捨てられた子が龍の化身に溺愛されるまで《完結》

トキ

文字の大きさ
2 / 66
本編

溺愛(療養)生活1

しおりを挟む
 次に離央が目を覚ますと、そこは病院だった。どうして自分が病院にいるのか分からず、戸惑いながら周囲を見渡すと直ぐ近くから落ち着いた男性の声が聞こえてきた。

「はじめまして。俺は峯滝氷雨みねたきひさめと言います。君は三上離央みかみりおくんで合ってるかな?」
「は、はじめまして。あの、どうして、ぼくのなまえ……」
「ごめんね。緊急事態だったから、ランドセルを開けて君の名前とご両親の連絡先を確認させてもらったんだ」
「おとうさん、と、おかあさんは?」
「…………」

 氷雨は何も答えなかった。おそらく、二人とも相手にしなかったのだろう。氷雨が連絡しても離央が仮病を使っているとでも言われたのかもしれない。分かっていたことなのに、離央が倒れても二人は心配してくれないんだと辛い現実を突きつけられて、唇をキュと噛みしめる。泣くのを必死に耐えている離央の頭に手を置いて、氷雨は「大丈夫」と告げた。

「今は落ち着いていますが、何時風邪がぶり返すか分かりません。三日は安静にしてください」
「分かりました」
「解熱剤と咳止めの薬も出しておきましょう。朝昼晩、食後に必ず飲んでくださいね」
「あ、の、ぼく、おかね、もってない、です」
「それなら大丈夫。俺が全額支払うから」
「え?」
「離央くん。君のご両親は二人とも多忙で暫く家に帰れないと言っていた。倒れた君を一人お家に帰すのは心配だから、一旦俺のお家で療養することになったんだ。君のご両親からも許可は得ているから大丈夫だよ」
「で、でも……」
「離央くん。氷雨たいちょ、こほん。氷雨さんの厚意に甘えてください」
「…………」
「それじゃあ、行こうか。離央くん」
「お大事に」

 診察を終え、離央は氷雨に抱き上げられて病院の外へ連れ出された。離央は風邪を少しだけ拗らせてしまっていた。あのまま放置していたら肺炎になっていたかもしれないと医師から報告を受け、離央は自分がかなり危険な状態だったのだと自覚した。直ぐに病院に搬送されたから良かったものの、風邪の症状は続いている。

 初めて会ったにも関わらず、氷雨はそんな離央を心配して「またフラついて倒れたら大変だから」と彼の小さな身体をそっと抱き上げて移動した。驚いて降りようとする離央をしっかりと抱き上げ、氷雨は病院の駐車場に停めていた車のドアを片手で開ける。誰が見ても高級車だと分かる車の助手席に離央を乗せ、シートベルトを着用させる。離央が持っていたランドセルや着ていた制服を後部座席に置き、氷雨は運転席に乗った。

「ごめんね。離央くん。突然のことで驚いただろう?」
「……はい」
「学校にはきちんと連絡を入れているから。離央くんは風邪を治すことに専念してね」
「…………」
「君のご両親については、風邪を治してからお話ししよう」

 もう大丈夫だよ、と氷雨は優しい笑みを浮かべた。そこで離央は氷雨の顔をちゃんと見る。艶やかな黒い髪。綺麗な紫色の宝石みたいに澄んだ瞳。とても、とても綺麗な人。

 このひとは、どうしてぼくをたすけてくれたんだろう? どうして、そんなやさしいめをしてくれるんだろう? どうして、このひとのそばにいると、あんしんするんだろう?

 両親の前では離央は何時も怯えていた。それでも愛されようと努力したが、二人が離央を見ることはなかった。しかし、今日初めて出会ったばかりなのに、氷雨のことを怖いとは思わなかった。普通なら「怪しい」と考える筈なのに、何か企んでいると思うのが正解なのに、不思議と「この人は大丈夫」と離央の心が認めているのだ。

「眠ってていいからね。お家に着いたら起こしてあげるから」
「ありがとう、ござい、ます」

 まだ風邪の気怠さが残っている為、離央は直ぐに意識を手放した。けれど、昨日のような不安や恐怖を感じることはなかった。





 氷雨の家は温泉旅館のような立派な和風建築だった。あまりにも豪華な建物に、離央は中に入るのを躊躇ったが、再び氷雨に抱き上げられてしまう。案内されたのは氷雨の自室で、離央は彼が使用しているベッドに降ろされた。

「全て洗っているから安心して。まだ熱があるから横になっていなさい」
「ん」

 氷雨は横になった離央のおでこに子ども用の冷却シートを貼り、喉が渇いた時の為にミネラルウォーターをサイドテーブルに置く。首元まで毛布と掛け布団を被せ「此処は安全だから、しっかり風邪を治そうね」と笑いかける。氷雨は離央の頭を優しく撫でた後、部屋から出て行ってしまった。

「雑炊を作ってくるから、少しだけ待っててね」

 部屋に残された離央は、氷雨の言葉を頭の中で何度も繰り返していた。

 ぞうすい? つくる? だれが? ひさめさんが?

 氷雨が離央の為に雑炊を作ってくれる。それを理解した瞬間、離央は下がった筈の熱が再びぶり返したような錯覚に陥ってしまった。泣いてはいけないのに、また涙が溢れてくる。離央は手料理を食べるのはこれが初めてだった。母親は何時も離央にコンビニやスーパーのパンやおにぎりを買ってくるだけで、彼の為に料理を作ることはなかった。

 おかあさんは、つくってくれなかった。でも、ひさめさんは、りょうりを、つくってくれる。

 赤の他人なのに、今日出会ったばかりなのに、氷雨は離央を見捨てなかった。病院での治療費も全額支払ってくれて、その後の面倒まで見てくれるという。初めて大人に優しくされた離央は、これは夢なんじゃないか? と思うほど、自分の身に起こったことが信じられなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...