英雄様を育てただけなのに《完結》

トキ

文字の大きさ
30 / 35

おまじない2

しおりを挟む
 俺が泣き止んだのを見て、フォティアさんは話を再開した。王女様達は自滅して命を落としたけど、魂はまだこの世にしがみ付いていた。けれど、それは魂とは言えないくらい削れていて思念体の残滓と言った方が正しい。それらは何故か俺に対して凄まじい憎悪を抱いており、どんな方法を使ったのかは分からないが、俺の夢の中へ侵入することに成功した。

「そこからはミツちゃんが見た夢の通り。本当に最低だよね」
「あのさ、なんで僕が兄さんを嫌うの? 兄さんが落ちこぼれ? 兄さんだと思ったことなんて一度もない? はあ?」
「えっと、満帆?」
「そんなこと、思う訳ないじゃん! 僕が兄さんを罵るなんて、それで兄さんを傷付けるなんて! 彼奴ら、やっぱり僕の手で殺しておけば良かった!」
「お、落ち着け! 満帆! 俺は無事だったんだから、な?」
「ライコウの言う通りだ。ミツル殿の気持ちも理解できるが、態々俺達にミツル殿を殺させようとするとはな……」
「もし、奴らが生きていたなら、私もこの手で殺していたかもしれませんね」
「い、いや。あの……」

 俺、そんなに詳しく夢のことは話してないんだけど。まさか、無意識にメリに言っていたのだろうか。それとも、フォティアさん?

「居なくなった連中を憎んでも仕方ないだろう。冷静になれ」
「貴方は何時も落ち着いていますね」
「確かに。ミツルを傷付けられて悔しくねえのか? お前は」
「もう終わったことだからな」
「……はあ。これだから執着心の強いヤンデレは」
「満帆?」
「ううん! なんでもないよ! 兄さん!」

 みんなの言う通り、メリが一番怒ってもいい筈なのに、彼は始終落ち着いていた。その冷静さが逆に怖くて、俺は恐る恐る名前を呼ぶ。メリは俺を見て優しく微笑んで「ミツが無事ならそれでいい」と言って口付けてきた。メリが納得してるなら、これ以上聞く必要もないだろう。フィスィさんとギルバートさんとフォティアさんは「え? こわ」と怯えているけど、翠嵐さんと満帆はお互いに目を見合わせて深いため息を吐いた。二人は何か知っているのだろうか。知っていても、俺に教えてくれないだろう。そう思って、俺は敢えて聞かないことにした。




 フォティアさんが王女様達を焼き尽くしたから、もうこの世には魂すらも存在しないと断言した。

「あの穢れた土地も無くなったし、奴らの魂も消失した。だから怯えなくていいよ。ミツちゃん」
「はい。ありがとうございます。フォティアさん」
「これが俺の本業だからね。でも、間に合って良かったあ。アレでミツちゃんが殺された後だったら、俺、メリに殺されちゃうもん」
「そ、そんなことは……」
「殺しはしないが、殴り飛ばすくらいはしたかもしれない」
「メリ!?」
「私も、一発殴っていたと思います」
「フィスィさんも!?」
「俺も、一発殴っていただろうな」
「え? 翠嵐さん?」
「いやいや物騒! 俺、一番頑張ったじゃん!」
「冗談ですよ」
「冗談だ。真に受けるな。フォティア」
「冗談に聞こえない! こっわ! この人達!」

 うん。確かに冗談に聞こえない。今回頑張ったのはフォティアさんなのに、どうしてみんな扱いが酷いのか。フィスィさん曰く、日頃の行いと言動が原因らしい。そう言えば、旅をしている時もフォティアさんはちょっと発言がアレだったって聞いたなあ。

「念の為にもう一度聞くが、ミツルはもう大丈夫なんだな?」
「勿論! 奴らの魂は完全に消えたから、二度とミツちゃんに干渉できないよ!」
「それ、信じていいの?」
「言ったでしょ? 俺は呪術のプロだって。プロの俺が『大丈夫』って言ってるんだから信じてよ」

 ギルバートさんと満帆はまだ納得していないようだったけど、フォティアさんが「大丈夫」と断言するので渋々納得した。俺が見た悪夢に関する話はこれで終わりと告げて、フォティアさんはフルーツタルトを堪能した。言われた通り、タルトの半分をお皿に乗せたけど食べきれるのだろうか。そんな不安を抱いていたが、フォティアさんはペロリと平らげてしまった。凄い。どうなっているんだ? フォティアさんの胃袋。

「やはり、ミツル様の作るお菓子は美味しいですね」
「あぁ。今迄の疲れが一瞬で吹っ飛ぶくらい美味しい」
「兄さんのフルーツタルト! あぁ。僕は世界一幸せな弟だよ! 兄さん!」
「え? うん」

 満帆は相変わらずブラコンだ。目を輝かせてフルーツタルトを口にして満面の笑みを浮かべている。その表情は年相応で、昔のように仲が良かった頃を思い出して思わず笑ってしまう。

「どうしたの? 兄さん」
「ううん。なんでもない。満帆は満帆だなあって、思っただけだよ」
「なにそれ?」
「俺の大切な、自慢の弟だよって意味だ」
「に、にににに、兄さぁあああああああん! 僕も! 僕も兄さんが一番だよ! 僕の自慢の兄さんだよ! 兄さん大好き! 結婚して!」
「それは無理」

 きっぱり断るのと、メリが俺を抱き寄せて牽制するのは同時だった。またメリと満帆は喧嘩して、フィスィさん達は呆れ顔。今まで大人しくしていたサクはギルバートさんに捕まって全身を撫で回されている。何時の間にかトキワ様もやって来て、リビングの中はごちゃごちゃしていた。賑やかで、慌ただしくて、笑ったり怒ったり。そんな光景を見て、俺は可笑しくなって声を出して笑った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...