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都市伝説 幻想図書館 解①-1
しおりを挟む二人は扉の先で足を止めた。コツン…コツン…と床に音が響く館内。結晶と豪邸のような内装が混ざりあった壁。館の中央が吹き抜けになっており、壁に埋め込まれた天井まで伸びる本棚と床に人の背よりも高く積み上げられた本の山。ひと目で図書館だとわかるが、どう見ても誰かが本を読みに来るような環境ではない。なにせ足の踏み場がないのだから。
おかしな点で言えば、その本棚も所々に絵画が埋め込まれている。しかもその絵画はゆっくりと絵が切り替わっていく。
館内に灯りはなく、吹き抜けの天井から後光のように差し込む月明かりで照らされているだけだった。だが、そのおかげか、結晶の壁や本棚の結晶部分がきらきらと輝きを放ち、幻想的な雰囲気を作り出している。
「ここが…幻想図書館の中…」
見上げるほどに高い天井。宮殿の書架の様でもある。
静かな館内には声がよく響く。これだけ足元すら埋め尽くすほどの本の山があるというのに音が響くのはこの結晶達の影響だろうか。
きょろきょろと周囲を見渡し眺めているオルメカの横で、ソロモンが呟いた。
「…ここに入っていった魂の欠片は何処に消えた…?」
その声は小さいものだったが、音がよく響く館内であれば聞き逃すほどでもない。オルメカはその声を聞いて彼の方に振り向いた。
その横顔は月明かり程の灯りということもあり表情は上手く読み取れなかったが、彼の金色の髪と左側の耳の後ろにつけていた七色の羽根の形の髪飾りがきらきらと輝いている。
…やっぱりキレーだなー…。美男子はこの世の宝だよ…。
思わず横顔に見とれてしまう。なんだかんだ幻想的な空間に美男子…。絵画もんだとオルメカはうんうん頷いている。が、冷たい視線に気づいて苦笑いで誤魔化す。
いやいや、この流れ何回目だ自分。
話を戻そう。
「そうだよね、魂の欠片?が入っていったはずなのに…」
見渡してもそれらしきものが見当たらない。あるのは本ばかりだ。
二人がもう一歩、館内に歩み出した時、初めて聞く少年の声が聞こえた。
「いらっしゃい。ようこそ、夢幻の世界へ」
声は館内に響く。反響し、何処から聞こえてきたのか、正確な位置はわからない。ソロモンとオルメカは少し身構えながら辺りの様子を窺う。別段変な所は見つからない。ならば、と部屋の中央に積み上げられた本の山を見る。人が隠れているならこの山の向こうだろう。そう思い、じりじりと本の山に近づく。そんな二人が中央の本の山が目の前に来た時、また声が聞こえてきた。
「…あれ?貴方は誰ですか?」
声が聞こえた方を見る。今度はすぐ近くに聞こえた。そう、本の山…その上からだ。そう思考が辿り着いたオルメカはバッと本の山、その一番上を見上げる。
「…男…の子…?」
積み上げられた本の山の上。こちらを覗き込むように少年がひょこっと顔を出している。
目を閉じた猫のような耳としっぽがついた帽子、口元まで隠れるような大きな上着にボタンの代わりなのか首元に大きな時計がついている飾りがある。右眼は前髪で隠しており、アルビノのように白い肌、紅い瞳の美少年。手元にハート型の立体パズルを抱いている。
「あ…あ…っ」
わなわなと体を震わせながらオルメカは少年を指差す。驚いた様な表情をしており、声が上手く出ないようだ。その様子を見て使い物にならないと判断したソロモンが少年に問う。
「すまないな。勝手に入らせてもらった。…お前は、この図書館の番人か…?」
ソロモンのその問いに、少年はきょとんとする。小首を傾げ「ばんにん、とはなんですか?」と答えた。
「ボクはここに来た子を案内しているだけです。それとは違うのですか?」
「番人」という言葉を知らないようだ。だが、この少年はソロモンから見て十二、三歳に見える。これだけ本に溢れた場所で、言葉を知らないことがあるのだろうか?この少年は本の虫…そう呼ばれるような読書好きという訳では無いのか?
「…いや、同じ意味ではない。まぁいい。ここで案内していると言ったな。ここに住んでいるのか?」
「すむ?とはなんですか?ボクは目が覚めた時からここに居ます。それはすんでいるということに事になりますか?」
少年の答えにソロモンは軽く混乱する。何を言っているんだ?この子供は。まさかとは思うが…記憶が無いのだろうか。
改めて少年に質問しようとした時、視界の端をオレンジの何かが横切った。咄嗟にその何かを目で追う。…オレンジ色の髪…オルメカだ。そう認識した時には彼女は飛び上がり、本の山に飛び込む。
…いや、違う。よく見ると飛び込んだ先にはあの少年が居る。少年を抱きしめるように飛びつき、バランスを崩し、少年が乗っていた本の山が崩壊した。その勢いのまま、オルメカと少年は本の山に埋もれたのだ。
バラバラと本が舞う。バサバサと音を立てて散らかる本はどれも分厚めの物なので、埋もれてしまえば相当な重量になる上、角で打てばかなり痛いはずだ。
大慌てでソロモンは本を退けて二人を発掘する。
「おい…!一体、何をやって……!!」
上に乗っていた本を退け終えると二人の姿が見え、ソロモンはオルメカを叱ろうとした。今のはあまりにも危険すぎる。だが、彼がその続きを言うことは出来なかった。…オルメカによって遮られた。
「会いたかったよー!!!美少年くーん!!!」
ガシッと少年を抱きしめ、その頬に頬ずりしている。目の錯覚だろうか、彼女の周囲をハートが乱舞しているように見える。ソロモンは目を細め、その光景を凝視する。やはりハートが舞っているように見える。そんな馬鹿な。慌てて自身の両目を擦り、再度、目を細めて見てみる。
今度は流石にハートは見えなくなっていた。だが、少年に頬ずりしているオルメカは見える。これは見間違いではなかったらしい。突然の出来事に彼女の腕の中にいる少年は、声も出ないほど石化したように固まっていた。
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