あまりものの神子《完結》

トキ

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プロポーズ4

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 オーバン様がご両親の話をすると言ったら、シルヴァン様は静かに退室した。僕達を気遣ってくれたと思うと、彼の優しさに胸があたたかくなる。

「私の両親は、私が幼かった頃に亡くなりました。土砂降りの雨の中を走っていた馬車が横転して、崖から落ちたんです」
「そんな!」
「二人とも即死でした。その知らせを受けた直後、私はボーモンに連れ出されて森の奥にある別邸に移住しました。あのまま屋敷にいたら、私の命が危ないからと言って」

 頭の悪い僕でも分かる。オーバン様のご両親は何者かに殺されたんだ。屋敷に残っていたオーバン様も命を狙われていたなら、とても辛い思いをしたに違いない。

「突然の両親の死と、暗殺者に怯える日々に、幼い私は耐えられず、何時も周囲に怯えて過ごしていました。王立学園に通っていた時、身分を隠していたのは暗殺者から身を守る為です」
「それじゃあ、気が弱かったっていうのは」
「あの頃の私には、見えるもの全てが敵に見えていたんです。何故、私の両親は狙われたのか、何故、私の命も狙われているのか。不安と恐怖に押し潰されそうになる度に、ボーモンに支えられて、守られて生きてきました。ボーモンが居なかったら、私はとっくの昔に壊れていたかもしれません」
「…………」
「王立学園を卒業する頃、私の両親を殺した犯人が捕まりました。主犯は、フォンテーヌ家の身内でした。親戚と言った方が分かりやすいですね。野心家で、私の両親を逆恨みして、フォンテーヌ公爵家の地位と権力と財産にしか興味のない、最低な奴らでしたよ。こんな奴に、私の両親は殺されたのかと、こんな奴のせいで、私はずっと身分を隠して、怯えながら過ごしていたのかと、沸沸と怒りが湧いてきました」

 ぎゅう、と強く握りしめる手にそっと触れる。話を聞いただけでこんなにも辛くて苦しい気持ちになるんだ。家族を奪われた悲しみも憎しみも悔しさも、オーバン様にしか分からない。辛かったね? 悲しかったね? よく頑張ったね? そんな陳腐な言葉で心の傷が癒えるなら、誰も苦労しない。むしろ、余計に相手を傷付けるだけだ。

「私から全てを奪った犯人を殺したいと何度思ったことか。でも、殺しませんでした。クウに相応しい人になりたかったから」
「え?」
「私がクウと出会ったのは、私の心が壊れかけていた十五歳の時。何もかもが敵に見えて、暗殺者に怯え、女顔だとバカにされる日々に耐えきれず泣いていた私を、クウは見付けてくれたんです。そっと背中を撫でてくれて、泣いている理由を聞いてくれて、私が泣き止むまで寄り添ってくれたんです。私の顔を好きだと言って、自信を持ってと、励ましてくれたんです」
「僕が?」
「私は、クウに救われたんです。暗闇の中にいる私を、光溢れる世界に引き上げてくれた。私に、生きる力を与えてくれた。だから、私は強くなれたんです」
「えっと、ごめんなさい。やっぱり、覚えてない、です」

 オーバン様が語るのだから、僕が助けたのは本当だと思う。でも、思い出そうとしても覚えていなくて申し訳ない気持ちになる。フェリシアン様に選ばれた後、僕も色々とバタバタしていたというか、周囲の悪意に晒されて精神的に病んでいたというか。あの頃は本当に嫌なことしかなくて、あまり思い出したくない。人違いじゃないかな? とも思ったけど、オーバン様が恩人を間違う筈はないし。やっぱり、僕なんだろう。

「覚えていなくても構いません。こうして私の傍に居てくれるなら」
「ん」

 ちゅ、と触れるだけのキスをされて、僕は咄嗟に目を閉じる。頭上からクスクス笑う声が聞こえて目を開けると、オーバン様が幸せそうに笑っていた。辛い過去も憎しみも乗り越えて、こうして公爵家の当主と騎士団団長を任されているんだから、オーバン様はやっぱり凄い人だ。僕も、オーバン様に相応しい人になれるよう努力しなきゃ。
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