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第5章
牽制
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シェルスの顔を見たくなくてふと視線を逸らすと、その先にはこちらを眺めている夕が居た。ユリウスがこちらを向くとは思っていなかった夕は少し驚いた後、困ったように笑った。夕の姿を見ただけで、ユリウスの心は癒された。シェルスに近寄られても全く嬉しくないのに、夕にはもっと近付きたいしずっと触れていたいと思ってしまう。
ユリウスの命を救っただけでなく、拗れていたリベルとの関係も解決し、自ら命を絶ってしまったシンジュも蘇らせ、何時もユリウスの味方になってくれた夕。シェルスの相手に疲れ果てていたユリウスは、無意識に足を進めて気付いたら夕の元へ来てしまっていた。キョトンとした表情で見上げる姿が可愛くて愛おしくて、ユリウスは夕の頬に手を添え彼の額に口付けた。
「ユリウス様!」
叫んだのはシェルスか、クラウスか。恐らく両方だろうと思いはするものの、今のユリウスにはどうでも良い事だった。額を両手で押さえて顔を真っ赤にしている夕はやっぱり愛おしくて、ユリウスは自然と笑みが溢れた。その微笑みは、誰が見ても愛おしい人にしか向けない特別な表情だった。
まずい、とクラウスは瞬時に理解した。シェルスに視線を戻すと、彼は鬼の形相をして夕を睨んでいた。あんな表情を見て、自分と夕の対応の差を見せ付けられて、自分はユリウスに愛されていないと気付かぬ程愚かではないようだ。だからこそ厄介なのだ。シンジュへの訳の分からない対応を、夕にもしてくる可能性が高い。だから、クラウスはユリウスに「外では夕様となるべく距離を取ってください」と忠告していた。城の者達はほとんどがシェルスの味方であり、夕に対してあまり良いイメージを持っていない。
ユリウスが本当に好きで夕の傍に居たとしても、シェルスが一言「夕がユリウス様を誑かしている」と言えば、周囲はそれを信じてしまう。そうならないようにシェルスの機嫌を取りつつ、曖昧な距離感を保っていたのだが、ユリウスは我慢の限界に達した。しかし、それも仕方ない事だとクラウスは思う。これでも長く保った方だ。
「ユリウス様、どうして……」
婚約者は僕の方なのに。
それは勿論、ユリウス様は貴方の事が大っ嫌いだからですよ。と内心暴言を吐くが、クラウスは笑顔のまま敢えて何も言わなかった。
こうなっては仕方ない。今後の対策を考えるとしましょう。
呆れたような表情をしつつも、夕に甘えるユリウスの姿を見てクラウスはクスリと笑った。
それから、夕はずっとユリウスの傍に居た。ユリウスが夕の手を繋いだままだったからだ。家臣や使用人達からは敵視するような視線を向けられたが、ユリウスに抗議する者は一人も居なかった。シェルスも一緒に付いて来たのだが、彼が何か言う前にクラウスが阻止して二人の間に火花が散っていた。
今日の仕事はほとんど終わっているようで、ユリウスは夕と共に城の中を見て回った後、クラウスに「今日はもう休む」と告げた。クラウスは困ったように笑いながら「仕方ありませんね」と言ってユリウスを止めなかった。
「仕事の方も落ち着きましたからね。思う存分甘えてください」
言い終わる前に、ユリウスは既に夕を連れて自室に向かっていた。慌ててユリウスを止めようと夕が何か言っているが、またユリウスが彼の額に口付けると顔を真っ赤にして固まった。照れて恥ずかしそうにユリウスを見上げる夕に、ユリウスは嬉しそうにクスクス笑う。そんな夕の耳元に口を添えると、彼は視線を彷徨わせながらもユリウスに大人しく連れて行かれた。
「待ってください! ユリウス様! 僕もユリウス様のお部屋に……」
慌ててシェルスが二人を追いかけようとしたが、二人の姿は見えなくなってしまった。そんな彼を見て、クラウスは鼻で笑う。
「哀れですね。婚約者でありながら、あそこまでユリウス様に無視されるなんて」
「…………」
クラウスの嫌味にカチンときたのか、シェルスが無言で睨み付けてくる。しかし、クラウスの実力や地位を知っているのか、その辺の常識はあるのか、彼はクラウスに言い返さなかった。このままユリウスを諦めて自国に帰ればいいのに、とクラウスは思うが、彼はユリウスを諦めて大人しく帰るような性格ではない。ユリウスが本当に好きなのが自分ではなく夕だと知っても、ユリウスが幸せそうに笑うのは夕の前だけだと気付いても、シェルスは一歩も引かず夕を追い出そうと動くだろう。
「何を企んでいるのか知りませんが、全て思い通りになるなんて思わないでください」
それはシェルスに対する宣戦布告だった。どんなに夕が邪魔だと思っても、シェルスは直ぐに夕を消す事は出来ない。彼の動きを見てクラウスはそう確信していた。彼が最も邪魔だと思っている存在は常にユリウスの傍に居る夕の筈だ。それなのに、彼は夕に対して嫌味を言ったり嫌われるように仕向けるたりする程度。それも厄介ではあるが、まだ大人しいと言えるだろう。
その理由もクラウスは分かっている。彼は大人しいのではなく、自由に動けないのだ。夕を追い出したくても、出来ないと言うのが一番正しい。
「今日はもうお疲れでしょう。お部屋に戻って一人でゆっくり休んでください。夜空の神子様」
ひとりで、を強調してクラウスはシェルスに告げた。彼が敢えてシェルスを「夜空の神子」と言ったのも勿論皮肉である。クラウスの本心に気付いているのか、シェルスはにっこりと笑って「分かりました。今は、そうします」と言って去って行った。
本当、気に食わない奴だな。
クラウスもシェルスも、笑顔で対応していたが、心の中では同じ愚痴を零していた。
ユリウスの命を救っただけでなく、拗れていたリベルとの関係も解決し、自ら命を絶ってしまったシンジュも蘇らせ、何時もユリウスの味方になってくれた夕。シェルスの相手に疲れ果てていたユリウスは、無意識に足を進めて気付いたら夕の元へ来てしまっていた。キョトンとした表情で見上げる姿が可愛くて愛おしくて、ユリウスは夕の頬に手を添え彼の額に口付けた。
「ユリウス様!」
叫んだのはシェルスか、クラウスか。恐らく両方だろうと思いはするものの、今のユリウスにはどうでも良い事だった。額を両手で押さえて顔を真っ赤にしている夕はやっぱり愛おしくて、ユリウスは自然と笑みが溢れた。その微笑みは、誰が見ても愛おしい人にしか向けない特別な表情だった。
まずい、とクラウスは瞬時に理解した。シェルスに視線を戻すと、彼は鬼の形相をして夕を睨んでいた。あんな表情を見て、自分と夕の対応の差を見せ付けられて、自分はユリウスに愛されていないと気付かぬ程愚かではないようだ。だからこそ厄介なのだ。シンジュへの訳の分からない対応を、夕にもしてくる可能性が高い。だから、クラウスはユリウスに「外では夕様となるべく距離を取ってください」と忠告していた。城の者達はほとんどがシェルスの味方であり、夕に対してあまり良いイメージを持っていない。
ユリウスが本当に好きで夕の傍に居たとしても、シェルスが一言「夕がユリウス様を誑かしている」と言えば、周囲はそれを信じてしまう。そうならないようにシェルスの機嫌を取りつつ、曖昧な距離感を保っていたのだが、ユリウスは我慢の限界に達した。しかし、それも仕方ない事だとクラウスは思う。これでも長く保った方だ。
「ユリウス様、どうして……」
婚約者は僕の方なのに。
それは勿論、ユリウス様は貴方の事が大っ嫌いだからですよ。と内心暴言を吐くが、クラウスは笑顔のまま敢えて何も言わなかった。
こうなっては仕方ない。今後の対策を考えるとしましょう。
呆れたような表情をしつつも、夕に甘えるユリウスの姿を見てクラウスはクスリと笑った。
それから、夕はずっとユリウスの傍に居た。ユリウスが夕の手を繋いだままだったからだ。家臣や使用人達からは敵視するような視線を向けられたが、ユリウスに抗議する者は一人も居なかった。シェルスも一緒に付いて来たのだが、彼が何か言う前にクラウスが阻止して二人の間に火花が散っていた。
今日の仕事はほとんど終わっているようで、ユリウスは夕と共に城の中を見て回った後、クラウスに「今日はもう休む」と告げた。クラウスは困ったように笑いながら「仕方ありませんね」と言ってユリウスを止めなかった。
「仕事の方も落ち着きましたからね。思う存分甘えてください」
言い終わる前に、ユリウスは既に夕を連れて自室に向かっていた。慌ててユリウスを止めようと夕が何か言っているが、またユリウスが彼の額に口付けると顔を真っ赤にして固まった。照れて恥ずかしそうにユリウスを見上げる夕に、ユリウスは嬉しそうにクスクス笑う。そんな夕の耳元に口を添えると、彼は視線を彷徨わせながらもユリウスに大人しく連れて行かれた。
「待ってください! ユリウス様! 僕もユリウス様のお部屋に……」
慌ててシェルスが二人を追いかけようとしたが、二人の姿は見えなくなってしまった。そんな彼を見て、クラウスは鼻で笑う。
「哀れですね。婚約者でありながら、あそこまでユリウス様に無視されるなんて」
「…………」
クラウスの嫌味にカチンときたのか、シェルスが無言で睨み付けてくる。しかし、クラウスの実力や地位を知っているのか、その辺の常識はあるのか、彼はクラウスに言い返さなかった。このままユリウスを諦めて自国に帰ればいいのに、とクラウスは思うが、彼はユリウスを諦めて大人しく帰るような性格ではない。ユリウスが本当に好きなのが自分ではなく夕だと知っても、ユリウスが幸せそうに笑うのは夕の前だけだと気付いても、シェルスは一歩も引かず夕を追い出そうと動くだろう。
「何を企んでいるのか知りませんが、全て思い通りになるなんて思わないでください」
それはシェルスに対する宣戦布告だった。どんなに夕が邪魔だと思っても、シェルスは直ぐに夕を消す事は出来ない。彼の動きを見てクラウスはそう確信していた。彼が最も邪魔だと思っている存在は常にユリウスの傍に居る夕の筈だ。それなのに、彼は夕に対して嫌味を言ったり嫌われるように仕向けるたりする程度。それも厄介ではあるが、まだ大人しいと言えるだろう。
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