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番外編「初恋」1【オーバン視点】
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大好きな両親を失った日、私の生活は一変した。いい方向にではなく、悪い方向に。土砂降りの雨の中、二人が乗っていた馬車が横転して崖から落ちたそうだ。嘘か本当かも分からない状況で、私は父の親友だったボーモンに屋敷から連れ出され、森の奥にある別邸で生活するようになった。使用人は居らず、私とボーモンの二人きり。着替えも料理も洗濯も掃除も、何一つしたことがなかった私達はかなり苦労したし、別邸で暮らし始めた頃は過酷な貧乏生活を送っていた。ボーモンは剣しか握ったことがなく、貴族としての礼儀作法やマナー、知識や教養は身に付けているが、生活面においては壊滅的。
二人で住めるように掃除をすれば更に埃まみれになり、食器を洗おうとしたら沢山落として割って、洗濯をすれば力加減が分からず衣類はビリビリに破れ、お風呂の準備をすれば熱かったり冷たかったり。けれど、これらはまだマシな方。一番酷かったのは生きる為に欠かせないもの。料理だ。
「大丈夫です。オーバン様。私がオーバン様をお守りします。何も心配はいりませんからね」
「ボーモン」
「なんですか? オーバン様」
「黒焦げの物体を、食べるんですか?」
「…………」
お皿には元々何だったのか分からない黒い塊。ボーモンが作ってくれた料理だというのは分かるが、多分、食べない方がいい。私が謝ると、ボーモンも「申し訳ありません。オーバン様」と謝った。私を守れと命令されている訳でもないのに、ボーモンは自分の意思で私の側に居てくれた。何もかも初めてで、子育てにも慣れてなくて、何時も本とにらめっこをしていたのに、ボーモンは直ぐにコツを掴んで料理も洗濯も着替えも掃除もどんどん上達していった。両親が亡くなった今、頼れるのはボーモンだけ。ボーモンが居なかったら、私はあっという間に殺されていただろう。
「オーバン様。王立学園に行きましょう」
「え?」
「オーバン様はフォンテーヌ公爵家の嫡男。フォンテーヌ家を継ぐのであれば、知識や教養、礼儀作法などが必要です」
「いやだ。行きたくない。王立学園に行ったら、殺されるかもしれない」
「大丈夫です。オーバン様。このボーモンが付いております。私がオーバン様をお守りします」
「でも……」
「身分を隠せば問題ありません。幸い、向こうはオーバン様の容姿を知りません。身分さえ隠してしまえば、命を狙われる危険性は低いかと」
「今更、戻ってどうなる? フォンテーヌ家は、もう」
奪われている。野心家で有名な、身内の男に。噂では、両親が大切にしていた屋敷で贅沢な暮らしを満喫しているという。そんな屋敷に、私の居場所はない。戻りたいと願っても、もう戻れない。大好きだった帰る場所は、最低な連中に乗っ取られてしまったのだから。
「オーバン様。諦めてはなりません。奴らの悪事は必ず明るみになります。それまでの辛抱です。それに、王立学園に通えば、お友達もできるかもしれません。私のような年上ばかりが相手をしていては思考が鈍ってしまいます。同年代の方々と共に過ごすことによって、いい刺激にもなります」
「友達?」
「はい」
「……分かりました。王立学園に、行きます」
「では、今から予習をしましょう。王立学園に通っても恥ずかしくないように」
「うん」
私の両親は心配性だった。自分では分からないが、私の顔は他者から見たらとても美しいという。世の中には男女問わず、美しい少年や少女を侍らせてよからぬことを考える変態が一定数いるそうだ。フォンテーヌ公爵家の嫡男で、他者よりも美しい顔の私はそういった変態達に狙われやすい。だから絶対に一人になってはいけない。一人で外に出てはいけない。外出する時は必ず誰かと一緒にいること、顔を隠しなさいと、両親から口煩く言われたのを覚えている。
社交界デビューもしていない私には友達がいない。両親を殺されて、森の奥にある別邸に移り住んでからはボーモン以外と会ったことすらない。でも、王立学園に行けば、友達ができるかもしれない。暗殺者は怖いけど、沢山の人と仲良くなれるかもしれない。期待と不安を抱きながら、私は王立学園に通えるよう必死に勉強した。
二人で住めるように掃除をすれば更に埃まみれになり、食器を洗おうとしたら沢山落として割って、洗濯をすれば力加減が分からず衣類はビリビリに破れ、お風呂の準備をすれば熱かったり冷たかったり。けれど、これらはまだマシな方。一番酷かったのは生きる為に欠かせないもの。料理だ。
「大丈夫です。オーバン様。私がオーバン様をお守りします。何も心配はいりませんからね」
「ボーモン」
「なんですか? オーバン様」
「黒焦げの物体を、食べるんですか?」
「…………」
お皿には元々何だったのか分からない黒い塊。ボーモンが作ってくれた料理だというのは分かるが、多分、食べない方がいい。私が謝ると、ボーモンも「申し訳ありません。オーバン様」と謝った。私を守れと命令されている訳でもないのに、ボーモンは自分の意思で私の側に居てくれた。何もかも初めてで、子育てにも慣れてなくて、何時も本とにらめっこをしていたのに、ボーモンは直ぐにコツを掴んで料理も洗濯も着替えも掃除もどんどん上達していった。両親が亡くなった今、頼れるのはボーモンだけ。ボーモンが居なかったら、私はあっという間に殺されていただろう。
「オーバン様。王立学園に行きましょう」
「え?」
「オーバン様はフォンテーヌ公爵家の嫡男。フォンテーヌ家を継ぐのであれば、知識や教養、礼儀作法などが必要です」
「いやだ。行きたくない。王立学園に行ったら、殺されるかもしれない」
「大丈夫です。オーバン様。このボーモンが付いております。私がオーバン様をお守りします」
「でも……」
「身分を隠せば問題ありません。幸い、向こうはオーバン様の容姿を知りません。身分さえ隠してしまえば、命を狙われる危険性は低いかと」
「今更、戻ってどうなる? フォンテーヌ家は、もう」
奪われている。野心家で有名な、身内の男に。噂では、両親が大切にしていた屋敷で贅沢な暮らしを満喫しているという。そんな屋敷に、私の居場所はない。戻りたいと願っても、もう戻れない。大好きだった帰る場所は、最低な連中に乗っ取られてしまったのだから。
「オーバン様。諦めてはなりません。奴らの悪事は必ず明るみになります。それまでの辛抱です。それに、王立学園に通えば、お友達もできるかもしれません。私のような年上ばかりが相手をしていては思考が鈍ってしまいます。同年代の方々と共に過ごすことによって、いい刺激にもなります」
「友達?」
「はい」
「……分かりました。王立学園に、行きます」
「では、今から予習をしましょう。王立学園に通っても恥ずかしくないように」
「うん」
私の両親は心配性だった。自分では分からないが、私の顔は他者から見たらとても美しいという。世の中には男女問わず、美しい少年や少女を侍らせてよからぬことを考える変態が一定数いるそうだ。フォンテーヌ公爵家の嫡男で、他者よりも美しい顔の私はそういった変態達に狙われやすい。だから絶対に一人になってはいけない。一人で外に出てはいけない。外出する時は必ず誰かと一緒にいること、顔を隠しなさいと、両親から口煩く言われたのを覚えている。
社交界デビューもしていない私には友達がいない。両親を殺されて、森の奥にある別邸に移り住んでからはボーモン以外と会ったことすらない。でも、王立学園に行けば、友達ができるかもしれない。暗殺者は怖いけど、沢山の人と仲良くなれるかもしれない。期待と不安を抱きながら、私は王立学園に通えるよう必死に勉強した。
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