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都市伝説 幻想図書館 解①-2

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「はぁああああお肌スベスベお人形さんみたいだぁ!てかもう睫毛長い可愛いちょっと大きめな服も似合ってて可愛いいいい!ああもうホント来てよかった声も可愛いしやっぱ美男子は世界の宝だよねぇ!!」

   幸せそうに少年を抱きしめたままそのような世迷い言を言い出した。少なくとも、ソロモンはそう思った。思わず肩に羽織っていた上着がずり落ちそうになる。最早、乾いた笑いしか口から出てこない。呆れたソロモンは辺りに散らばった本をひとつ手に取って表紙を見る。本のタイトルというか誰かの名前が書かれている。日記か?と中身を確認するためにページをパラパラと捲る。

「あーもうホント会えてよかった。じゃあはい!契約をー…」

   そう言いながら、左手で石化したままの少年を抱きしめ、右手で腰に付けていたブックボックスから魔導書を取り出し、徐ろにページを開く。
   呆れて乾いた笑いしか出なくなっていたソロモンだが、本から視線を外しその行動を見た瞬間、相変わらずの呆れた顔のまま無言で指をパチンと鳴らす。
   その音でオルメカの頭上に金だらいが二つほど現れる。
   「ん?」とオルメカは何かふいに自身の頭上に現れた影を見つけ、自身の頭上を確認しようとした。
   上を見上げるのが早いか、再び指がパチンと鳴るのが早いか、それはほぼ同時でオルメカが上を向いた瞬間に金だらいが二つ、彼女の顔に降ってきた。

「あべじっ!!」

   バーン!と金だらいはオルメカの顔に当たって音を立て、消えていく。
   もろに金だらいを顔にくらったオルメカは目を回してその場に倒れ込む。
   ドサッと彼女が倒れたことで石化状態から我に返った少年は、慌ててまだ崩れていなかった本の山の後ろに身を隠し、こちらの様子を窺い始める。

   やっと静かになった。そう思ったソロモンだったが、彼女がガバッ!と飛び起きたことでその束の間の静けさにさよならする事を悟った。
   飛び起きたオルメカは、顔を手で覆いながらソロモンをキッ!と睨む。

「ちょっと!ソロモンさん!?乙女の顔になんてことしてくれんのよ!??あとなんで邪魔すんの!!!?」

   ムッキー!と歯を剥き出しで怒っているようだ。ずかずかとソロモンに詰め寄る。その姿に随分前から呆れていたソロモンもいい加減にキレて言葉を返した。

「お前のペースに合わせてたらいつまでも話しが進まないだろう!」

   そう言われてオルメカ自身思うことがあるのか、ぐぅの音が出そうになる。だが、ここで怯む気は…ない!!

「あのね!そもそもこの旅は私のコレクションを増やす為の旅だって言ったでしょ!美男子と契約すんの!!!それがこの旅の真髄!!!」

   魔導書を持ってポンポンと叩いて見せる。それはソロモンも同意した上で同行していたわけだが、それとこれとは別だと言った。

「だーかーらー!!!」

   そう、ソロモンがオルメカに言い返そうとした時だ。二人から離れた本の山の裏から声が聞こえた。

「…どうして触さわれたんですか?」

   声の方を振り向く。本の山の後ろから顔を出した少年がいる。その瞳は微かに揺れている。

「どうして僕に触れられたんですか?」

   唐突なその問いに、オルメカとソロモンはお互いの顔を見合わせる。きょとんとした顔をお互いにしている。

「どういうこと?そりゃ私は幽霊とかじゃないし…」

   そうオルメカが答えた。だがその言葉に少年の顔は青ざめる。その様子を見て、何か問題があるのかと不安が募る。

「貴方は生身の人間なんですか?」

   声が上擦っている。微かに身体が震えているようだ。
   その様子に流石に何かおかしいと感じた二人は少年の話しを聞くことにした。

「おい、どういう意味なんだ?」

   落ち着かせるようになるべく優しい声でソロモンは話しかける。少年は青ざめたまま、

「出ていってください」

   と言った。
   突然のその拒絶に二人は困惑する。

「…おい、お前の暴走っぷりのせいじゃないのか?」

「えっ!?うそ!?まじで!!?」

   コソッと内緒話でもするように二人は小声で話す。その声は館内に響いたのだろうか、少年の耳に届いたのかは分からないが、少年はじっとこちらを見ている。そして再び「出ていってください」と言った。

「…ここには生身の人間がいたらダメなんです。でもどうして入れたんですか?生身の人間は入れないはずです」

   困った様にそう話す少年の疑問に、ソロモンは答えることにする。そうすることで、都市伝説だった幻想図書館の解明に繋がると考えた。それに、あの魂の欠片の行方も気になっている。

「…ここを覆っていた結界魔法なら、俺が破ったんだ。…彼女が入れなかったからな」

   その言葉に、少年の目が大きく見開かれる。

「…やっぱり…。お兄さんは何者なんですか?」

   首を傾げ、ソロモンを凝視している。

「お兄さんは、本当に生きている人ですか?」

   静かな館内にその声が響く。聞かれたソロモンは表情を読み取れない様にしているのか、真顔のまま立っている。いや、微かに少年を睨んでいるか。黙ってはいるが、不穏な空気を感じたオルメカがソロモンを庇うようにバッと!二人の間に割って入る。
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