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本編
虚妄3
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自宅に到着すると、桜子は逢珠真の手を握ってリビングへと向かった。
「逢珠真。俺と時雨はまだ仕事があるんだけど」
「ぼくもいきます! きりしませんせいを、まもるおしごとですよね!」
「逢珠真くんは本当に賢い子ですね。氷雨さんの家に一人残すのも心配ですし、車の中で待機してもらった方が安全ですよ」
「そうだな。二十時半頃に戻れば問題はない、か」
「ひさめさん。さくらこさんのすがたで、おしごとですか?」
「うん。お仕事が終わるまでは桜子の格好をしているよ。それも見越して晩御飯の準備も済ませてあるから。今日はお鍋だよ」
「おなべ!」
「今日は早めに食べようか」
「はい!」
「ふふ。逢珠真くんは可愛いですね。私は一度幸平さんに連絡してきます。あのシャッター音に気付いていたようなので」
「先生の仕事が終わるのは夜の九時頃か?」
「最近は八時前後ですね。自宅に持ち帰って片付ける仕事も多いようで、寝るまで仕事というのもざらにあるそうです」
「それを奴らが邪魔していると思うと、本当に許せないな」
「同感です」
だからこそ、徹底的に潰すのだ。奴らは時雨の逆鱗に触れた。伴侶を傷付けられた時の化身達の団結力は恐ろしい。逢珠真がバカ息子の命令で拉致されたと他の化身に報告すると直ぐにあの大企業との関係を断ち切った。どんなに有名な大企業であろうとも、取引相手がいなければ意味がない。突然全ての取引相手から縁を切られたら、その企業は遅かれ早かれ潰れてしまう。だからこそ、優秀なトップであればあるほど化身と伴侶の情報や対応には過敏なのだ。
「ひさめさん。なにもしなくていいんですか?」
「今は逢珠真を補充するのがお仕事だよ」
「きもの、よごれちゃいます」
「この程度では汚れないよ」
「んん」
手洗いうがいを済ませて、リビングで宿題を始めようとしていた逢珠真を氷雨は後ろから抱きしめた。この状態では集中できないと身を捩るが、更に強く抱きしめられて身動きが取れない。なんとか宿題を終わらせた後もずっと氷雨に抱きしめられたままで、逢珠真は少しだけ心配になる。仕事がある筈なのに、氷雨は何時も通り逢珠真を溺愛してリビングで寛いでいる。
「このまま閉じ込めてしまいたいな」
耳元で囁かれてドキッとして咄嗟に振り返る。氷雨は直ぐに「冗談だよ」と続けたが、紫色の瞳はずっと逢珠真に向けられており、ドロリとした独占欲や執着心が隠せていない。大きくて綺麗な手が柔らかな頬を伝い、顎の下に添えられる。クイっと上に向けられると、至近距離に氷雨の顔があり、これ以上近付けたらお互いの唇が触れ合ってしまう。
「ひさめ、さ……」
キスされる! と思った逢珠真は強く目を閉じた。ドクドクと心臓の音が聞こえる気がする。顔も熱くて、逢珠真はキスしやすいように自分から顔を近付けた。
ちゅ、と彼の唇が触れたのは逢珠真の唇、ではなく、赤く染まったほっぺただった。
「ふふ。林檎みたいに顔が真っ赤だね。可愛い」
「ひ、ひどいです! ひさめさんは『ましょうのおんな』です!」
「ましょう?」
「おとこのじゅんじょうをもてあそぶ、とってもわるいおんなのひと!」
「……逢珠真。それは、その言葉は、一体誰から聞いたのかな?」
「かおりちゃんです!」
「…………」
「なんとなく、そんな気はしていましたよ」
戻ってきた時雨が遠い目をする。今の氷雨は桜子の格好をしている為、逢珠真が言った「魔性の女」は間違ってはいない。こんなことをされたら男は誰だって勘違いしてしまう。自分の気持ちを弄ばれたと思った逢珠真は涙目でキッと氷雨を睨みつける。可愛い逢珠真が睨んでも全く怖くないし、むしろムキになって怒る姿もとっても可愛い。氷雨は直ぐにシュン、とした悲しい表情を作り、落ち込んだ声で「ごめんね。許して?」とお願いした。すると氷雨が大好きな逢珠真は小さな声で「ゆ、ゆるします」と小さな声で呟く。
「ありがとう。逢珠真、大好きだよ」
「ぼくも、ひさめさんがだいすきです!」
もう恋人でいいんじゃないかな。ギュウッと抱き合う二人の姿を眺め、時雨は心の中で呟いた。氷雨は最初から逢珠真のことを愛しているし、逢珠真も氷雨に対して恋愛感情を抱いているように見える。十八歳までは清い関係で、という条件付きであれば恋人同士だと認めてもいいような気はするが、世間の目があって実現できないのがもどかしい。無自覚にいちゃいちゃしている氷雨と逢珠真を見て、時雨も早く幸平に会って癒されたくなった。
「逢珠真。俺と時雨はまだ仕事があるんだけど」
「ぼくもいきます! きりしませんせいを、まもるおしごとですよね!」
「逢珠真くんは本当に賢い子ですね。氷雨さんの家に一人残すのも心配ですし、車の中で待機してもらった方が安全ですよ」
「そうだな。二十時半頃に戻れば問題はない、か」
「ひさめさん。さくらこさんのすがたで、おしごとですか?」
「うん。お仕事が終わるまでは桜子の格好をしているよ。それも見越して晩御飯の準備も済ませてあるから。今日はお鍋だよ」
「おなべ!」
「今日は早めに食べようか」
「はい!」
「ふふ。逢珠真くんは可愛いですね。私は一度幸平さんに連絡してきます。あのシャッター音に気付いていたようなので」
「先生の仕事が終わるのは夜の九時頃か?」
「最近は八時前後ですね。自宅に持ち帰って片付ける仕事も多いようで、寝るまで仕事というのもざらにあるそうです」
「それを奴らが邪魔していると思うと、本当に許せないな」
「同感です」
だからこそ、徹底的に潰すのだ。奴らは時雨の逆鱗に触れた。伴侶を傷付けられた時の化身達の団結力は恐ろしい。逢珠真がバカ息子の命令で拉致されたと他の化身に報告すると直ぐにあの大企業との関係を断ち切った。どんなに有名な大企業であろうとも、取引相手がいなければ意味がない。突然全ての取引相手から縁を切られたら、その企業は遅かれ早かれ潰れてしまう。だからこそ、優秀なトップであればあるほど化身と伴侶の情報や対応には過敏なのだ。
「ひさめさん。なにもしなくていいんですか?」
「今は逢珠真を補充するのがお仕事だよ」
「きもの、よごれちゃいます」
「この程度では汚れないよ」
「んん」
手洗いうがいを済ませて、リビングで宿題を始めようとしていた逢珠真を氷雨は後ろから抱きしめた。この状態では集中できないと身を捩るが、更に強く抱きしめられて身動きが取れない。なんとか宿題を終わらせた後もずっと氷雨に抱きしめられたままで、逢珠真は少しだけ心配になる。仕事がある筈なのに、氷雨は何時も通り逢珠真を溺愛してリビングで寛いでいる。
「このまま閉じ込めてしまいたいな」
耳元で囁かれてドキッとして咄嗟に振り返る。氷雨は直ぐに「冗談だよ」と続けたが、紫色の瞳はずっと逢珠真に向けられており、ドロリとした独占欲や執着心が隠せていない。大きくて綺麗な手が柔らかな頬を伝い、顎の下に添えられる。クイっと上に向けられると、至近距離に氷雨の顔があり、これ以上近付けたらお互いの唇が触れ合ってしまう。
「ひさめ、さ……」
キスされる! と思った逢珠真は強く目を閉じた。ドクドクと心臓の音が聞こえる気がする。顔も熱くて、逢珠真はキスしやすいように自分から顔を近付けた。
ちゅ、と彼の唇が触れたのは逢珠真の唇、ではなく、赤く染まったほっぺただった。
「ふふ。林檎みたいに顔が真っ赤だね。可愛い」
「ひ、ひどいです! ひさめさんは『ましょうのおんな』です!」
「ましょう?」
「おとこのじゅんじょうをもてあそぶ、とってもわるいおんなのひと!」
「……逢珠真。それは、その言葉は、一体誰から聞いたのかな?」
「かおりちゃんです!」
「…………」
「なんとなく、そんな気はしていましたよ」
戻ってきた時雨が遠い目をする。今の氷雨は桜子の格好をしている為、逢珠真が言った「魔性の女」は間違ってはいない。こんなことをされたら男は誰だって勘違いしてしまう。自分の気持ちを弄ばれたと思った逢珠真は涙目でキッと氷雨を睨みつける。可愛い逢珠真が睨んでも全く怖くないし、むしろムキになって怒る姿もとっても可愛い。氷雨は直ぐにシュン、とした悲しい表情を作り、落ち込んだ声で「ごめんね。許して?」とお願いした。すると氷雨が大好きな逢珠真は小さな声で「ゆ、ゆるします」と小さな声で呟く。
「ありがとう。逢珠真、大好きだよ」
「ぼくも、ひさめさんがだいすきです!」
もう恋人でいいんじゃないかな。ギュウッと抱き合う二人の姿を眺め、時雨は心の中で呟いた。氷雨は最初から逢珠真のことを愛しているし、逢珠真も氷雨に対して恋愛感情を抱いているように見える。十八歳までは清い関係で、という条件付きであれば恋人同士だと認めてもいいような気はするが、世間の目があって実現できないのがもどかしい。無自覚にいちゃいちゃしている氷雨と逢珠真を見て、時雨も早く幸平に会って癒されたくなった。
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