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都市伝説 幻想図書館 終-2
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いつの間に、と思う。まだ召喚時のお願いは有効だ。つまり、バロウズを排除すべき相手とみなしたという事だ。
「まだ、命は惜しいんでねェ」
パチンッ!
その一言を合図にバロウズが手元の見えない袖の下で指を鳴らす。ビュオオオオオと強い風がどこからともなく吹き荒れ、思わず誰もが目を瞑った。目を開けた次の瞬間にはバロウズの姿は見えなくなっていた。
「あーー!!!逃げた!!!」
風の残り香だけを残し姿を消したバロウズが立っていた場所を見て、オルメカは悔しそうな声をあげた。
「話まだ終わってないっての!!!」
「…まぁ仕方がないな。ああも照準を合わせられていたら逃げるというものだろう」
異界の神ラーは残していた一隻の帆船も片付ける。今この周辺に三人に及ぶ危険は無いという判断を下したのだろう。ある意味でそれはここが安全地帯であることの裏付けとなった。
結局、肝心な部分が曖昧なまま草原に取り残される三人と一柱。月は沈み東の方から徐々に日が昇り始める時刻。背後に日の明るさを感じ、夜が明け始めたことを知る。
「夜明けか…」
一晩中、あの空間ですったもんだしていたのかと思う。そんなに時間が経っていただろうか。もしかしてあの空間と外の世界との間に時間のズレがあったのかもしれない。徐々に昇り始めた太陽を薄目でソロモンは見つめる。全身に当たる風と肌に感じる太陽にようやく終わったことを実感した。
まだまだ、謎が残されている。だが、ひとまずは無事に居られる事を喜ぼうと思った。
そんなソロモンの耳に彼女の叫びが聞こえ、びっくりして一瞬目が丸くなった。
「あーもう難しい話はおしまい!!!」
パンッ!っと手を叩く。突発的なその行為に驚いたのはソロモンだけではない。少年も驚いていた。きょとんとしている。
「どうせ今の情報だけじゃこれ以上わかんないってことだよね!なーんか色々思惑が渦巻いてるっぽいけど、私の旅の目的は変わらない!!!」
両手を腰に当ててドヤ顔をする。
「気を取り直しまして!!!私は美男子愛好家のオルメカ・メルリリィ。世界中を旅してあらゆる美男子達と我が魔導書との契約をせし者よ!!」
少年に見せるように魔導書を取り出す。
「私はキミに会いに来たの。なんだか思ってもみない事態になっちゃったけど、私と契約してほしいんだ。…キミも帰る所がなくなってしまったわけだし、ひとまずでも一緒にいる方がいいと思うんだけど」
最後の方は申し訳なさそうに言った。突然の申し出に、少年は最初に会った時も契約がどうと言っていたことを思い出した。
「…あの鳥の人もお姉さんと契約しているんですか?」
ちらりと異界の神ラーを見やる。
「うん。そうだよ。キミも見たでしょ?召喚している所」
「…では、あの金色の髪のお兄さんも契約しているんですか?」
少年のその問いに、二人は一瞬、息を呑んだ。金色の髪のお兄さんと呼ばれたソロモンは何も言わずにこちらを見ているだけだったが、オルメカは少し困ったような顔をした。
「なんでそう思うの?」
「…ずっと考えていたんです。どうして結界を通り抜けられたのかを。だからあの鳥の人を見て思ったんです。魔法だから通り抜けられたんじゃないかって。そう考えたらパズルが出来上がるみたいにピースが嵌まるんです」
案外鋭い子だなとオルメカは思った。知らない事もあるようだが、どうやら知識が無いのではなく、ひょっとしてとても偏った形で特化しているのではないか?とさえ思えた。
「うん。正解。ラー様同様……ソロモンも私の召喚魔法だよ」
そう言ってソロモンの隣に立って彼に笑いかける。ソロモンはその笑みに答えるようにふっと笑い返す。
「と言ってもラー様もソロモンもちゃんと実在しているんだよ。だから実生活にも支障はないわけ。まぁ、あるとしたら、術者と召喚魔法との間で直接的に触れることは出来ないんだよねー。間接的になら大丈夫なんだけど、直接的に触れると契約が強制解除されちゃうんだよね」
「触るとダメなんですか?」
「そうそう。美男子愛好家としては由々しき制約だよ。お触り禁止なんだもん。拷問だよね!」
やれやれ……困ったもんだぜ、とでも言いたげな仕草をする。
「こいつとの契約は辞めておいた方がいいぞ」
そんなオルメカを差し置くように少年の傍に寄るソロモン。
「ところ構わず恥ずかしい事を考えるからな。俺達を肴さかなに」
「え?」ときょとんとする少年。
「ちょっと!ソロモンさん?!誤解を生むような発言は止してくれません!?さりげない妨害は止めてくれません!?」
「こいつの存在自体が恥ずかしいからな。お勧め出来ないぞ」
「人を変態みたいに言うの止めてくれません!?残念なものみたいに言うの止めてくれません!?」
「まぁこいつのお触りを禁止したければ契約するのもありかもしれないが」
「なんですと!!??まさかそんな理由で契約してくれたって言うわけ!?」
ソロモンの一言に逐一ツッコミを入れるオルメカ。そんな二人を見ていた少年はほんの少し笑ったように見えた。
「…」
少年は考えるようにハート型のパズルをぎゅっと抱き締める。目の前にはギャーギャーと仲の良さげなやり取りをする二人がいる。そんな二人を見守るように異界の神ラーが傍に立っている。
契約だとか召喚魔法と言われればなんだか大事な仰々しい堅いものかと思えるが、見ている感じそうでもなさそうだ。
「…契約…はしないとダメですか?」
「え?」
少年からのその質問にオルメカとソロモンは言い合いを止める。
「契約しないと一緒に居たらダメですか?」
それは思ってもみない申し出だった。
美男子愛好家としてはコレクションに加えられないのは残念ではあるが、旅の仲間に美男子が増えるというのであれば何の問題が無いどころか歓喜の舞でも踊りたいくらいだ。
「全っ然!!!問題ないよ!!」
オルメカは少年に手を差し出す。少年がその手を握り、彼女が握り返す。
「これからよろしくね!!」
とびっきりの笑顔は朝日に照らされ、キラキラと輝いていた。
「まだ、命は惜しいんでねェ」
パチンッ!
その一言を合図にバロウズが手元の見えない袖の下で指を鳴らす。ビュオオオオオと強い風がどこからともなく吹き荒れ、思わず誰もが目を瞑った。目を開けた次の瞬間にはバロウズの姿は見えなくなっていた。
「あーー!!!逃げた!!!」
風の残り香だけを残し姿を消したバロウズが立っていた場所を見て、オルメカは悔しそうな声をあげた。
「話まだ終わってないっての!!!」
「…まぁ仕方がないな。ああも照準を合わせられていたら逃げるというものだろう」
異界の神ラーは残していた一隻の帆船も片付ける。今この周辺に三人に及ぶ危険は無いという判断を下したのだろう。ある意味でそれはここが安全地帯であることの裏付けとなった。
結局、肝心な部分が曖昧なまま草原に取り残される三人と一柱。月は沈み東の方から徐々に日が昇り始める時刻。背後に日の明るさを感じ、夜が明け始めたことを知る。
「夜明けか…」
一晩中、あの空間ですったもんだしていたのかと思う。そんなに時間が経っていただろうか。もしかしてあの空間と外の世界との間に時間のズレがあったのかもしれない。徐々に昇り始めた太陽を薄目でソロモンは見つめる。全身に当たる風と肌に感じる太陽にようやく終わったことを実感した。
まだまだ、謎が残されている。だが、ひとまずは無事に居られる事を喜ぼうと思った。
そんなソロモンの耳に彼女の叫びが聞こえ、びっくりして一瞬目が丸くなった。
「あーもう難しい話はおしまい!!!」
パンッ!っと手を叩く。突発的なその行為に驚いたのはソロモンだけではない。少年も驚いていた。きょとんとしている。
「どうせ今の情報だけじゃこれ以上わかんないってことだよね!なーんか色々思惑が渦巻いてるっぽいけど、私の旅の目的は変わらない!!!」
両手を腰に当ててドヤ顔をする。
「気を取り直しまして!!!私は美男子愛好家のオルメカ・メルリリィ。世界中を旅してあらゆる美男子達と我が魔導書との契約をせし者よ!!」
少年に見せるように魔導書を取り出す。
「私はキミに会いに来たの。なんだか思ってもみない事態になっちゃったけど、私と契約してほしいんだ。…キミも帰る所がなくなってしまったわけだし、ひとまずでも一緒にいる方がいいと思うんだけど」
最後の方は申し訳なさそうに言った。突然の申し出に、少年は最初に会った時も契約がどうと言っていたことを思い出した。
「…あの鳥の人もお姉さんと契約しているんですか?」
ちらりと異界の神ラーを見やる。
「うん。そうだよ。キミも見たでしょ?召喚している所」
「…では、あの金色の髪のお兄さんも契約しているんですか?」
少年のその問いに、二人は一瞬、息を呑んだ。金色の髪のお兄さんと呼ばれたソロモンは何も言わずにこちらを見ているだけだったが、オルメカは少し困ったような顔をした。
「なんでそう思うの?」
「…ずっと考えていたんです。どうして結界を通り抜けられたのかを。だからあの鳥の人を見て思ったんです。魔法だから通り抜けられたんじゃないかって。そう考えたらパズルが出来上がるみたいにピースが嵌まるんです」
案外鋭い子だなとオルメカは思った。知らない事もあるようだが、どうやら知識が無いのではなく、ひょっとしてとても偏った形で特化しているのではないか?とさえ思えた。
「うん。正解。ラー様同様……ソロモンも私の召喚魔法だよ」
そう言ってソロモンの隣に立って彼に笑いかける。ソロモンはその笑みに答えるようにふっと笑い返す。
「と言ってもラー様もソロモンもちゃんと実在しているんだよ。だから実生活にも支障はないわけ。まぁ、あるとしたら、術者と召喚魔法との間で直接的に触れることは出来ないんだよねー。間接的になら大丈夫なんだけど、直接的に触れると契約が強制解除されちゃうんだよね」
「触るとダメなんですか?」
「そうそう。美男子愛好家としては由々しき制約だよ。お触り禁止なんだもん。拷問だよね!」
やれやれ……困ったもんだぜ、とでも言いたげな仕草をする。
「こいつとの契約は辞めておいた方がいいぞ」
そんなオルメカを差し置くように少年の傍に寄るソロモン。
「ところ構わず恥ずかしい事を考えるからな。俺達を肴さかなに」
「え?」ときょとんとする少年。
「ちょっと!ソロモンさん?!誤解を生むような発言は止してくれません!?さりげない妨害は止めてくれません!?」
「こいつの存在自体が恥ずかしいからな。お勧め出来ないぞ」
「人を変態みたいに言うの止めてくれません!?残念なものみたいに言うの止めてくれません!?」
「まぁこいつのお触りを禁止したければ契約するのもありかもしれないが」
「なんですと!!??まさかそんな理由で契約してくれたって言うわけ!?」
ソロモンの一言に逐一ツッコミを入れるオルメカ。そんな二人を見ていた少年はほんの少し笑ったように見えた。
「…」
少年は考えるようにハート型のパズルをぎゅっと抱き締める。目の前にはギャーギャーと仲の良さげなやり取りをする二人がいる。そんな二人を見守るように異界の神ラーが傍に立っている。
契約だとか召喚魔法と言われればなんだか大事な仰々しい堅いものかと思えるが、見ている感じそうでもなさそうだ。
「…契約…はしないとダメですか?」
「え?」
少年からのその質問にオルメカとソロモンは言い合いを止める。
「契約しないと一緒に居たらダメですか?」
それは思ってもみない申し出だった。
美男子愛好家としてはコレクションに加えられないのは残念ではあるが、旅の仲間に美男子が増えるというのであれば何の問題が無いどころか歓喜の舞でも踊りたいくらいだ。
「全っ然!!!問題ないよ!!」
オルメカは少年に手を差し出す。少年がその手を握り、彼女が握り返す。
「これからよろしくね!!」
とびっきりの笑顔は朝日に照らされ、キラキラと輝いていた。
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