捨てられた子が龍の化身に溺愛されるまで《完結》

トキ

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本編

守りたい人2

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 まさか学校にまで乗り込んで来るとは。一体何処から自分の情報が漏れてしまったのか。気になるが、今は氷雨に言い寄る女を何とかしなければいけないと、幸平は声を張り上げた。

「恋鞠! お前、こんなところで一体何をしているんだ!?」
「ひ! こ、幸平……た、助けてください! この人、何時も私に意地悪してきて」
「峯滝さん、本当に、本当に申し訳ありません。彼女は私の知り合いで、直ぐに帰らせますから」
「先生が謝る必要はありませんよ」
「ちょっと! 離してよ! 幸平! 私は化身の伴侶なのよ!」
「いい加減にしてくれ! お前の妄想に付き合うのはもううんざりなんだよ! 化身だ伴侶だと、そんな馬鹿げた話が現実にある訳ないだろ!」
「なによ! 自分が特別じゃないからって私に八つ当たりしないで! 本当の親から愛されなかったのはアンタが原因じゃない! 容姿も普通で、可愛げがなくて、いっつも勉強ばかりしてて、お金だって独り占めしたくせに!」
「自分の親が亡くなったのに葬儀にも来ないで、遺産目当てで図々しく家に乗り込んできたお前達に渡す金なんてある訳ないだろ!」
「アンタだって自分の親を捨てたじゃない! 私達がお金に困ってるって言っても『自分達で何とかしろ』なんて、薄情だわ!」
「働きもしないで金だけ要求するお前達に言われる筋合いはない! さっさと帰れ!」
「ひ、ひどい! 私がこんなに困っているのに! 何時も私をいじめて、ぅう」

 恋鞠と呼ばれた女性の腕を掴んで必死に引っ張るが、彼女はまた幸平にいじめられたと涙を浮かべて氷雨に助けを求めた。ずっと静観していた氷雨は、どちらが正しいか最初から分かっていた。

「先生。この学校に通う生徒を拉致した犯人についてお話があるのですが……」

 幸平から簡単に事情を聞いていた氷雨は、彼女が最も触れてほしくない話を持ち出した。すると、先程まで騒いでいた恋鞠は急に静かになり、氷雨から距離をとる。警察には通報済みで、犯人が見付かったら即逮捕できるよう準備を進めていると。逮捕された場合の罪状や刑罰について氷雨が詳しく話すと、恋鞠は「よ、用事を思い出したから、私は帰るわ」と言って逃げるように走り去ってしまった。

「霧島先生!」
「先生! 大丈夫か?」
「ごめんね。突然怒鳴ったりして。彼女とは長い付き合いなので、気にしないでください」
「せんせい、あのひとに、いじめられているんですか?」
「……いじめ、とは少し違うかな? 三人とも、心配してくれてありがとう」

 恋鞠が去った後、隠れていた逢珠真達は急いで幸平の元へ駆け寄った。みんな口々に「大丈夫?」と心配するが、やはり「平気」としか答えてくれない。誰が見ても辛そうな顔をしているのに、教え子達に心配をかけまいと気丈に振る舞う姿が余計に痛々しく見える。

「霧島先生。何か事情があるのなら、七瀬に相談してみてはどうですか?」
「え?」
「以前話した通り、七瀬は弁護士の資格を持っています。法律に詳しいので、きっと先生の力になってくれますよ」
「…………」

 暫く黙った後、幸平はまた無理矢理笑顔を作って「これは私個人の問題なので、私の力で解決します」と震える声で告げた。必死に泣くのを耐えているような苦しい表情をする彼を放っておくことなど出来る筈もなく、氷雨は「では先生。また後で」と言って逢珠真達を連れて学校付近にある駐車場まで歩いて移動した。そして、三人を車に乗せて「少しだけ待ってて」と伝え、端末を取り出す。

『隊長? 何かあったんですか?』
「時雨、今から俺の家に来ることは可能か?」
『それは、可能ですが』
「なら来てほしい。例の事件について、霧島先生から話がある。先生の家庭環境にも問題がありそうだから、何かあったら彼を守ってほしい」
『幸平さんが!? 分かりました。直ぐに向かいます』
「あぁ」

 通話を切り、氷雨は小さなため息を吐いた。恋鞠という女性との会話から察するに、幸平は化身と伴侶を嫌悪している可能性が高い。確かに、一般人からしてみれば夢物語に過ぎない。少女漫画や恋愛小説の中だけで繰り広げられるストーリーで、現実にそんな御伽噺が存在する筈がないと、彼は思い込んでしまっている。時雨が水を司る龍の化身で、幸平はそんな彼の愛する伴侶だと知ったらどう思うのか。やっと見付けた最愛の伴侶から拒絶されることを、化身は最も恐れる。何事もなく二人が結ばれてほしいと、願わずにはいられなかった。





 省吾と歌織を家まで送り届けた後、氷雨と逢珠真は自宅に帰って幸平が何時来てもいいようにお茶の準備を始めた。すると、玄関からインターフォンが鳴り、二人が出迎えると予定通り幸平と時雨も一緒にやって来た。

「それで、霧島先生。実行犯が分かったというのは、本当なんですか?」
「はい。証拠と言えるかは分かりませんが、前の父が落とした手帳に、これが挟まっていて」

 幸平を客室に通し、人数分のお茶を机に置いて氷雨が本題に入ると、彼は鞄の中から革製の手帳を取り出して氷雨達に見せた。幸平が付箋の貼られたページを開くと、そのページには何故か逢珠真の写真が何枚か挟まれていた。更に、時刻とメモがびっしりと書かれており、一つ一つ内容を確認すると逢珠真を誘拐する為の手順が丁寧に書かれている。

「峯滝くんが拉致される前、前の両親に私の身元がバレてしまい『金を寄越せ』と言われました。私は『そんな金はない』と強く断ったのですが、まさか私の教え子を拉致して金儲けしようと企んでいたなんて……」
「霧島先生」
「本当に、申し訳ありません。峯滝くんが狙われた原因は私です。こんなことになるなら、あの時、お金を渡していればよかった! そうすれば、峯滝くんが怖い思いをすることもなかったのに」
「きりしませんせい。ぼく、ぜんぜんこわくなかったよ」
「え?」
「おにいちゃんたちがいっしょだったから。それに、せんせいは、ちっともわるくないです!」
「そうですね。逢珠真くんの言う通りです」
「お金を渡さなくて正解です。一度渡してしまうと、それに味を占めた連中は執拗にお金を要求し続けますから」

 幸平に元気がなかった理由は、自分の身内が教え子を拉致した犯人だから。やっと毒親の元から離れて幸せを手に入れた逢珠真を狙ったのは悪趣味にも程がある。彼はその原因は自分にあると己自身を責め立てているが、誰もそんなことを思いはしない。

「この手帳は私が預かってもよろしいですか?」
「勿論。少しでも参考になれば」
「参考どころか、これは立派な証拠です。逢珠真くんを拉致するよう命令した犯人は直ぐに分かりましたが、実行犯は調査中だったので本当に助かりました。ありがとうございます。霧島さん」
「いえ、私は……」
「生徒達が心配なのは分かりますが、霧島先生も気を付けてください」
「ありがとうございます。私は平気です。彼女達には慣れているので」
「そんなもの、慣れる必要はありません。私も霧島さんが心配です」
「え? あの、七瀬さん、顔がちか……」
「そこで提案なのですが、犯人が逮捕されるまで、私と一緒に暮らしませんか? 霧島さん。いいえ、幸平さん!」
「はあ!?」

 化身は愛しい伴侶が相手だと時々感情が暴走することがある。今の時雨がそうだ。前世では出会えなかった愛しい伴侶が目の前にいて、彼も逢珠真と同じように両親が毒親だった可能性が非常に高い。それに加え、恋鞠とかいう脳内花畑のモンスターまで幸平を虐げていたのだ。時雨が心配になるのも無理はない。が、感情が暴走しすぎて幸平が若干引いている。

「しぐれさんときりしませんせい、いっしょにくらすんですか?」
「え? ち、違います! 暮らしませんからね!」
「とってもおにあいです! ぼく、ふたりをおうえんします!」
「ありがとうございます。逢珠真くん」
「いや、あの。応援って、私も七瀬さんも男……」
「その件に関しては時雨から詳しく聞いてください」
「え?」
「霧島さんの毒親達は私が担当しますので、隊長はあのバカ息子の相手をお願いします」
「言われなくてもそのつもりだ。徹底的に排除しろ」
「御意」
「え? あの、二人とも、なんの話を……」

 二人の中では既に決定事項。困惑する幸平を時雨が玄関まで優しくエスコートし、車に乗る時も紳士のように振る舞った。

「それでは、また情報が入り次第連絡しますね」
「分かった」
「氷雨さん、逢珠真くん。また会いましょう」
「はい。しぐれさん、きりしませんせい、さようなら」
「さ、さようなら?」

 少し怯えた幸平を助手席に乗せ、時雨は車を走らせた。先ずは彼が住んでいるアパートへ向かい、必要なものを詰め込んでから時雨の家に向かうらしい。こういう時の化身の行動力は本当に恐ろしいなと思いつつ、氷雨は二人を見送った。
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