当て馬にされていた不憫な使用人は天才魔導士様に囲われる《第二部完結》

トキ

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第一部

反省しない人2

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 リゼットちゃんとジョエルちゃんが椅子に座り、ちょっとした女子会が開かれてしまった。内容は平和なもので、所謂惚気話だ。「ジルが心配性で」とか「ニコラが格好よくて」とか、そんな感じ。ルグラン様にもちゃんと話を振って「素敵な旦那様ですね」と褒めていた。リゼットちゃん、流石だなあ。ルグラン様も旦那様を褒められて嬉しそうにしていたし、これなら平和に終わりそうだ。そう思って安堵したのだが……

「ジャノさんは? ユベール様とのお話を聞かせてください」
「え? 俺?」
「はい! ジャノさんだけ話さないなんてズルいです!」
「いや、俺の話は……」

 リゼットちゃん!? 折角平和にお話ししてたんだから、そのムードを壊すようなことを言わないで! それに、俺とユベール様はまだ何もないし、自分の気持ちも分かっていない状態だし。だけど、最近ユベール様を見るとドキッとする時があるんだよなあ。甘く蕩けるような目で見つめられた時とか、ふとした時に見せる微笑みとか、俺を優しく抱きしめてくれた時とか。今までは戸惑いや困惑の気持ちの方が強かったのに、クレマン様達から「君も被害者だ」と言われてから俺も少し変わった気がする。俺はずっと誘拐犯の一員だと思い込んでいたから。でも、俺は何も悪くなくて、ユベール様と一緒にいても責め立てられることはないって分かって安堵した。それからだ。ユベール様を見ると、妙に心が騒ついて胸がドキドキするのは。

「ジルもとっても過保護なんですけど、ユベール様はもっと過保護ですよね」
「え?」
「だって、ユベール様ったら私達にも中々会わせようとしなかったんですよ? ジャノさんを保護したって連絡は手紙で読みましたけど、私やジルが『ジャノさんに直接会ってお礼を言いたい』って言っても『まだ困惑しているから』とか『今は色々と忙しくて』とか言って会わせてくれなかったんですよ! 私、ジャノさんのことちゃんとお話ししたのに! ジルの婚約者だから会っても問題ない筈なのに」
「そ、そうだったんだ」
「そうですよ! ズルいです! ユベール様ったらジャノさんを独り占めして!」
「ユベール様、何時もジャノ様のお話ばかりするので、その、とても、とても愛しているんだなって、私も思います」
「うん。分かりやすいもんね」

 これはリゼットちゃん達から聞いて初めて知ったことなんだけど、ユベール様は普段とても冷酷な方らしい。常に無表情で他人には興味を抱かない。魔導具の研究と開発に専念していて、令嬢達が声をかけても「用もないのに話しかけるな」と吐き捨てるくらい冷たい人。その誰にも頼らず他者を寄せ付けない雰囲気がまた格好よくて、魅力的で、ユベール様への縁談は全く途絶えなかった。ユベール様自ら「幼い頃から好きな人がいる」と公言していてもあまり効果はなく、むしろ「私が貴方の想い人です」と嘘を吐く人も多かったとか。そんな人達を幼い頃から相手にしていたら当然対応も適当になっていく。

 ルグラン伯爵家で見たユベール様の姿がみんなが見ている姿なんだろう。俺の前では「大天使様!」と言って俺を甘やかして、ユベール様自身も俺に甘えてくるけど。最近ではほぼ毎日ユベール様を抱きしめて頭を撫でて同じベッドで眠っている。このままでいいのかなあ、という疑問はあれど、ユベール様の嬉しそうな顔を見るとついつい「まあいいか」と思っちゃうんだよなあ。後、その時のユベール様がめちゃくちゃ可愛い。普段は美しくて格好いいのに、俺だけに甘えてくる姿が本当に可愛くて……って、あれ? 俺、ユベール様のことを意識してる? 俺もユベール様のことを好きなのか?

「分かりやすいって言うより、見せ付けてますよね? ジャノさんは俺のものだから絶対に手を出すな! って意思がひしひしと」
「ユベール様は学生の頃から次々と画期的な魔導具を開発して、商品として売り出していたので、ジャノ様が身に付けているものにも納得です」
「ジルも言ってたなあ。『流石にベルトラン公爵家ほどの財力はないよ』って。『あの家は別格というか、ユベール様の財力がバケモノじみている』って」
「うん。そうだね。億が付く宝石、いっぱい持ってるもんね」
「ユベール様が買い集めたものの総額って一体……」
「考えるのはやめよう!? 俺も怖くて聞けないんだ! 最初に宝石を付けられた時、俺が恐る恐る宝石の価格を聞いたら、ユベール様は『宝石にかかったお金など砂一粒に過ぎない』って断言して、俺は気絶しそうになった」
「それ、ジルも同じこと言ってたなあ。私はそんな高価なものを望んでいないのに『絶対君に似合うから!』と言って、次から次へとドレスや宝石を購入して……そんなにお金があるなら、もっと別のことに使ってほしいのに」
「分かる!」

 リゼットちゃんも同じ思いをしていたのか。元々俺達は平民で、価値観や金銭感覚も同じ。リゼットちゃんもお金に関することではちょっと困っていたのか。うんうん。分かる。分かるよ。ドレスとか宝飾品なんて三つくらいあれば十分! って思うよなあ。リゼットちゃんは可愛いからアレもコレもと貢ぎたくなる気持ちは分かるけど、俺は平凡な男だからなあ。ユベール様はどうして俺にドレスを着せたがるのか。はあ。





 ついついリゼットちゃんと話し込んでしまって、俺は慌ててジョエルちゃんにも話を振る。ニコラくんとはどう? 仲良くしてる? と聞くと、ジョエルちゃんは顔を真っ赤に染めて「は、はい! い、いい、何時も、私を守ってくれて」と答えてくれた。かわいい。なんだこの癒し空間。心が洗われる気がする。

「き、騎士服を纏ったニコラがすっごく格好よくて、時々鍛錬している姿を見るんですけど、その時の真剣な表情が本当に、本当に格好よくて。でも、リゼット様やジル様には素直で……わ、私にもとても優しくて、じ、自慢のこ、こここ、恋人、です」
「今は、ね? ニコラと婚約者になるんだから、今から慣れないと大変よ?」
「は、ははは、はい!」

 あぁ、かわいい。甘酸っぱい恋っていいよね。これぞ青春! って感じで。瑞々しくて爽やかな恋のお味は最高だ。心が浄化される。君達はそのまま幸せになってください。

「あ、ごめんなさい! 私達、つい話し込んじゃって。そういえば、どうしてルグラン様とジャノさんが一緒だったの?」
「…………」

 リ、リリリ、リゼットちゃんんんんんんんん! そこは触れないでくれないかな!? ほら! 伯爵夫人、すっごく困惑しているじゃん! 視線彷徨わせて「ぐ、偶然、会ったんです」って苦い言い訳してるんだけど!? 俺も俺で本当のことは話せないから「そうそう! 偶然!」と言って誤魔化したけど!

「そうなんですか? よくルグラン伯爵が許しましたね? だって、ルグラン様はジャノさんに……普通なら自分に酷いことをした人には近付かないと思うんですけど」
「そ、それは、その、あの……」
「あ! ひょっとして、ルグラン様も気付いたんですか!? ジャノさんに関する噂が全て嘘だって! それなら一緒に居てもおかしくないですね!」
「リ、リゼットちゃん?」
「嫌なことと言ったら、ジャノさん大丈夫でしたか!? この前、ラナ様からお聞きしたんですが、宝石とドレスを非常識な貴族の夫人に奪われかけたって! お客様であるジャノさんに色々と酷いことを言ってまるで我が物顔で居座ってアレもコレもと強請って、一生懸命働いている使用人の方にも嫌がらせをしたんでしょう!? それなのにドレスを汚されたってまた騒いで、ジャノさんが責任を取って出て行こうとしたって! 酷い方ですね! 他所様の家で好き勝手暴れて、ジャノさんのお部屋も散らかして、ドレスと宝石も奪おうとして! 許せないです!」

 リゼットちゃん! もう止めて! これ以上何も言わないで! 伯爵夫人顔面蒼白だから! 何も言い返せなくなってるから! 彼女達の自業自得ではあるけど、公共の場で言うことじゃないと思います! 公開処刑はやめてあげてぇえええええええええ!

「だ、大丈夫だから。気にしないで」
「気にします! ジャノさんは私の恩人でもあるんだから! 犯人を見付けたら教えてくださいね! ジルに言って沈めてやりますから!」

 ねえ、リゼットちゃん。いいや、リゼットさん? リゼット様、それ、狙ってやってる? 確信犯? それとも名前は知らずについ言葉に出しちゃっただけ? どっち!? 俺もう分からないよ! 伯爵夫人気絶寸前なんだけど!? 侍女の人も色々と限界なんだけど!? ベルトラン公爵家だけでなく、モラン侯爵家をも敵に回したかもしれないと漸く気付いたのだろう。でも、それで反省する二人じゃないんだよなあ。まあた俺のせいにされそう。俺、もうこの人達とは関わりたくないのに。はあ。
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