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第5章
仲直り
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クラウス達から説教を受けた後、リベルテは一度自室に戻った。ユリウスがシンジュを連れてリベルテの自室に行くとユウとスズから聞いたからだ。リベルテが自室に戻ると、部屋の中にはユリウスとシンジュが居た。リベルテが戻ってきたのを確認すると、ユリウスはシンジュの頭をそっと撫で、部屋から出て行った。「お前の口から話せ」と言い残して……
「兄上から話は聞いたか?」
「えっと、はい。聞きました」
ぎゅっと小さなシャチを抱きしめて、シンジュは恐る恐る答えた。目元が少し赤くなっている事から、昨日沢山泣いたのだろう。誤解とは言え、シンジュを不安にさせて悲しませてしまった事に罪悪感が押し寄せてくる。俯いて黙ってしまったシンジュの前まで歩み寄り、リベルテは小さな体をそっと抱き締めた。
「リ、ベル、さま」
「不安にさせてごめん」
「え?」
「シンジュが、カイリと海に帰りたいなら、俺は止めない。でも、それが海の神子だからだとか、人魚族の掟を守らないといけないからとか言う理由なら、絶対に海には帰さない」
「…………」
「俺は、シンジュの意思を尊重したい。なあ、シンジュ。本当は、どうしたいんだ?」
問いかける声は優しく、シンジュはまた泣きそうになった。リベルテがシンジュの意思を無視した事は一度もない。必ず「大丈夫か?」と「何処に行きたい?」と、シンジュの意思を確認してからリベルテは行動する。優しくしてくれたのも、家族になると言ってくれたのも、大切にしてくれたのも、心から愛してくれたのも、姉以外だとリベルテが初めてだった。シンジュの事を一番に考えて優しくしてくれるリベルテと、何時も不機嫌な顔をしてシンジュを苛めていたカイリと、どちらがいいかなんて一目瞭然。
本当は、海に帰らなければならない事は分かっている。けれど、夕と鈴は「自分の心を偽ってまで帰らなくていい」と言ってくれた。ユリウスとクラウスも「無理して人魚族の掟に従う必要はない」と言ってくれた。そして、リベルテから「シンジュの意思じゃないなら、絶対に海には帰さない」と断言されてしまったら、もう自分の心を誤魔化せない。
「ずっと、リベルさまの傍に、居たいです。カイリさまは、怖いです。海にも、帰りたく、ありません。リベルさまが、いいです。リベルさまじゃなきゃ、いや、です」
海の神子として、人魚として、この選択は間違っているだろう。それでも、シンジュはカイリではなくリベルテを選んだ。今更人魚族として失格だと言われても、それならそれでいいと思った。元々人魚族から嫌われて地上に捨てられた身だ。一度捨てられているのだから、海に帰らなくてもいいじゃないか。海の神子だからと言って、カイリと契りを交わす必要なんてない。何時からか、シンジュはそう考えるようになっていた。以前の自分なら、人魚族の掟だからと言って素直にカイリの言う通りにしていただろう。しかし、それは間違っていると、自分を犠牲にしてまで言う通りにする必要はないと、夕達が教えてくれた。だからシンジュは少しだけ、本当に少しだけ我儘になった。
「俺も、シンジュがいい。シンジュじゃないと、ダメなんだ。だから、俺の傍に居てくれ」
「はい。傍に、居ます。リベルさまの傍に、居させてください」
ぎゅう、とお互い抱きしめ合う。何時の間にかシンジュの腕から抜け出していたシズクは近くのソファにちょこんと乗り、二人の様子を見守り続けた。シンジュの嬉しそうな表情を見てシズクも嬉しくなったのか、小さな体を左右に揺らす。
「本当、邪魔だなぁ」
遠く離れた場所から幸せそうに抱き合う二人を睨み付け、その人物は驚く程冷たい声で呟いた。
シンジュの気持ちを確認した後、リベルテは大切な事を思い出した。シンジュが作ってくれたアップルパイだ。夕達と一緒に作ってくれたアップルパイを楽しみにしていたのに、カイリが登場した事によってすっかり忘れていたのだ。
「アップルパイ……」
酷く落ち込むリベルテを見て、シンジュは小さく笑った。察しの良いシズクがビュンッと何処かへ行って、あっと言う間に二人の元へ戻って来た。その頭には綺麗にラッピングされたアップルパイ。
「え? これ……」
「ユリウスさまが『ずっと持っていたら味が落ちてしまう』と仰って、冷蔵庫に保存してくれたんです。リベルさま、とても楽しみにしていたと聞いたので。リベルさまの部屋に戻してくれた時も、アップルパイを冷蔵庫に仕舞ってくれて『落ち着いたらリベルに渡すといい』と言って」
「兄上……」
どうしよう、俺の兄貴がイケメンすぎて辛い。リベルテは心の底からユリウスに感謝した。少し前まで敵意剥き出しで、酷い言葉も沢山言って傷付けてしまったと言うのに、ユリウスはリベルテの為を思ってシンジュにアドバイスをしてくれていた。
「もうお仕事の時間なので、夕食の後に食べてください」
「うん。食べる! 本当は今食べたいけど、楽しみは取っておいた方が良いよな! ありがとう! シンジュ!」
「僕も、リベルさまにやっと渡せて嬉しいです」
嬉しそうに微笑むシンジュを抱き締め、リベルテも嬉しそうに微笑んだ。甘い空気が漂う中、察しが良くてとても賢いシズクは頭に乗せたアップルパイを冷蔵庫に仕舞う為、静かに移動した。
それから二人はカイリと再び会い、シンジュは本当の気持ちを彼に告げた。カイリと一緒に海に帰りたくない事、リベルテと一緒に居たい事、人魚族の掟を破ってしまう事、人魚族とはもう関わりたくない事、もう人魚族には関わらないから、そちらもユリウス達に干渉しないてほしい事。
カイリは黙ってシンジュの話を聞いていた。しかし、納得している訳ではないようで、彼が何か言う前にリベルテが話を終わらせた。
「シンジュは海に帰りたくないと言っているので、もう諦めてください」
そう言ってリベルテはシンジュを連れてその場を去った。カイリと擦れ違う瞬間、彼はリベルテにだけ聞こえるように呟いた。
「あのまま死ねば良かったのに」と。
リベルテは驚かなかった。ナイフで背中を刺したのが人魚族かもしれないと言う事は夕達から聞いている。しかし、だからと言って犯人を探すつもりも、復讐するつもりもリベルテにはなかった。それに、まだ証拠もない。犯人がカイリである可能性が高いだけ。憶測で話して夕達を混乱させたくないし、ユリウス達に余計な仕事を増やしたくない。だから、リベルテは聞こえなかったフリをして黙っていた。
「死ねば良かったって、どう言う事?」
カイリの呟いた言葉を、シンジュも聞き取っていた。カイリとリベルテは昨日知り合ったばかりだ。それ以前に会った事は一度もない。それに、カイリが殺したい程憎んでいるのはユリウスであって、リベルテは一切眼中になかった。
もやもやとした不安が残る中、シンジュは夕達に預けられ、リベルテはクラウスと共に執務へ向かった。クラウスと共に去って行くリベルテに何時もの明るさはなく、真剣な表情をしていた。
「兄上から話は聞いたか?」
「えっと、はい。聞きました」
ぎゅっと小さなシャチを抱きしめて、シンジュは恐る恐る答えた。目元が少し赤くなっている事から、昨日沢山泣いたのだろう。誤解とは言え、シンジュを不安にさせて悲しませてしまった事に罪悪感が押し寄せてくる。俯いて黙ってしまったシンジュの前まで歩み寄り、リベルテは小さな体をそっと抱き締めた。
「リ、ベル、さま」
「不安にさせてごめん」
「え?」
「シンジュが、カイリと海に帰りたいなら、俺は止めない。でも、それが海の神子だからだとか、人魚族の掟を守らないといけないからとか言う理由なら、絶対に海には帰さない」
「…………」
「俺は、シンジュの意思を尊重したい。なあ、シンジュ。本当は、どうしたいんだ?」
問いかける声は優しく、シンジュはまた泣きそうになった。リベルテがシンジュの意思を無視した事は一度もない。必ず「大丈夫か?」と「何処に行きたい?」と、シンジュの意思を確認してからリベルテは行動する。優しくしてくれたのも、家族になると言ってくれたのも、大切にしてくれたのも、心から愛してくれたのも、姉以外だとリベルテが初めてだった。シンジュの事を一番に考えて優しくしてくれるリベルテと、何時も不機嫌な顔をしてシンジュを苛めていたカイリと、どちらがいいかなんて一目瞭然。
本当は、海に帰らなければならない事は分かっている。けれど、夕と鈴は「自分の心を偽ってまで帰らなくていい」と言ってくれた。ユリウスとクラウスも「無理して人魚族の掟に従う必要はない」と言ってくれた。そして、リベルテから「シンジュの意思じゃないなら、絶対に海には帰さない」と断言されてしまったら、もう自分の心を誤魔化せない。
「ずっと、リベルさまの傍に、居たいです。カイリさまは、怖いです。海にも、帰りたく、ありません。リベルさまが、いいです。リベルさまじゃなきゃ、いや、です」
海の神子として、人魚として、この選択は間違っているだろう。それでも、シンジュはカイリではなくリベルテを選んだ。今更人魚族として失格だと言われても、それならそれでいいと思った。元々人魚族から嫌われて地上に捨てられた身だ。一度捨てられているのだから、海に帰らなくてもいいじゃないか。海の神子だからと言って、カイリと契りを交わす必要なんてない。何時からか、シンジュはそう考えるようになっていた。以前の自分なら、人魚族の掟だからと言って素直にカイリの言う通りにしていただろう。しかし、それは間違っていると、自分を犠牲にしてまで言う通りにする必要はないと、夕達が教えてくれた。だからシンジュは少しだけ、本当に少しだけ我儘になった。
「俺も、シンジュがいい。シンジュじゃないと、ダメなんだ。だから、俺の傍に居てくれ」
「はい。傍に、居ます。リベルさまの傍に、居させてください」
ぎゅう、とお互い抱きしめ合う。何時の間にかシンジュの腕から抜け出していたシズクは近くのソファにちょこんと乗り、二人の様子を見守り続けた。シンジュの嬉しそうな表情を見てシズクも嬉しくなったのか、小さな体を左右に揺らす。
「本当、邪魔だなぁ」
遠く離れた場所から幸せそうに抱き合う二人を睨み付け、その人物は驚く程冷たい声で呟いた。
シンジュの気持ちを確認した後、リベルテは大切な事を思い出した。シンジュが作ってくれたアップルパイだ。夕達と一緒に作ってくれたアップルパイを楽しみにしていたのに、カイリが登場した事によってすっかり忘れていたのだ。
「アップルパイ……」
酷く落ち込むリベルテを見て、シンジュは小さく笑った。察しの良いシズクがビュンッと何処かへ行って、あっと言う間に二人の元へ戻って来た。その頭には綺麗にラッピングされたアップルパイ。
「え? これ……」
「ユリウスさまが『ずっと持っていたら味が落ちてしまう』と仰って、冷蔵庫に保存してくれたんです。リベルさま、とても楽しみにしていたと聞いたので。リベルさまの部屋に戻してくれた時も、アップルパイを冷蔵庫に仕舞ってくれて『落ち着いたらリベルに渡すといい』と言って」
「兄上……」
どうしよう、俺の兄貴がイケメンすぎて辛い。リベルテは心の底からユリウスに感謝した。少し前まで敵意剥き出しで、酷い言葉も沢山言って傷付けてしまったと言うのに、ユリウスはリベルテの為を思ってシンジュにアドバイスをしてくれていた。
「もうお仕事の時間なので、夕食の後に食べてください」
「うん。食べる! 本当は今食べたいけど、楽しみは取っておいた方が良いよな! ありがとう! シンジュ!」
「僕も、リベルさまにやっと渡せて嬉しいです」
嬉しそうに微笑むシンジュを抱き締め、リベルテも嬉しそうに微笑んだ。甘い空気が漂う中、察しが良くてとても賢いシズクは頭に乗せたアップルパイを冷蔵庫に仕舞う為、静かに移動した。
それから二人はカイリと再び会い、シンジュは本当の気持ちを彼に告げた。カイリと一緒に海に帰りたくない事、リベルテと一緒に居たい事、人魚族の掟を破ってしまう事、人魚族とはもう関わりたくない事、もう人魚族には関わらないから、そちらもユリウス達に干渉しないてほしい事。
カイリは黙ってシンジュの話を聞いていた。しかし、納得している訳ではないようで、彼が何か言う前にリベルテが話を終わらせた。
「シンジュは海に帰りたくないと言っているので、もう諦めてください」
そう言ってリベルテはシンジュを連れてその場を去った。カイリと擦れ違う瞬間、彼はリベルテにだけ聞こえるように呟いた。
「あのまま死ねば良かったのに」と。
リベルテは驚かなかった。ナイフで背中を刺したのが人魚族かもしれないと言う事は夕達から聞いている。しかし、だからと言って犯人を探すつもりも、復讐するつもりもリベルテにはなかった。それに、まだ証拠もない。犯人がカイリである可能性が高いだけ。憶測で話して夕達を混乱させたくないし、ユリウス達に余計な仕事を増やしたくない。だから、リベルテは聞こえなかったフリをして黙っていた。
「死ねば良かったって、どう言う事?」
カイリの呟いた言葉を、シンジュも聞き取っていた。カイリとリベルテは昨日知り合ったばかりだ。それ以前に会った事は一度もない。それに、カイリが殺したい程憎んでいるのはユリウスであって、リベルテは一切眼中になかった。
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