捨てられた子が龍の化身に溺愛されるまで《完結》

トキ

文字の大きさ
48 / 66
本編

本物4

しおりを挟む
 時雨と両想いになってからは驚くほど平穏だ。政典達が逮捕されたことで学校全体の雰囲気も柔らかくなった。逢珠真達は今週いっぱいまで氷雨が送迎し、来週からは何時も通り登校することになる。

「霧島先生。これから大変だね」
「それが教師の仕事ですから平気ですよ」
「そうじゃなくて、貴方の旦那様の方」
「安達先生、誰から聞いたんですか?」
「前に言ったでしょ? 私には霊感があるって。誰かに聞かなくても雰囲気で分かるのよ。それにしても、相変わらず圧が凄いわね。流石は本物。独占欲も執着心も神レベルだわ。あぁ、とても偉い神様だったね」
「また訳の分からないことを」
「まだ聞いてないんだ。それならこれ以上言うのは危険ね。黙っておくわ」
「中途半端なところで止めないでください。逆に気になります」
「週末には分かることよ」

 春霞は既に気付いているが、やはり幸平には詳しく話してくれない。何時も気になるところで話を無理矢理終わらせて自分の仕事に集中するか、授業の準備を始めるか。これ以上聞いても彼女は答えてくれないと分かっているから、幸平も諦めて自分の仕事を片付けることにした。

「安達先生、もう一つ気になることがあるんですが」
「なに?」
「峯滝さんの好きな人が誰なのか、安達先生は知っているんですか?」
「うん。知ってるよ」

 バサバサバサ! と二人のすぐ後ろから本が落ちる音がして咄嗟に振り返る。廊下に散らばる教科書とノート。あちこちに転がってしまった筆記用具。この世の終わりでも見たかのような表情で二人を見上げる男の子。

「ひさめさん、すきなひとがいるんですか?」
「峯滝くん」
「あちゃー」
「『あちゃー』じゃないですよ。安達先生」

 教科書とノートを拾い呆然と立ち尽くす逢珠真に渡す。彼は力なく受け取り、落ちないよう両手で抱きかかえた。あちこち転がった筆記用具も拾い筆箱の中にきちんと仕舞う。

「あだちせんせい。おしえてください。ひさめさんは、だれがすきなんですか?」
「うーん。綺麗な黒髪で、目がクリッとしてて、頬がぷにぷにで、背が小さくて、笑顔がとおっても可愛い子かな?」
「ちょっと! 安達先生!」
「気になるなら峯滝さんに直接聞けばいいじゃない。まあ、今は本当のことは言えないでしょうけど」

 氷雨の好きな人が誰なのか、春霞は言わなかった。これ以上言ったら祟られるからとまた訳の分からないことを言って去ってしまった。逢珠真は相当ショックだったのか、唇を引き結び必死に泣くのを我慢している。教材を持っている手も小さく震えており、その姿は痛々しい。

「峯滝くん」
「きりしませんせい。こんいんとどけはどこでもらえますか?」
「えっ? なんて?」
「こんいんとどけです! けっこんするには『こんいんとどけ』がひつようです!」
「は、はい。そうですね」
「そのこんいんとどけにぼくのなまえをかきます!」
「はい?」
「ひさめさんにもなまえをかいてもらいます!」
「…………」
「そうすれば、ぼくとひさめさんはえいえんにむすばれます! あいのけいやくしょです!」
「峯滝くん」
「ん?」
「それは、誰から聞いたんですか?」
「かおりちゃんです!」
「……宮下さんかあ」

 ツッコミどころ満載で何から指摘すればいいのか分からない。峯滝くんって今何歳だっけ? 六歳だったな。まさか六歳の口から「婚姻届」なんて言葉が出てくるなんて……宮下さんは何時も何処から言葉を覚えてくるのか。逢珠真も逢珠真で氷雨と結婚するのは自分だと意気込んでいて頭が痛くなる。何をどう説明すべきか悩んでいると、帰りが遅い逢珠真を心配して省吾と歌織がやって来て三人は教室へ戻っていった。

「ふふ。そうですか。逢珠真がそんなことを」
「峯滝さんを誰かに奪われると思ったのかもしれません」
「とっても可愛らしい独占欲ですね」
「…………」

 逢珠真を迎えに来た氷雨に先程のことを説明すると、彼は嬉しそうに微笑んだ。将来の夢はパパのお嫁さんになること! と言われて喜ぶ父親のようだ。彼の好きな人は誰なのか。知りたい気持ちはあるが、他者のプライベートを不躾に聞くものではない。

「逢珠真が大人になるまで、結婚する予定はありませんよ。私の一番の宝物は逢珠真ですから」
「七瀬さんではなく?」
「時雨が好きなのは貴方ですよ。霧島先生」
「な!」

 何故そのことを知っているのか。顔を真っ赤にする幸平を見て氷雨はクスクス笑いながら「今日は時雨の機嫌が良かったので」と教えてくれた。初めて会った時から好きだった人と両想いになれたのだと。伴侶の偉大さを正直舐めていた。こんなにも大切で愛おしい存在だったなんて。時雨は和菓子の新作を作っている氷雨にずっと幸平への愛を語り続けていた。

「霧島先生が私の家に来た時から知っていましたよ」
「さ、最初から!?」
「えぇ。時雨と私の関係は上司と部下。それ以上でもそれ以下でもありません」
「……勘違いしていた自分が、恥ずかしいです」
「誤解は解けましたか?」
「申し訳ありません。勝手に勘違いして」
「気にしないでください」

 時雨が言った通り、氷雨も彼と全く同じ答えが返ってきた。二人は上司と部下でお互いに恋愛感情は抱いていない。勝手に勘違いして一喜一憂して、少しだけ氷雨に嫉妬していた自分が恥ずかしい。申し訳ない気持ちでいっぱいになり、幸平は深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べ、逢珠真達を呼びに行った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...