捨てられた子が龍の化身に溺愛されるまで《完結》

トキ

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本編

本物3

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 自宅に帰るまで、時雨はずっと春霞について聞いてきた。彼女とは何時知り合ったのか。本当に先輩後輩の関係でしかないのか。彼女のことをどう思っているのか。恋心を抱いていないか。次から次へと質問を投げかけられ、幸平は困惑しながらも丁寧に答えていった。

「どうして、そんなことを私に聞くんですか?」
「好きな人のことは全て知りたいと思いませんか?」
「えっと、私は峯滝さんではありません」
「見れば分かりますが、何故彼の名前が出てくるのかお聞きしても?」
「……七瀬さ、時雨さんは、峯滝さんのことが」
「待ってください。それは氷雨さんですか? それとも、桜子さん?」
「ひ、氷雨さんの方、です」
「…………」

 時雨は深いため息を吐いた後、真剣な表情をして「家に帰ったら一度きちんと話し合いましょう」と告げた。逢珠真を拉致した犯人は全員逮捕された。ということは、幸平も時雨の家に住む必要がなくなったということ。事件が解決するまでの期間限定だったのだから、幸平が出て行くのは当然の流れ。

「あの、犯人は逮捕されたので、私も元のアパートに『ダメです』えっ?」
「絶対にダメです。それだけは許しません」
「どうして」
「貴方が可愛すぎるからです」
「…………」
「…………」
「……へ? 今、なんと?」
「幸平さんが可愛すぎるからです。一人は危険です。あのアパートに住むのも危険です。ですから、これからも私と一緒に暮らしましょう」

 男に可愛いって、褒めてるのか?

 時雨の本心が分からず、幸平の頭は更に混乱した。彼は氷雨が好きなのに、どうして自分に気があるような台詞を言うのだろう。こんなに真剣に見つめられたら勘違いしてしまう。好きになってはいけないと自分に言い聞かせているのに、時雨が嬉しい言葉ばかり伝えてくるから、幸平は彼のことを好きになる一方だ。自分ばかりが好きになって、どうせ相手になんてされないのに、この恋心を制御する方法が分からない。誰かを好きになったのはこれが初めてで、相手は自分と同じ男。氷雨と初めて会った時も彼の美貌に圧倒されたが、幸平が目を奪われたのは逢珠真を挟んで座っていた時雨だった。綺麗に切り揃えられた青い髪。知性を感じさせる神秘的な青い瞳。透き通るようなきめ細やかな白い肌。中性的な顔立ちをしているが、背は高く骨格や筋肉は男性のもの。

 氷雨が短期間で逢珠真を引き取ることができたのは、時雨が優秀な弁護士で色々と助けてくれたからだと嬉しそうに話してくれた。幸平も時雨には何度も助けられている。覚悟を決めて氷雨に真実を話すと、三人とも幸平の身を案じてくれた。恋鞠達がアパートの前で待ち伏せしていたことに気付いた時雨は、幸平の代わりに外へ出て彼女達の相手をしてくれた。あのアパートは危険だからと一緒に住むことを提案され、変態達から守ってくれた。更には送迎まで……

 ここまで優しくされて、好きになるなと言う方が無理な話だ。

「氷雨さんとは何もありませんよ。単なる上司と部下の関係です。人として尊敬していますが、その中に恋情は含まれません」
「え?」

 帰宅して早々、時雨は幸平を連れてリビングに直行し「氷雨に恋心は抱いていない」と断言した。

「信じられないなら氷雨さんにも聞いてみてください。全く同じ答えが返ってきますから」
「同じって……それじゃあ、時雨さんが心に決めた人というのは、桜子さん、ですか?」
「……幸平さん。態とですか?」
「ち、違うんですか?」
「違いますよ! そもそも桜子さんは氷雨さ……あの双子と私は何もありません。お互いに恋愛感情なんて抱いていません。何故なら氷雨さんにも心から愛する伴侶がいるからです!」
「その人は峯滝くんのことをどう思っているんですか? 信頼できる方なんですか?」
「…………」
「あの」
「その件についても週末に詳しく説明します」

 幸平の隣に座り、時雨は彼の肩に手を添えて自分の方へ引き寄せた。必然的にお互いの顔も近くなり、心臓の音が早くなる。綺麗な手が頭に触れ、額、耳、頬の順に滑り落ち、顎の下に触れる。クイッと軽く持ち上げられた瞬間、ふに、と唇に柔らかな感触がして直ぐに離れた。

「時雨さん? 今のは……」
「これで、私の好きな人が誰なのか分かりましたか?」

 愛おしそうな表情で見つめられ、幸平はカッと顔に熱が集まるのを感じた。ただの悪戯だ。からかわれただけだ。思い上がって期待して、やっぱり違ったと知って深く傷付くのは自分自身。何度も何度も言い聞かせて、恋心を押し殺していたのに。

「信じられません」
「どうすれば、信じてくれますか?」
「……時雨さんは、こんな貧弱な身体を、その、だ、抱けるんですか? 顔も、平凡なのに」
「…………」

 時雨は何も言わず幸平を凝視するだけ。恐る恐る視線だけ上に向け、直ぐに後悔した。全ての感情が抜け落ちた表情を見て悲しくなる。こんなに綺麗な人が、柔らかくない男の身体を求める筈がない。もし同性を求めても、その相手は自分のような凡人ではなく、綺麗な顔立ちをした人か、可愛らしい顔立ちをした人。自分では不釣り合いだという現実を突きつけられ、ズキズキと胸の奥が痛む。

「すみません。今のは聞かな、んん!」

 離れようとしたら後頭部を掴まれ強引に口付けられた。先程の触れるだけの可愛らしいキスではなく、全てを奪い尽くすような荒々しいキス。舌を絡め取られ、ぞくぞくとした感覚が全身に走る。くち、くちゅ、と水音を立てて口内を犯され、息ができない。名残惜しそうに幸平の舌先をちゅる、と優しく吸い、漸く唇が離れた。

「さっきのは、幸平さんが悪いです」
「ふっ、はあ、はあ。しぐれ、さ……」
「優しくしようと思っているのに、そうやって私を試すようなことばかり」
「んん、みみは、ダメ、です」
「私が愛しているのは、貴方ですよ。幸平さん」

 ドサ、とソファに優しく押し倒され、耳元でそう囁かれた。かぷ、と耳を甘噛みされ、首筋をゆっくり舐められ、妙な感覚から逃れたくて幸平は必死に身を捩る。些細な抵抗さえも許してはくれず、再び唇が重ねられ口内を優しく犯され続けた。時雨とのキスは気持ちよくて、何も考えられなくなる。このまま身も心も蕩けてしまいそうだ。今なら、自分の気持ちを伝えても大丈夫だろうか。時雨への恋心を隠し通せる自信がない。潤んだ瞳で時雨を見つめ、ゆっくりと口を開く。

「時雨さん。俺も、同じ気持ちです」

 これは夢なんじゃないか。あまりにも自分にとって都合が良すぎる展開で時雨から離れるのが怖くなった。幸平はずっと奪われ続ける側だった。欲しいものは沢山あった。けれど、それを手に入れたら直ぐに恋鞠達に奪われ、壊されることが分かっていたから何も買えなかったし、友達と呼べる人も当時はいなかった。そんな自分が、初めて心からほしいと思った人。ずっと傍にいてほしいと願った人。

「私達、両想いですね」
「ふふ。そうみたいです」

 自分の頬を包む時雨の両手に自分の手を重ね、幸平は満面の笑みを浮かべた。
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