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番外編「買い物」
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一人でも大丈夫だと思っていた。少しでもオーバン様の役に立ちたい。優しくしてくれたボーモンさん達に恩を返したい。そう思って、屋敷の外に出てみたけど、身体の震えが止まらず、パニックに陥ってしまった。
「だから一人で出掛けるのは危ないって言ったのに」
「ごめん、なさい」
シルヴァン様がいなかったら、僕は多くの人が行き来する街中で倒れていたかもしれない。ちょっとお店で足りない物を買いに行くつもりだった。屋敷から徒歩で行ける距離だから、僕一人でも行けると思った。屋敷の中でぬくぬくと過ごすのは申し訳なくて、僕にできることをしたいと思ったけど、外に出るのはまだ早かったみたい。
「謝らなくていい。怖いんだろう? 無理して店に行く必要はない」
「でも……」
「お前、黙って出て来ただろ? 今頃、屋敷の中は大騒ぎだろうな。オーバンだって心配する」
「…………」
置き手紙はしたから、黙って出て来た訳じゃない。ちょっと、買い物に出掛けるだけ。ちょっと、屋敷の外に出るだけ。それなのに、屋敷の外に出た瞬間に震えが止まらないなんて、本当に情けない。シルヴァン様が一緒に来てくれてよかった。
「仕方ねえから俺が一緒に行くけど、今度からはボーモンかオーバンと一緒に出掛けろよ? 俺が怒られちまう」
「え?」
「買い物、するんだろ? さっさと必要なもん買って、屋敷に帰ろうぜ」
「あ、ありがとうございます!」
「今回だけだからな?」
買うものは少ない。小麦粉と卵とバター。そろそろ買いに行かないとと料理長さん達が話し合っているのを聞いて、それなら僕が行くと無理を言ったんだ。みんなから「危険です!」とか「クウ様一人では重くて運べません!」とか言われたけど、みんなの役に立ちたいと伝えたら渋々許してくれた。最後まで心配してくれたけど。
「シルヴァン様がいてくれて、本当に良かったです」
「こんな重いものをクウに持たせる訳にはいかねえからな」
買うものは少なくても、その量はかなり多い。屋敷に住み込みで働いてくれている人達の料理も作るから、シルヴァン様の両手が塞がるほど。僕が「持ちます」と言ったらシルヴァン様は「クウが怪我する方が問題になるから俺が持つよ」と言ってくれた。つまり、僕は手ぶらだ。ぅう、申し訳ない。
「本当に、ごめんなさい」
「謝らなくていいって言っただろ? 申し訳ないって思うなら、また美味しいお菓子でも作ってくれよ」
「え?」
「クウの作るお菓子は美味しいから、それでチャラだ。どうだ?」
「そんなことで、いいんですか?」
「クウの手作りだからいいの。ほら、早く帰ろうぜ。みんな心配してる」
スパダリって、シルヴァン様のような人のことを言うのかもしれない。オーバン様もとても優しいけど、シルヴァン様も同じくらい優しい。
「シルヴァン様」
「なんだ?」
「希望はありますか? シルヴァン様の好きなお菓子を作ります! 遠慮せずに言ってください!」
「え? いいの!? それじゃあ、フィナンシェを作ってほしいなあ。オーバンが最初に食べてたヤツ。彼奴、結局一人で食べちまってさあ」
「フィナンシェですね! 沢山作ります!」
「やった! ずっと食べたかったんだよ! クウの手作りフィナンシェ」
シルヴァン様と色々と話している内にオーバン様の屋敷に帰っていた。玄関の扉を開けた瞬間、ボーモンさんに泣きつかれて、使用人さん達も涙を流していてちょっと戸惑った。
「クウ様! 何故一人で屋敷の外に出たのですか!? あれほど一人で出掛けるのは危険だと言ったのに」
「ご、ごめんなさい。ボーモンさん。僕、どうしても恩返しがしたくて……」
「クウ様が無理をなさる必要はありません! もし、クウ様がこのまま帰って来なかったら、ぅう」
「だ、大丈夫です! シルヴァン様が一緒に来てくれたので」
「感謝しろよ? ボーモン」
「非常に腹が立ちますが、今回は褒めてあげましょう。シルヴァン様」
「恩人に対して酷くないか!?」
「おや? 自分が何をしたのか、もう忘れたのですか?」
「う!」
この屋敷で一番強いのはボーモンさんじゃないかな? と思う。オーバン様もシルヴァン様も、ボーモンさんの一言で黙ってしまうから。確かに、最初に出会った時はシルヴァン様が怖くて仕方なかったかけど、今はもう平気だ。
「シルヴァン様。約束通り、とっても美味しいフィナンシェ、作りますからね!」
「なんですと!?」
何故かみんながシルヴァン様に詰め寄って「どういうことだ?」と問い質している。僕、何かダメなことを言ったのかな? シルヴァン様は涙目になっていて、ちょっと可哀想に思えてくる。僕が「シルヴァン様を責めないでください」とお願いしたら渋々離れてくれた。
「クウ様。フィナンシェだけはやめておきましょう。オーバン様が絶対に許しません」
「え? ダメなんですか?」
「はい。フィナンシェはクウ様がオーバン様の為に初めて作ったお菓子です。オーバン様にとって、クウ様が作ったフィナンシェは特別な意味を持ちます。ですので、それをこのような世間知らずの阿呆にくれてやる義理はありませぬ」
「おい」
「で、でも、シルヴァン様と約束したので、作らない訳には……」
僕が作るフィナンシェが特別なんて初めて聞いたんですけど!? オーバン様もボーモンさんも、大袈裟だと思います! 過大評価です! 僕が作るフィナンシェは普通のフィナンシェですよ!?
「……仕方ありません。一欠片だけ許しましょう」
「どれだけケチなんだよ! お前ら!」
「ひとかけら……」
それって、食べられるところ、ありますか? シルヴァン様の扱いが、物凄く雑な気がします。
-end-
「だから一人で出掛けるのは危ないって言ったのに」
「ごめん、なさい」
シルヴァン様がいなかったら、僕は多くの人が行き来する街中で倒れていたかもしれない。ちょっとお店で足りない物を買いに行くつもりだった。屋敷から徒歩で行ける距離だから、僕一人でも行けると思った。屋敷の中でぬくぬくと過ごすのは申し訳なくて、僕にできることをしたいと思ったけど、外に出るのはまだ早かったみたい。
「謝らなくていい。怖いんだろう? 無理して店に行く必要はない」
「でも……」
「お前、黙って出て来ただろ? 今頃、屋敷の中は大騒ぎだろうな。オーバンだって心配する」
「…………」
置き手紙はしたから、黙って出て来た訳じゃない。ちょっと、買い物に出掛けるだけ。ちょっと、屋敷の外に出るだけ。それなのに、屋敷の外に出た瞬間に震えが止まらないなんて、本当に情けない。シルヴァン様が一緒に来てくれてよかった。
「仕方ねえから俺が一緒に行くけど、今度からはボーモンかオーバンと一緒に出掛けろよ? 俺が怒られちまう」
「え?」
「買い物、するんだろ? さっさと必要なもん買って、屋敷に帰ろうぜ」
「あ、ありがとうございます!」
「今回だけだからな?」
買うものは少ない。小麦粉と卵とバター。そろそろ買いに行かないとと料理長さん達が話し合っているのを聞いて、それなら僕が行くと無理を言ったんだ。みんなから「危険です!」とか「クウ様一人では重くて運べません!」とか言われたけど、みんなの役に立ちたいと伝えたら渋々許してくれた。最後まで心配してくれたけど。
「シルヴァン様がいてくれて、本当に良かったです」
「こんな重いものをクウに持たせる訳にはいかねえからな」
買うものは少なくても、その量はかなり多い。屋敷に住み込みで働いてくれている人達の料理も作るから、シルヴァン様の両手が塞がるほど。僕が「持ちます」と言ったらシルヴァン様は「クウが怪我する方が問題になるから俺が持つよ」と言ってくれた。つまり、僕は手ぶらだ。ぅう、申し訳ない。
「本当に、ごめんなさい」
「謝らなくていいって言っただろ? 申し訳ないって思うなら、また美味しいお菓子でも作ってくれよ」
「え?」
「クウの作るお菓子は美味しいから、それでチャラだ。どうだ?」
「そんなことで、いいんですか?」
「クウの手作りだからいいの。ほら、早く帰ろうぜ。みんな心配してる」
スパダリって、シルヴァン様のような人のことを言うのかもしれない。オーバン様もとても優しいけど、シルヴァン様も同じくらい優しい。
「シルヴァン様」
「なんだ?」
「希望はありますか? シルヴァン様の好きなお菓子を作ります! 遠慮せずに言ってください!」
「え? いいの!? それじゃあ、フィナンシェを作ってほしいなあ。オーバンが最初に食べてたヤツ。彼奴、結局一人で食べちまってさあ」
「フィナンシェですね! 沢山作ります!」
「やった! ずっと食べたかったんだよ! クウの手作りフィナンシェ」
シルヴァン様と色々と話している内にオーバン様の屋敷に帰っていた。玄関の扉を開けた瞬間、ボーモンさんに泣きつかれて、使用人さん達も涙を流していてちょっと戸惑った。
「クウ様! 何故一人で屋敷の外に出たのですか!? あれほど一人で出掛けるのは危険だと言ったのに」
「ご、ごめんなさい。ボーモンさん。僕、どうしても恩返しがしたくて……」
「クウ様が無理をなさる必要はありません! もし、クウ様がこのまま帰って来なかったら、ぅう」
「だ、大丈夫です! シルヴァン様が一緒に来てくれたので」
「感謝しろよ? ボーモン」
「非常に腹が立ちますが、今回は褒めてあげましょう。シルヴァン様」
「恩人に対して酷くないか!?」
「おや? 自分が何をしたのか、もう忘れたのですか?」
「う!」
この屋敷で一番強いのはボーモンさんじゃないかな? と思う。オーバン様もシルヴァン様も、ボーモンさんの一言で黙ってしまうから。確かに、最初に出会った時はシルヴァン様が怖くて仕方なかったかけど、今はもう平気だ。
「シルヴァン様。約束通り、とっても美味しいフィナンシェ、作りますからね!」
「なんですと!?」
何故かみんながシルヴァン様に詰め寄って「どういうことだ?」と問い質している。僕、何かダメなことを言ったのかな? シルヴァン様は涙目になっていて、ちょっと可哀想に思えてくる。僕が「シルヴァン様を責めないでください」とお願いしたら渋々離れてくれた。
「クウ様。フィナンシェだけはやめておきましょう。オーバン様が絶対に許しません」
「え? ダメなんですか?」
「はい。フィナンシェはクウ様がオーバン様の為に初めて作ったお菓子です。オーバン様にとって、クウ様が作ったフィナンシェは特別な意味を持ちます。ですので、それをこのような世間知らずの阿呆にくれてやる義理はありませぬ」
「おい」
「で、でも、シルヴァン様と約束したので、作らない訳には……」
僕が作るフィナンシェが特別なんて初めて聞いたんですけど!? オーバン様もボーモンさんも、大袈裟だと思います! 過大評価です! 僕が作るフィナンシェは普通のフィナンシェですよ!?
「……仕方ありません。一欠片だけ許しましょう」
「どれだけケチなんだよ! お前ら!」
「ひとかけら……」
それって、食べられるところ、ありますか? シルヴァン様の扱いが、物凄く雑な気がします。
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