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本編
おまけ「桜子さん誕生秘話」
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時雨が手にしている薄紅色の着物を見て氷雨は頭を抱えた。桜柄の可愛らしい着物に、鶯色の組紐。紅葉のような真っ赤なエプロン。結んでいた髪を解いて櫛で梳き、丁寧に編み込んで結い上げ、桜の簪で飾れば世の男性を虜にする大和撫子の完成だ。
「綺麗ですよ。桜子さん」
「複雑な気持ちになるから止めてくれ」
薄く化粧もすれば、何処からどう見ても大和撫子。氷雨が桜子を演じるようになったのは従業員達(時雨も含む)による悪ふざけが始まりだった。従業員は全員氷雨の元部下。前の世界では軍人だった為、雨之神の従業員は男性しか居なかった。そう、男性しか居ない。つまり、女性従業員はゼロ。男ばかりの職場環境は、彼らの精神をおかしくさせ、女性に癒しを求めるようになった。飲み会や忘年会で「俺だって可愛い女の子とお付き合いしたい!」やら「職場でも女性に癒されたい!」やら自分の欲を叫び続けた。そう、彼らは可愛い女の子に飢えていた。
女性に飢えた男達の欲求は凄まじく、職場でも「花がない」とか「綺麗な女性がいてくれたら」とブツブツと呟き、年末年始の繁忙期でとうとう我慢していた糸がブツンと切れてしまった。連日残業続きで頭が回っておらず、何を思ったのか「隊長が女装したら大和撫子になるんじゃね?」と誰かがボソッと呟いた。
「確かに隊長は美人だけど、腹筋割れてるぞ?」
「いくら隊長が美人でも女装は無理だって!」
「悪鬼殲滅してた時の隊長を思い出せよ? 大和撫子か?」
「無情の鬼って言われてたよな! 大和撫子から一番遠いわ!」
「一瞬ありだと思ったけど、やっぱねーわ!」
「ないない!」
ゲラゲラと同僚と笑い合っている部下達はその会話を氷雨に聞かれていたとは知らず、背後に彼の姿を見て顔面蒼白になった。そしてどういう訳か、一回女装してみよう! という話になったのだ。時雨が悪ノリして断ろうとする氷雨を控室に引っ張り込み、女性用の着物をてきぱきと着せていく。
「皆さん! できましたよ!」
「時雨! 引っ張るな! 俺が女装しても似合わないだろ!」
「……あれ? 幻想か? 目の前に大和撫子がいる」
「理想だ。俺の、俺の理想の女性が此処に!」
「副隊長! これ、いけるんじゃないっすか!?」
「隊長! 髪! 髪結いましょう!」
「おい誰か! 桜の簪買ってきてくれ!」
薄紅色に桜模様の着物を纏っただけなのに、氷雨はとても美しかった。普段は後ろで一つにまとめている髪も解かれており、艶やかな長い黒髪が淡い着物とよく似合う。先程まで「有り得ねえ!」とか「大和撫子は無理!」とか言ってゲラゲラ笑っていたというのに、彼らは更に調子に乗って氷雨を着飾った。悪ふざけで無駄な才能を発揮した結果、氷雨は理想の大和撫子に変身した。
「完璧です!」
「おお! 隊長だと分かっているのに、それでも美しい!」
「やばい。結婚してほしい! 隊長とは嫌だけど、こんな女性と結婚したい!」
「拝むだけなら癒し効果抜群! 中身は隊長だけど!」
「あ、名前どうする?」
「大和撫子で桜と言ったら、やっぱり……」
「桜子! ですよね!」
「流石は副隊長! 分かってるー!」
「満場一致で桜子さん!」
「異論は?」
ない! と全員の声が揃う。綺麗に着飾られた氷雨は部下達(時雨も含む)のノリにドン引きし、これで満足したかと早々に着物を脱ぎ始める。
「何をしているんですか! 隊長!」
「いや。もう十分だろう?」
「ダメです! 隊長! こんなに美しいのに!」
「俺達の唯一の癒し! 桜子さん!」
「折角綺麗に着飾ったのですから、試しに接客してみませんか? 隊長」
「今日はエイプリルフールでもハロウィンでもないぞ?」
「隊長! 一度だけ! 一度だけでいいんで!」
「もう開店の時間っすよ! 隊長!」
「おい!」
そして、この世に桜子という幻の美女が誕生した。雨之神で働く彼女の立ち振る舞いは美しく、柔らかく微笑む姿は桜のようで、歩く度に揺れる桜の簪が優美でずっと見ていても飽きず、桜子は正に理想の大和撫子だった。
桜子として氷雨が接客をした結果、お店は更に大繁盛。和菓子は勿論、桜子は男性客の心をも鷲掴みにした。桜子の噂はあっという間に拡散され、メディアやネットで何度も話題になった。「幻の美女、桜子さんに出会う条件」とか「桜子さんが次に接客するのはこの日だ!」とか。徹底的に分析する輩まで出てきて、氷雨は勿論、悪ノリと悪ふざけで彼を着飾った部下達も若干引いた。
「逢珠真にだけは知られたくなかったのに」
「伴侶の直感でしょうか? 逢珠真くん、一目で見破ったんでしょう?」
「この件に関しては全く嬉しくない」
逢珠真がアドリブで演技をしていた時、従業員の元部下達は彼の「およめにいっちゃうの!?」という台詞で全員ダメになった。更に追い討ちをかけるように「ぼくが、まもるからね」からの「ひさめさんは、おひめさまです」と「かいせんどんにされちゃう!」の強烈なトリプルコンボ。前世の戦闘能力バカ高い氷雨を知っている従業員達は、逢珠真の純粋な言葉が面白すぎてずっと笑い転げていた。その後、怒った氷雨からきついお叱りを受けることになったのは言うまでもない。
「綺麗ですよ。桜子さん」
「複雑な気持ちになるから止めてくれ」
薄く化粧もすれば、何処からどう見ても大和撫子。氷雨が桜子を演じるようになったのは従業員達(時雨も含む)による悪ふざけが始まりだった。従業員は全員氷雨の元部下。前の世界では軍人だった為、雨之神の従業員は男性しか居なかった。そう、男性しか居ない。つまり、女性従業員はゼロ。男ばかりの職場環境は、彼らの精神をおかしくさせ、女性に癒しを求めるようになった。飲み会や忘年会で「俺だって可愛い女の子とお付き合いしたい!」やら「職場でも女性に癒されたい!」やら自分の欲を叫び続けた。そう、彼らは可愛い女の子に飢えていた。
女性に飢えた男達の欲求は凄まじく、職場でも「花がない」とか「綺麗な女性がいてくれたら」とブツブツと呟き、年末年始の繁忙期でとうとう我慢していた糸がブツンと切れてしまった。連日残業続きで頭が回っておらず、何を思ったのか「隊長が女装したら大和撫子になるんじゃね?」と誰かがボソッと呟いた。
「確かに隊長は美人だけど、腹筋割れてるぞ?」
「いくら隊長が美人でも女装は無理だって!」
「悪鬼殲滅してた時の隊長を思い出せよ? 大和撫子か?」
「無情の鬼って言われてたよな! 大和撫子から一番遠いわ!」
「一瞬ありだと思ったけど、やっぱねーわ!」
「ないない!」
ゲラゲラと同僚と笑い合っている部下達はその会話を氷雨に聞かれていたとは知らず、背後に彼の姿を見て顔面蒼白になった。そしてどういう訳か、一回女装してみよう! という話になったのだ。時雨が悪ノリして断ろうとする氷雨を控室に引っ張り込み、女性用の着物をてきぱきと着せていく。
「皆さん! できましたよ!」
「時雨! 引っ張るな! 俺が女装しても似合わないだろ!」
「……あれ? 幻想か? 目の前に大和撫子がいる」
「理想だ。俺の、俺の理想の女性が此処に!」
「副隊長! これ、いけるんじゃないっすか!?」
「隊長! 髪! 髪結いましょう!」
「おい誰か! 桜の簪買ってきてくれ!」
薄紅色に桜模様の着物を纏っただけなのに、氷雨はとても美しかった。普段は後ろで一つにまとめている髪も解かれており、艶やかな長い黒髪が淡い着物とよく似合う。先程まで「有り得ねえ!」とか「大和撫子は無理!」とか言ってゲラゲラ笑っていたというのに、彼らは更に調子に乗って氷雨を着飾った。悪ふざけで無駄な才能を発揮した結果、氷雨は理想の大和撫子に変身した。
「完璧です!」
「おお! 隊長だと分かっているのに、それでも美しい!」
「やばい。結婚してほしい! 隊長とは嫌だけど、こんな女性と結婚したい!」
「拝むだけなら癒し効果抜群! 中身は隊長だけど!」
「あ、名前どうする?」
「大和撫子で桜と言ったら、やっぱり……」
「桜子! ですよね!」
「流石は副隊長! 分かってるー!」
「満場一致で桜子さん!」
「異論は?」
ない! と全員の声が揃う。綺麗に着飾られた氷雨は部下達(時雨も含む)のノリにドン引きし、これで満足したかと早々に着物を脱ぎ始める。
「何をしているんですか! 隊長!」
「いや。もう十分だろう?」
「ダメです! 隊長! こんなに美しいのに!」
「俺達の唯一の癒し! 桜子さん!」
「折角綺麗に着飾ったのですから、試しに接客してみませんか? 隊長」
「今日はエイプリルフールでもハロウィンでもないぞ?」
「隊長! 一度だけ! 一度だけでいいんで!」
「もう開店の時間っすよ! 隊長!」
「おい!」
そして、この世に桜子という幻の美女が誕生した。雨之神で働く彼女の立ち振る舞いは美しく、柔らかく微笑む姿は桜のようで、歩く度に揺れる桜の簪が優美でずっと見ていても飽きず、桜子は正に理想の大和撫子だった。
桜子として氷雨が接客をした結果、お店は更に大繁盛。和菓子は勿論、桜子は男性客の心をも鷲掴みにした。桜子の噂はあっという間に拡散され、メディアやネットで何度も話題になった。「幻の美女、桜子さんに出会う条件」とか「桜子さんが次に接客するのはこの日だ!」とか。徹底的に分析する輩まで出てきて、氷雨は勿論、悪ノリと悪ふざけで彼を着飾った部下達も若干引いた。
「逢珠真にだけは知られたくなかったのに」
「伴侶の直感でしょうか? 逢珠真くん、一目で見破ったんでしょう?」
「この件に関しては全く嬉しくない」
逢珠真がアドリブで演技をしていた時、従業員の元部下達は彼の「およめにいっちゃうの!?」という台詞で全員ダメになった。更に追い討ちをかけるように「ぼくが、まもるからね」からの「ひさめさんは、おひめさまです」と「かいせんどんにされちゃう!」の強烈なトリプルコンボ。前世の戦闘能力バカ高い氷雨を知っている従業員達は、逢珠真の純粋な言葉が面白すぎてずっと笑い転げていた。その後、怒った氷雨からきついお叱りを受けることになったのは言うまでもない。
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