捨てられた子が龍の化身に溺愛されるまで《完結》

トキ

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本編

家族1

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 明日から学校へ登校する為、氷雨は離央と一緒に必要な教材を確認して新しく購入したランドセルに詰め込んでいった。教科書やノートも買い直すか悩んだが、離央が「いまのままで、だいじょうぶです」と言ったので、シールを貼ってそこに新しい名前を書くことにしたのだ。二年生になれば新しい教科書になるから、と。何度も何度も練習して書いたが、思い通りに書けなかったのか離央は落ち込んでしまった。

「うまく、かけない」
「俺が書こうか? 二年生になったら自分で書いてみる?」
「いいんですか?」
「ペンを貸してごらん」
「はい」

 離央からペンを渡してもらい、スラスラと新しい名前を記入していく。氷雨は字も上手く、一文字一文字丁寧に書かれていく様子を目を輝かせて見つめていた。

「これで全部かな?」
「す、すごいです! ひさめさんのじ、とってもきれいです!」

 峯滝逢珠真。漢字で書かれた名前の上に、平仮名で「みねたきあすま」と書かれている。漢字が難しいから、名前は平仮名にしようと氷雨が提案したが、離央は名前の由来と漢字の意味を教えてもらって「かんじがいいです!」と何度も何度も氷雨に訴えたのだ。

「ふふふ。ありがとう。それじゃあ、俺も今から離央くんのことを逢珠真って呼ぶけど、いいかな?」
「はい!」
「元気にお返事できてえらいね。さて、明日の準備はこれで大丈夫かな? 先生から渡されたノートとプリントの確認は?」
「できてます! しぐれさんがおべんきょう、おしえてくれました!」
「逢珠真くん、飲み込みが早いのであっという間に終わっちゃったんですよ」
「えらいね。じゃあ、今日はご馳走を作らなきゃ」
「ごちそう?」
「今日は逢珠真が俺の家族になった記念日だからね。美味しいものをたっくさん作ってあげる」
「さて、私はこれで失礼します。書類はたいちょ、氷雨さんが提出するんですよね?」
「あぁ。大切な書類だから、俺が直接提出したい」
「かしこまりました。では、また明日お店で」
「助かったよ。時雨。また明日」
「はい。逢珠真くん、また会いましょうね」
「ありがとうございます。しぐれさん。さようなら」
「ふふ。さようなら」

 二人に別れの挨拶を済ませ、時雨は氷雨の家を後にした。時雨が帰った後、氷雨はキッチンに向かい夕食の準備を始める。逢珠真も氷雨に着いていき、キッチンと隣接する広々としたリビングのソファに座って氷雨の姿を目で追っていた。好きに寛いでいいからと言われたが、逢珠真は首を横に振って「ひさめさんを、みていたいです」と恥ずかしそうに告げた。

 ザクザク、と野菜を切る音。グツグツと何かを煮込む音。ジュッとお肉を焼く音。キッチンから美味しそうな匂いが漂ってきて、逢珠真は自分のお腹に手を置いた。風邪で寝込んでいた時は氷雨が作った料理を部屋まで運んでくれていた為、彼が料理をしている姿を見るのはこれが初めてだ。エプロン姿の氷雨も格好よくて、とても綺麗で、逢珠真は料理が完成するまで彼に魅入っていた。

「わあ!」

 テーブルに並べられた色鮮やかな料理を見て、逢珠真は目を輝かせた。野菜と卵のサラダ。優しいクリーム色のポタージュスープ。肉汁溢れる和牛のステーキ。こんがり焼けた、もっちもちのロールパン。初めて見るご馳走を見て、逢珠真は「すごいです!」と「おみせみたいです!」と氷雨に告げて大興奮。喜ぶ逢珠真の姿に氷雨も嬉しくなり「あったかい内に食べようか」と伝えて、彼を椅子に座らせる。

「それじゃあ、両手を合わせて、いただきます」
「いただきます!」
「ご飯もあるから、食べたくなったら教えてね」
「はい」

 料理が沢山ありすぎて逢珠真は迷ってしまい、氷雨が口にしたものを自分も食べることにした。最初は野菜と卵のサラダ。次にコーンポタージュ。少しだけパンを齧り、一口サイズにカットされたステーキをパクッと口に含む。

「美味しい?」

 もごもごと口を動かして喋れない為、逢珠真はコクコクと頷いて氷雨に返事をした。サラダはシャキシャキで、コーンポタージュはとろとろで甘く、パンはもっちりふかふかで、ステーキは柔らかくてジュワッと肉汁が溢れてくる。風邪が治ったばかりで、食べられるか氷雨は心配していたが、逢珠真は幸せそうに一品一品噛み締めている。量は少なめにしているが、きちんと食べられていることに氷雨は安堵する。

「ひさめさん、それは?」
「逢珠真も作ってみる? ステーキサンド。ロールパンを半分に切って、ステーキをレタスで包んで」
「こ、こう、ですか?」
「うん。上手。それをパンに挟んで食べてみて」
「ん!」

 氷雨に言われた通り自分でステーキサンドを作り、パクッと口にした瞬間、逢珠真の表情がぱあっと輝いた。氷雨もステーキサンドを口にして、逢珠真と一緒に楽しい夕食を堪能した。





 逢珠真はご馳走を完食した。氷雨と一緒に食べるご飯はとても美味しくて、ずっとにまにまと笑っている。二人で両手を合わせて「ごちそうさまでした」と告げて、氷雨が食器を片付ける。逢珠真も手伝おうとしたが、氷雨は「お皿を割って怪我をしたら大変だから」と言って手際よく片付けてしまった。逢珠真は椅子に座ったまま、食器を洗う氷雨を見ることしかできない。食器の片付けが終わると、氷雨は冷蔵庫から白い箱を取り出し逢珠真の前に置いた。

「箱を開けてみて」
「えっと、こう、ですか?」

 箱は簡単に開けられて、中に入っていたものを見て逢珠真は箱を持ったまま固まってしまった。箱の中には、真っ白なクリームと大きな苺が沢山乗ったホールケーキ。

「何時もは和菓子を作っているんだけど、お祝い事にはやっぱりケーキがいいかなと思って作ってみたんだ」
「これを、ひさめさん、が?」
「そうだよ。今日は、逢珠真が俺の家族になった大切な日だからね」
「ひさめさん!」
「おっと」

 持っていた箱を置いて、逢珠真は隣に立つ氷雨に抱きついた。嬉しくて嬉しくて、また涙が溢れてくる。突然抱きついてきた逢珠真を抱きとめ、氷雨は優しく彼の頭を撫でた。逢珠真の涙は直ぐに止まり、氷雨から「ケーキ、一緒に食べる?」と聞かれて元気よく「はい!」と答えた。

 ホールケーキを四等分に切り分け、一切れを小皿に載せ逢珠真の前に置く。飲み物は温かいはちみつレモン。氷雨はコーヒーをカップに注ぎ、二人でケーキを堪能する。

「おいしい!」
「よかった。洋菓子はあまり作ったことがなくて不安だったんだけど」
「とってもおいしいです! ひさめさん、ありがとうございます!」
「ふふ。まだ半分残っているから、明日学校から帰ってきたら食べようか」
「いいんですか!?」
「勿論。これは君の為に作ったケーキだから」

 ケーキを食べたのも初めてで、逢珠真は一口一口、大切に食べた。大きな苺は最後に食べたくて小皿の端に置いているのがとても可愛い。口元にクリームが付いて、それを指で掬い上げると恥ずかしそうに頬を染めて「ありがとうございます」とお礼を言う。

「ひさめさん。ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございます」
「気にしなくていいんだよ。君はもう俺の大切な家族なんだから」
「ひさめさんのこになれて、すごくうれしいです。えっと、ふつつかものですが、よろしくおねがいします」
「ゴフ!」

 飲みかけていたコーヒーを吹き出し、氷雨はゲホッ、ゴホッと咳き込んでしまう。突然咳き込んでしまった氷雨を心配して逢珠真が「ひさめさん、だいじょうぶですか!?」と声をかけてくれた。氷雨は「だ、大丈夫」と伝えて息を整えると、逢珠真の両肩に手を置いて「逢珠真、その台詞は、一体どこで覚えたの?」と質問する。

「しぐれさんが『さいしょのごあいさつはだいじです』っていって、おしえてくれました」
「そう、か。逢珠真、言葉の意味は分かるかな?」
「わからないです。こういえばばっちりだと、しぐれさんが……」
「教えてくれてありがとう。でも、今の逢珠真が言うにはちょっと……かなり早いから、もう言っちゃダメだよ」
「ん? えっと、わかりました」

 時雨め、余計なことを。何も知らないことをいいことに、逢珠真に変なことを吹き込まないよう注意しておかなければ。そう決意して、氷雨は逢珠真に「時雨の言うことを真に受けてはいけないよ」と忠告した。
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