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都市伝説 幻想図書館 解①-3

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「つっ、つまり!ここは霊体とかじゃないといちゃ駄目な場所なのね!?でもキミも生身の人間だよね!?じゃないと私だけ生身でもお互いに触れないもんね!?」

   この空気をどうにかしなければと、努めて明るい声でそう聞いた。見慣れたオレンジ色の髪が視界に入った事でソロモンは驚いたのか、面食らった顔に変わっている。

「キミは良くて私らが駄目な理由ってのはここが魔法的空間だから条件があるって解釈でいいのかな!?」

   不穏な空気を誤魔化すように話しを進める。

「そうだよね!元々魔法陣から出てきた訳だし…じゃあなんで私らがダメでキミは大丈夫なの?この図書館はキミが作り出した魔法なの?」

   若干、声が上擦っただろうか。とにかくこの空気をどうにかしたくて喋り続ける。実際のところはそれだけでなく、色々と聞きたい事があるのも確かだ。ただ、そう聞いたもののこんな子供にこれだけの魔法的空間を作り出せるとは思えない。都市伝説になるほどの圧倒的存在感。それでいて今まで誰も入れなかったのだ。生身の人間に対する結界魔法に覆われていた為に。

「…ねえ、この図書館に張ってあった結界って生身の人間に対してだよね?じゃあここに入れるのは…」

   オルメカの矢継ぎ早な質問責めに少し驚いた顔をしていたが、少年は素直に答える。

「…ここは、会いたい人に会える場所です。ここに来れるのは魂だけ。だから眠っている間に魂の欠片だけがここに来て、会いたかった人に会いに行くんです。代わりに、その人の人生を本にまとめて所蔵しています」

   少年は本棚の絵画を指差す。どうやら魂はこの絵画を通って会いたい人に会いに行けるらしい。

「…なるほど。だからここの本は無名の個の半生のような話が書かれていたんだな」

   すっ…とオルメカの隣に並ぶ。その手には拾い上げた本がある。オルメカに中身を見せるようにページを開いてみせる。そんな彼の様子を見るに、先程までの不穏な感じはしなかった。
…良かった。いつものソロモンだ。…てか今日はこやつにヒヤヒヤさせられてばっかな気がするんですけどね?

   本のページを読みながらちらりと上目遣いでソロモンの顔を見る。
…うーん。やっぱり美男子。酒場のおばちゃんが言ってたけど…べっぴんさんって言葉…似合うわ…。

   しみじみと眺めていると、視線がバチッと合い、ソロモンはバツが悪そうに視線を反らす。不覚にも上目遣いでこちらを見てくるオルメカが可愛く見えてしまった。その為か、ほんのり頬に赤みを帯びている。
   そんなソロモンの様子すらも自称、美男子愛好家のオルメカにとっては
    
   「ほんのり顔赤いとか狡過ぎない???そんな顔で何かお願いされたら何でも言う事きいちゃうよ!?私」等という思考の材料になってしまう。何か、何処か一般的な人々の思考から斜め上を行こうとする彼女にとって、美男子はこの世の宝。ただし、それは奉り眺める物であって決して触れてはならない領域とも考えている。

   あまりにもガン見されるので、耐え切れなくなったソロモンは持っていた本を閉じて彼女の顔に本をグイッと押し付ける。オルメカは顔に押し付けられた本を落とさないように受け止める。改めてソロモンを見るがそっぽを向かれていた。

「…本は記憶です。ここで会いたい人に出会った記憶は本に記録されて持ち出すことは出来ません。その人との記憶ごと本にしまわれます。目が覚めた時には、会いたかった人の事をまるごと忘れています。ここに来たことも」

「…だから、誰もこの中のことを知らないのか」

「なるほどね…。でもさ、ここの中の事を指す噂、あったよね?あれはー…」

パキン。

   オルメカが疑問を口にしようとしたその瞬間、館内に音が響き渡った。何かヒビでも入ったような音。

パキン…。

   その音はまた鳴った。咄嗟に周囲を、館内を見渡すが異常は見られない。

パキン…。

   再び音が鳴り響く。
   嫌な予感がした。少年は「ここに生身の人間がいては駄目なんだ」と。あの言葉の意味は、行き着くところは一体どこなんだろうか。
    
   魂の欠片だけが行き来出来る魔法的空間。少年は生身の人間であることはさっき確認した。その上でこの幻想図書館が今まで世界中を点在出来ていたのなら、少年の存在は問題がない。ソロモンは…彼がこの条件で異物扱いにならない存在であることは、オルメカ自身が証明出来る。それならば、

   異物は………私だ。

   そう悟った瞬間、ひゅっと息が詰まるのを感じた。もしここで何か起きたとしたら、自分のせいだ。
   彼女がそう悟ったとほぼ同時、

バキン……!

   館内に激しく響いたその破裂音がその静寂を破った。
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