捨てられた子が龍の化身に溺愛されるまで《完結》

トキ

文字の大きさ
40 / 66
本編

虚妄4

しおりを挟む
 夜の七時三十分。投稿者が指定した時刻通りに桜子は公園へ一人でやって来た。夜の公園は明かりが少なく、人通りもない。若い女性一人で歩くには物騒だが、桜子は怯えることなく息子の画像を公開すると宣言した男達を見据えた。

「すげえ! 本物の桜子だ! 近くで見ると本当にいい女だな!」
「櫂飛! 不躾に触るな! 桜子は俺の伴侶なんだぞ!」
「摘み食いしてもいいですよね? 政典さん」
「俺が隅々まで堪能した後ならな」
「やった!」

 初対面にも関わらず、男達は桜子の全身を舐めるように眺め、いやらしい笑みを浮かべている。事前に調査して二人のことは知っているが、こんなにも醜悪な人間が存在するのかと逆に感心してしまう。

「桜子。五億はどうした? 息子の為に用意するんじゃなかったのか?」
「貴方達はバカなのかしら?」
「なんだと?」
「五億なんて大金、直ぐに用意できる訳ないじゃない。少し考えれば分かることでしょう? 画像を削除する為に五億も用意する人が本当にいると思う?」
「用意してねえのかよ! だったらお前が身体を売って稼ぐしかねえな!」
「そんなことをせずとも、直ぐに用意できるだろう? お前の兄に助けを求めればな?」
「雨之神を売れと脅すつもり? 無駄なことね。経営者が貴方達に変わった時点で誰も相手にしなくなるわ」
「お前は伴侶だろ! 大人しく従え! 俺は化身なんだぞ!」
「貴方が化身ですって? それはなんの冗談かしら? 細木政典ほそきまさのりさん」

 桜子が鼻で笑う。政典は本気で自分は化身で、桜子が伴侶だと思い込んでいた。本物の化身の前で自分は化身だと言い張る度胸だけは認めるが、それ以外はバカとしか言いようがない。

「俺達をバカにしてんのか?」
「働きもせず居候している貴方を尊敬する人が存在するならこの目で見てみたいわ。ファンなんて一人もいないでしょう? 自称ミュージシャンの西山櫂飛にしやまかいとさん?」

 二人は顔を醜く歪ませて桜子を睨み付けた。桜子が自分達のことを調べていたと悟り、櫂飛が端末を取り出して「息子の画像を公開してやる!」と大声で叫び、SNSに画像を投稿した。しかし、桜子は慌てた様子もなく、二人に縋り付くこともなく、最初から最後まで落ち着いていた。

「あら? おかしいわね。画像が真っ黒よ?」
「は?」
「な! どういうことだ! これは!」
「そんな! 確かにあの画像を投稿したのに!」
「貴方、化身なんでしょう? 投稿できない理由くらい分かるわよね?」

 化身であれば誰もが知っている常識。何度も言うが、化身は伴侶へ対する独占欲や執着心が凄まじく、伴侶の情報は一切漏れないよう徹底的に管理されている。それは化身も同様に、面白半分で化身と伴侶の画像をSNSや動画サイトに投稿しても最初から投稿できないか、真っ黒な画像が添付されるだけ。世間に公表しなければ撮影しても問題はないのだが、そのことを政典は知らないようだ。

「理由?」
「本当に分からないみたいね。化身なのに」

 クスッと小馬鹿にしたように笑い、桜子は本物の化身と伴侶がどんな存在なのか、バカな二人でも分かるよう丁寧に説明した。化身とは神の寵愛を最も受けた存在で、伴侶は化身の魂の半身とも言える愛しい存在。故に、化身の愛は全て己の伴侶のみに注がれ、二人のように伴侶を共有する化身など1人も居ないのだと。更に言うと化身は美麗な姿をしており、一般人よりも優れた身体能力と才能を持ち合わせている。

 化身が築き上げた功績や影響力は凄まじく、注目の的になるのが嫌で彼らは化身であることを徹底的に隠し、自ら吹聴することも絶対にしない。周囲に知られたら欲に塗れた輩に絡まれて色々と面倒だからだ。それに加え、愛しい伴侶にまでその被害が及ぶ可能性も高くなる。だから、政典のように「俺は化身だ!」と名乗るのは周りに「どうぞ襲撃してください」と言っているのと同じで、自らを危険に晒す愚行でしかない。きちんと説明した上で、桜子はもう一度政典に質問した。「貴方、本当に化身なの?」と。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...