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本編
溺愛(療養)生活1
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次に離央が目を覚ますと、そこは病院だった。どうして自分が病院にいるのか分からず、戸惑いながら周囲を見渡すと直ぐ近くから落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
「はじめまして。俺は峯滝氷雨と言います。君は三上離央くんで合ってるかな?」
「は、はじめまして。あの、どうして、ぼくのなまえ……」
「ごめんね。緊急事態だったから、ランドセルを開けて君の名前とご両親の連絡先を確認させてもらったんだ」
「おとうさん、と、おかあさんは?」
「…………」
氷雨は何も答えなかった。おそらく、二人とも相手にしなかったのだろう。氷雨が連絡しても離央が仮病を使っているとでも言われたのかもしれない。分かっていたことなのに、離央が倒れても二人は心配してくれないんだと辛い現実を突きつけられて、唇をキュと噛みしめる。泣くのを必死に耐えている離央の頭に手を置いて、氷雨は「大丈夫」と告げた。
「今は落ち着いていますが、何時風邪がぶり返すか分かりません。三日は安静にしてください」
「分かりました」
「解熱剤と咳止めの薬も出しておきましょう。朝昼晩、食後に必ず飲んでくださいね」
「あ、の、ぼく、おかね、もってない、です」
「それなら大丈夫。俺が全額支払うから」
「え?」
「離央くん。君のご両親は二人とも多忙で暫く家に帰れないと言っていた。倒れた君を一人お家に帰すのは心配だから、一旦俺のお家で療養することになったんだ。君のご両親からも許可は得ているから大丈夫だよ」
「で、でも……」
「離央くん。氷雨たいちょ、こほん。氷雨さんの厚意に甘えてください」
「…………」
「それじゃあ、行こうか。離央くん」
「お大事に」
診察を終え、離央は氷雨に抱き上げられて病院の外へ連れ出された。離央は風邪を少しだけ拗らせてしまっていた。あのまま放置していたら肺炎になっていたかもしれないと医師から報告を受け、離央は自分がかなり危険な状態だったのだと自覚した。直ぐに病院に搬送されたから良かったものの、風邪の症状は続いている。
初めて会ったにも関わらず、氷雨はそんな離央を心配して「またフラついて倒れたら大変だから」と彼の小さな身体をそっと抱き上げて移動した。驚いて降りようとする離央をしっかりと抱き上げ、氷雨は病院の駐車場に停めていた車のドアを片手で開ける。誰が見ても高級車だと分かる車の助手席に離央を乗せ、シートベルトを着用させる。離央が持っていたランドセルや着ていた制服を後部座席に置き、氷雨は運転席に乗った。
「ごめんね。離央くん。突然のことで驚いただろう?」
「……はい」
「学校にはきちんと連絡を入れているから。離央くんは風邪を治すことに専念してね」
「…………」
「君のご両親については、風邪を治してからお話ししよう」
もう大丈夫だよ、と氷雨は優しい笑みを浮かべた。そこで離央は氷雨の顔をちゃんと見る。艶やかな黒い髪。綺麗な紫色の宝石みたいに澄んだ瞳。とても、とても綺麗な人。
このひとは、どうしてぼくをたすけてくれたんだろう? どうして、そんなやさしいめをしてくれるんだろう? どうして、このひとのそばにいると、あんしんするんだろう?
両親の前では離央は何時も怯えていた。それでも愛されようと努力したが、二人が離央を見ることはなかった。しかし、今日初めて出会ったばかりなのに、氷雨のことを怖いとは思わなかった。普通なら「怪しい」と考える筈なのに、何か企んでいると思うのが正解なのに、不思議と「この人は大丈夫」と離央の心が認めているのだ。
「眠ってていいからね。お家に着いたら起こしてあげるから」
「ありがとう、ござい、ます」
まだ風邪の気怠さが残っている為、離央は直ぐに意識を手放した。けれど、昨日のような不安や恐怖を感じることはなかった。
氷雨の家は温泉旅館のような立派な和風建築だった。あまりにも豪華な建物に、離央は中に入るのを躊躇ったが、再び氷雨に抱き上げられてしまう。案内されたのは氷雨の自室で、離央は彼が使用しているベッドに降ろされた。
「全て洗っているから安心して。まだ熱があるから横になっていなさい」
「ん」
氷雨は横になった離央のおでこに子ども用の冷却シートを貼り、喉が渇いた時の為にミネラルウォーターをサイドテーブルに置く。首元まで毛布と掛け布団を被せ「此処は安全だから、しっかり風邪を治そうね」と笑いかける。氷雨は離央の頭を優しく撫でた後、部屋から出て行ってしまった。
「雑炊を作ってくるから、少しだけ待っててね」
部屋に残された離央は、氷雨の言葉を頭の中で何度も繰り返していた。
ぞうすい? つくる? だれが? ひさめさんが?
氷雨が離央の為に雑炊を作ってくれる。それを理解した瞬間、離央は下がった筈の熱が再びぶり返したような錯覚に陥ってしまった。泣いてはいけないのに、また涙が溢れてくる。離央は手料理を食べるのはこれが初めてだった。母親は何時も離央にコンビニやスーパーのパンやおにぎりを買ってくるだけで、彼の為に料理を作ることはなかった。
おかあさんは、つくってくれなかった。でも、ひさめさんは、りょうりを、つくってくれる。
赤の他人なのに、今日出会ったばかりなのに、氷雨は離央を見捨てなかった。病院での治療費も全額支払ってくれて、その後の面倒まで見てくれるという。初めて大人に優しくされた離央は、これは夢なんじゃないか? と思うほど、自分の身に起こったことが信じられなかった。
「はじめまして。俺は峯滝氷雨と言います。君は三上離央くんで合ってるかな?」
「は、はじめまして。あの、どうして、ぼくのなまえ……」
「ごめんね。緊急事態だったから、ランドセルを開けて君の名前とご両親の連絡先を確認させてもらったんだ」
「おとうさん、と、おかあさんは?」
「…………」
氷雨は何も答えなかった。おそらく、二人とも相手にしなかったのだろう。氷雨が連絡しても離央が仮病を使っているとでも言われたのかもしれない。分かっていたことなのに、離央が倒れても二人は心配してくれないんだと辛い現実を突きつけられて、唇をキュと噛みしめる。泣くのを必死に耐えている離央の頭に手を置いて、氷雨は「大丈夫」と告げた。
「今は落ち着いていますが、何時風邪がぶり返すか分かりません。三日は安静にしてください」
「分かりました」
「解熱剤と咳止めの薬も出しておきましょう。朝昼晩、食後に必ず飲んでくださいね」
「あ、の、ぼく、おかね、もってない、です」
「それなら大丈夫。俺が全額支払うから」
「え?」
「離央くん。君のご両親は二人とも多忙で暫く家に帰れないと言っていた。倒れた君を一人お家に帰すのは心配だから、一旦俺のお家で療養することになったんだ。君のご両親からも許可は得ているから大丈夫だよ」
「で、でも……」
「離央くん。氷雨たいちょ、こほん。氷雨さんの厚意に甘えてください」
「…………」
「それじゃあ、行こうか。離央くん」
「お大事に」
診察を終え、離央は氷雨に抱き上げられて病院の外へ連れ出された。離央は風邪を少しだけ拗らせてしまっていた。あのまま放置していたら肺炎になっていたかもしれないと医師から報告を受け、離央は自分がかなり危険な状態だったのだと自覚した。直ぐに病院に搬送されたから良かったものの、風邪の症状は続いている。
初めて会ったにも関わらず、氷雨はそんな離央を心配して「またフラついて倒れたら大変だから」と彼の小さな身体をそっと抱き上げて移動した。驚いて降りようとする離央をしっかりと抱き上げ、氷雨は病院の駐車場に停めていた車のドアを片手で開ける。誰が見ても高級車だと分かる車の助手席に離央を乗せ、シートベルトを着用させる。離央が持っていたランドセルや着ていた制服を後部座席に置き、氷雨は運転席に乗った。
「ごめんね。離央くん。突然のことで驚いただろう?」
「……はい」
「学校にはきちんと連絡を入れているから。離央くんは風邪を治すことに専念してね」
「…………」
「君のご両親については、風邪を治してからお話ししよう」
もう大丈夫だよ、と氷雨は優しい笑みを浮かべた。そこで離央は氷雨の顔をちゃんと見る。艶やかな黒い髪。綺麗な紫色の宝石みたいに澄んだ瞳。とても、とても綺麗な人。
このひとは、どうしてぼくをたすけてくれたんだろう? どうして、そんなやさしいめをしてくれるんだろう? どうして、このひとのそばにいると、あんしんするんだろう?
両親の前では離央は何時も怯えていた。それでも愛されようと努力したが、二人が離央を見ることはなかった。しかし、今日初めて出会ったばかりなのに、氷雨のことを怖いとは思わなかった。普通なら「怪しい」と考える筈なのに、何か企んでいると思うのが正解なのに、不思議と「この人は大丈夫」と離央の心が認めているのだ。
「眠ってていいからね。お家に着いたら起こしてあげるから」
「ありがとう、ござい、ます」
まだ風邪の気怠さが残っている為、離央は直ぐに意識を手放した。けれど、昨日のような不安や恐怖を感じることはなかった。
氷雨の家は温泉旅館のような立派な和風建築だった。あまりにも豪華な建物に、離央は中に入るのを躊躇ったが、再び氷雨に抱き上げられてしまう。案内されたのは氷雨の自室で、離央は彼が使用しているベッドに降ろされた。
「全て洗っているから安心して。まだ熱があるから横になっていなさい」
「ん」
氷雨は横になった離央のおでこに子ども用の冷却シートを貼り、喉が渇いた時の為にミネラルウォーターをサイドテーブルに置く。首元まで毛布と掛け布団を被せ「此処は安全だから、しっかり風邪を治そうね」と笑いかける。氷雨は離央の頭を優しく撫でた後、部屋から出て行ってしまった。
「雑炊を作ってくるから、少しだけ待っててね」
部屋に残された離央は、氷雨の言葉を頭の中で何度も繰り返していた。
ぞうすい? つくる? だれが? ひさめさんが?
氷雨が離央の為に雑炊を作ってくれる。それを理解した瞬間、離央は下がった筈の熱が再びぶり返したような錯覚に陥ってしまった。泣いてはいけないのに、また涙が溢れてくる。離央は手料理を食べるのはこれが初めてだった。母親は何時も離央にコンビニやスーパーのパンやおにぎりを買ってくるだけで、彼の為に料理を作ることはなかった。
おかあさんは、つくってくれなかった。でも、ひさめさんは、りょうりを、つくってくれる。
赤の他人なのに、今日出会ったばかりなのに、氷雨は離央を見捨てなかった。病院での治療費も全額支払ってくれて、その後の面倒まで見てくれるという。初めて大人に優しくされた離央は、これは夢なんじゃないか? と思うほど、自分の身に起こったことが信じられなかった。
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