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第5章
小さな悪戯
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後日、夕から話を聞いたクラウスは笑顔のまま固まった。ユリウスの自室に戻った後、夕はやっぱり距離を置いた方がいいのではないかと考え、ユリウスにその事を伝えようとしたが出来なかった。夕から「離れたくない」と言われた事が本当に嬉しかったらしく、ユリウスは自室に戻った瞬間思う存分夕に甘えた。その時の表情が幸せそうで、心から安心しているようで、結局夕はユリウスに何も言えず彼の好きなようにさせていたのだ。
「俺、このままユリウス様の傍に居ても良いんでしょうか」
「良いんですよ。ユリウス様がそれを望んでいるのですから」
「婚約者のシェルス様とか、ユリウス様の家臣達は納得していないのにですか?」
「そもそも婚約だ何だと騒ぎ立てたのは向こう側です。ユリウス様はシェルス様が婚約者だなんて一言も言っていませんし、そもそも認めていません。それなりに地位があるから仕方なく付き合ってあげているだけです」
「……棘のある言い方ですね」
「社交辞令と言うものです。ユウ様が気に病む必要はありませんよ」
むしろ、彼にはユリウス様の傍に居てもらわないと困る。夕にそう伝えつつ、クラウスは笑顔を貼り付けた。もし、今此処でユリウスから夕を遠ざけたらどうなるか。そんなの想像しなくても分かる。常に冷静な判断をし、全く表情を崩さないユリウスだが、夕の事となると本当に周りが見えなくなる程暴走する。以前、夕と鈴が行方不明になり人身売買を目的とする輩と遭遇した時、ユリウスは何の躊躇いもなく彼らを斬り殺そうとした。夕が気を遣ってユリウスから距離を取ろうとした時も、必死に説得して夕を繋ぎ止めていた。シェルスの言葉だけを信じ、夕に暴言を吐いた家臣達もその場で斬り捨てようとしたらしい。それも夕が止めてくれたので大惨事にはならなかったようだが……
「そう言えば、クラウスさんは反対しないんですね」
「反対?」
「俺が、ユリウス様の傍に居る事に対して……」
「する必要がありませんからね」
クラウスが即答すると、夕は訳が分からないと言う表情をした。ユリウスの従者であり、この国で二番目に権力を持ち、強いと言われているクラウス。ユリウスが月の神子だと知っており、自分の身は自分で守れるようにと、クラウスはユリウスに対して敢えて厳しく接していた。普通に考えたらやり過ぎだ、虐待だと思うかもしれないが、それ程クラウスにとってユリウスは大切な存在だと言う事。当然、ユリウスと関わる人物を見る目は厳しくなるだろう。しかし、夕も鈴もクラウスから厳しい目を向けられた事は一度もない。最初に出会った頃は多少疑いの目はあったものの、今ではクラウス自身が「ユウ様はユリウス様の傍に居るべき!」と推奨する程だ。
「あの、やっぱり俺はユリウス様と関わらない方が良いような気が……」
「ユウ様はユリウス様が嫌いなのですか?」
夕の言葉を遮るようにクラウスが聞くと、彼は悩みながらも「嫌いじゃないです」と答えた。可能ならこれからもユリウスの傍に居たいと聞いて、クラウスは優しい笑みを浮かべた。
「ユリウス様もユウ様も、お互い傍に居たいと思っているのなら、このままで良いんです」
ユリウスの一方通行の片想いだと思っていたが、どうやら違うらしい。ユリウスの事を話す夕はとても嬉しそうで、時々恥ずかしそうに頬を染めるのは、きっと彼もユリウスと同じ気持ちを抱いているから。夕に自覚がないだけで、二人が両想いなのはほぼ確実だろう。
まだ納得せず複雑な表情をする夕に、クラウスは「ユリウス様とは関わらないなんて、本人の前では絶対に言わないでくださいね?」と釘を刺した。
これだけ言っても、夕はまだ納得せず悩んでいた。シェルスや家臣達に色々言われた事を気にしているのだろう。クラウスからしてみればどうでもいい事ばかりだ。容姿、地位、教養、礼儀作法。王族貴族であれば必要最低限のルールやマナーは学ばなければならないし容姿も気にしなければならない。しかし、夕は違う世界から来た異世界人であり、この世界についてはほぼ無知に近い。それでも彼は周囲を見て判断し、場を弁え失礼にならないよう行動している。
夕と鈴からしてみれば突然違う世界に連れて来られた挙句、面倒事に巻き込まれたようなものなのに、二人はユリウスとクラウスを責め立てなかった。周囲の者達は夕がユリウスを誑かしているとか、術を使って操っているとか言っているが、何をどう見たらそう見えるのか本当に分からない。夕がユリウスを魅了しているのは事実だが、それは彼の優しさや素直さ、何の見返りも求めず他人の為に動ける所など、全て夕自身が持つ魅力だ。
ソレイユ国第一王子であり月の神子でもあるユリウス。当然周囲はユリウスが持つ肩書きだけを見て婚約者に、お近付きに、と下心丸出しでユリウスと接する。そんな中、ユリウスをユリウスとして見てくれる存在が現れたらどうなるか何て言わなくても分かる。ユリウス自身を見て対等に接してくれたのは、クラウスが知る限り夕だけだ。今はリベルテとシンジュも居るが、夕と鈴がこの世界に来てくれなければユリウスは孤独なままだったに違いない。
「ユリウス様には、好きな人が居るんですよね?」
「ええ」
完全に忘れていた。ユリウスが好きなのは夕だが、彼の好きな人が自分だと思っていないと言う事を。何度か伝えようとしたが全て失敗に終わり、伝える機会も減ってズルズルと後回しになっていたのだ。夕は未だにユリウスの好きな人は別に居ると思っており、その人に会いたいと思っている。
「その人に申し訳なくて」
夕の言葉を聞いて、クラウスはもう本当の事を話してもいいだろうと思った。説明しようかと考えて、ふとある事を思い付き、静かに口を開いた。
「……それなら、私の部屋に来ますか?」
「え!?」
予想通りの反応にクラウスは笑みを深め、夕の手を取り、自分の方へ引き寄せた。
「ユリウス様の傍に居るのが辛いなら、私がユウ様の傍に居ましょう」
「クラウスさん?」
抵抗する時間も与えず、クラウスはスッと夕の頬に手を添える。蕩けるような優しい笑みを浮かべ、つうっと頬に添えた手を顎に滑らせ顔を近付けた。驚いて固まっている夕の耳元に口を添え、クラウスは「ユリウス様ではなく、私を選んでください。ユウ様」と囁き、困惑している夕の唇に自分の唇を近付けた。
「俺、このままユリウス様の傍に居ても良いんでしょうか」
「良いんですよ。ユリウス様がそれを望んでいるのですから」
「婚約者のシェルス様とか、ユリウス様の家臣達は納得していないのにですか?」
「そもそも婚約だ何だと騒ぎ立てたのは向こう側です。ユリウス様はシェルス様が婚約者だなんて一言も言っていませんし、そもそも認めていません。それなりに地位があるから仕方なく付き合ってあげているだけです」
「……棘のある言い方ですね」
「社交辞令と言うものです。ユウ様が気に病む必要はありませんよ」
むしろ、彼にはユリウス様の傍に居てもらわないと困る。夕にそう伝えつつ、クラウスは笑顔を貼り付けた。もし、今此処でユリウスから夕を遠ざけたらどうなるか。そんなの想像しなくても分かる。常に冷静な判断をし、全く表情を崩さないユリウスだが、夕の事となると本当に周りが見えなくなる程暴走する。以前、夕と鈴が行方不明になり人身売買を目的とする輩と遭遇した時、ユリウスは何の躊躇いもなく彼らを斬り殺そうとした。夕が気を遣ってユリウスから距離を取ろうとした時も、必死に説得して夕を繋ぎ止めていた。シェルスの言葉だけを信じ、夕に暴言を吐いた家臣達もその場で斬り捨てようとしたらしい。それも夕が止めてくれたので大惨事にはならなかったようだが……
「そう言えば、クラウスさんは反対しないんですね」
「反対?」
「俺が、ユリウス様の傍に居る事に対して……」
「する必要がありませんからね」
クラウスが即答すると、夕は訳が分からないと言う表情をした。ユリウスの従者であり、この国で二番目に権力を持ち、強いと言われているクラウス。ユリウスが月の神子だと知っており、自分の身は自分で守れるようにと、クラウスはユリウスに対して敢えて厳しく接していた。普通に考えたらやり過ぎだ、虐待だと思うかもしれないが、それ程クラウスにとってユリウスは大切な存在だと言う事。当然、ユリウスと関わる人物を見る目は厳しくなるだろう。しかし、夕も鈴もクラウスから厳しい目を向けられた事は一度もない。最初に出会った頃は多少疑いの目はあったものの、今ではクラウス自身が「ユウ様はユリウス様の傍に居るべき!」と推奨する程だ。
「あの、やっぱり俺はユリウス様と関わらない方が良いような気が……」
「ユウ様はユリウス様が嫌いなのですか?」
夕の言葉を遮るようにクラウスが聞くと、彼は悩みながらも「嫌いじゃないです」と答えた。可能ならこれからもユリウスの傍に居たいと聞いて、クラウスは優しい笑みを浮かべた。
「ユリウス様もユウ様も、お互い傍に居たいと思っているのなら、このままで良いんです」
ユリウスの一方通行の片想いだと思っていたが、どうやら違うらしい。ユリウスの事を話す夕はとても嬉しそうで、時々恥ずかしそうに頬を染めるのは、きっと彼もユリウスと同じ気持ちを抱いているから。夕に自覚がないだけで、二人が両想いなのはほぼ確実だろう。
まだ納得せず複雑な表情をする夕に、クラウスは「ユリウス様とは関わらないなんて、本人の前では絶対に言わないでくださいね?」と釘を刺した。
これだけ言っても、夕はまだ納得せず悩んでいた。シェルスや家臣達に色々言われた事を気にしているのだろう。クラウスからしてみればどうでもいい事ばかりだ。容姿、地位、教養、礼儀作法。王族貴族であれば必要最低限のルールやマナーは学ばなければならないし容姿も気にしなければならない。しかし、夕は違う世界から来た異世界人であり、この世界についてはほぼ無知に近い。それでも彼は周囲を見て判断し、場を弁え失礼にならないよう行動している。
夕と鈴からしてみれば突然違う世界に連れて来られた挙句、面倒事に巻き込まれたようなものなのに、二人はユリウスとクラウスを責め立てなかった。周囲の者達は夕がユリウスを誑かしているとか、術を使って操っているとか言っているが、何をどう見たらそう見えるのか本当に分からない。夕がユリウスを魅了しているのは事実だが、それは彼の優しさや素直さ、何の見返りも求めず他人の為に動ける所など、全て夕自身が持つ魅力だ。
ソレイユ国第一王子であり月の神子でもあるユリウス。当然周囲はユリウスが持つ肩書きだけを見て婚約者に、お近付きに、と下心丸出しでユリウスと接する。そんな中、ユリウスをユリウスとして見てくれる存在が現れたらどうなるか何て言わなくても分かる。ユリウス自身を見て対等に接してくれたのは、クラウスが知る限り夕だけだ。今はリベルテとシンジュも居るが、夕と鈴がこの世界に来てくれなければユリウスは孤独なままだったに違いない。
「ユリウス様には、好きな人が居るんですよね?」
「ええ」
完全に忘れていた。ユリウスが好きなのは夕だが、彼の好きな人が自分だと思っていないと言う事を。何度か伝えようとしたが全て失敗に終わり、伝える機会も減ってズルズルと後回しになっていたのだ。夕は未だにユリウスの好きな人は別に居ると思っており、その人に会いたいと思っている。
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「……それなら、私の部屋に来ますか?」
「え!?」
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「ユリウス様の傍に居るのが辛いなら、私がユウ様の傍に居ましょう」
「クラウスさん?」
抵抗する時間も与えず、クラウスはスッと夕の頬に手を添える。蕩けるような優しい笑みを浮かべ、つうっと頬に添えた手を顎に滑らせ顔を近付けた。驚いて固まっている夕の耳元に口を添え、クラウスは「ユリウス様ではなく、私を選んでください。ユウ様」と囁き、困惑している夕の唇に自分の唇を近付けた。
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