつぶります。先ほども、色恋ではなく敬意だったので大丈夫だとは思いますが。もし、それに色が混じれば・・・」
「・・・そのようなこと、あるわけがないですよ。王子は、あなたの婚約者ではありませんか。私がそんな節操なしに見えますか?」
「いいえ。私は、きっとベティが、王子の良き友人になってくださると思っています。変な話をいたしましたね。早く戻りましょう、父たちに見つかる前に。」
 ウィンクをしていたずらっ子のように笑うレナを見て、私は好意を持った。

 いつのまにか、嫉妬は消えていた。
 一緒に、模擬戦を見て、応援をして、それをこれからも一緒にするために、手を貸してくれて。あぁ、これでは本当に友達だ。

 昔好きだった本は、冒険ものだった。そこでは、信頼できる仲間がいて、友達がいて・・・そんな人が欲しいとずっと思っていたけれど、叶わない私は本を読んでいたのだ。

「ねぇベティ。あなた変わったわ。もう、可哀そうだなんて思えないもの。」
「・・・そうですね。私もそう思います。」
 気づいたら、私が見る世界はきらきらと輝いていた。

 もう、色あせた聖女の見る世界を見ることはないだろう。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

処理中です...