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邂逅逸話 暁のシジル②-1
しおりを挟む沈んでいた太陽が再び登り始める。登りゆく太陽が空を街を明るく照らし出し、街が色を取り戻し始める。
いつも通りの朝が来た。誰もがそう思っただろうその日にそれは起きた。
ドン!!!!!
巨大地震のような揺れと爆音。
その音と揺れに街中が飛び起きた。それは朝が弱く目覚めの悪いオルメカも例外ではなかった。
「のわぁ!!!????」
ガバッと飛び起き、布団を蹴っ飛ばす。強い揺れと爆音に飛び起きたのは横で寝ていたアリスも同じだ。目をパチクリさせ、反射的にオルメカにしがみついていた。
「…な、何が起きたんですか?」
「さ、さぁ、地震?」
部屋の向こう、いや、そこだけではない、宿屋の外も騒がしい。
「私、ちょっと外見てくるわ。アリスはここに居て」
そこに座っているように手で指示し、オルメカはブックボックスを持って部屋の外に出る。廊下に出ると他の宿泊客も部屋から出て来ていた。近くの人に話を聞いてみるが、誰もイマイチ状況がわかっていないようだ。埒が明かないと判断したオルメカは宿屋の外の様子を見に行くことにする。
階段を駆け下り、宿屋の外へ飛び出る。宿屋を飛び出て空を見上げた。
目に飛び込んできた景色にオルメカは驚愕する。
「うっそ…」
灰色と紫色が混ざったような空。うねうねと空を斑模様に飾る黒い雲。街を覆う空の中心から屋根の上ギリギリまで拡がった巨大な赤黒い渦を巻いた穴。その穴の周辺と中には雷がいくつも発生している。
「…世界の歪…?なんで…?」
オルメカはこの現象を知っていたが、街の人々は初めて見る現象だったようでパニック状態だ。
「なんだなんだ!?」
「魔王か!?魔王が実在したのか!?」
「ママー怖いよー!」
「こっちに来なさい!逃げるわよ!」
街中で起こるパニックに街中が混乱しあちこちで逃げ惑う人々が出てくる。
この状況で冷静な対応をしている者がいるとすれば、この空に起こっている現象がどんな者かを知っている人間達…そう、冒険者や異世界商人のような者達だ。
その中の数人は街の人々に説明して回っているようだ。
「…そうだ、ソロモン…!ソロモンは何処に!?」
パニックになっている街中を見回して見るが見当たらない。いつも街のどんな所で寝ているか把握していない上、普段は朝一に起こしに来てくれるので考えた事もなかった。
「ソロモーン!!ソロモンさーーん!!?何処にいるのーーー??」
声を張り上げて呼び掛ける。毎朝起こしに来てくれているのに、街中でこのパニックが起きているのにも関わらず姿が見えない。
それどころか、気配を感じないのだ。
「…ソロモン…」
オルメカはブックボックスから魔導書を取り出し、ページを開く。
「…おいでませ!!…魔を統べる異界の知恵の王!!」
瞬間、魔導書の魔方陣が光ったが、それ以上何も起こらなかった。うんともすんとも言わない。
「…召喚拒否…?いや、これは違う…」
バタンと本を閉じ、そのままアリスが待つ部屋に掛け戻った。
バンッ!と勢いよく部屋の扉が開き、中で窓の外を見ていたアリスは驚き、咄嗟にベッドの影に隠れる。
「アリス!?いないの!?」
バタバタと部屋に入ってきた姿と声は知っている人物のものだ。アリスはベッドの横からひょこっと顔を出した。
「アリス!そこに居たんだね!」
「ごめんなさい…。びっくりして隠れてしまいました」
オルメカはアリスの元に駆け寄り、アリスもベッド横から出て駆け寄って来る。
流れるようにアリスの頭を撫でた。
…びっくりして隠れたとか…可愛すぎるでしょ…?!駆け寄ってくるとか可愛すぎない!?
などと、百面相していてもいつもの冷たい視線が感じられない。こうなると、冷たい視線でもそこに彼がいた証拠でもあるので、ないのが寂しくもある。
「今ね、外に世界の歪が出来てるの。さっきの地震は多分、世界同士がぶつかった衝撃だと思う」
「前に話していた世界の歪ですか?」
「そう。まさかこんな所で出くわすとは思ってなかったんだけどね」
そう言いながらオルメカは戦闘服に着替え始める。
「歪に行くんですか?お兄さんは一緒に行かないですか?」
アリスはオルメカの周りを探すが、そこに彼の姿は見つけられない。
オルメカはキュッと髪を括り、腰にブックボックスを付け替える。荷物を軽くまとめ、
「よしっ!」
準備が出来た、とオルメカは状況の飲み込めていないアリスに向き直る。
キョトンとしているアリス。
「…?」
「えっとね、簡潔に言うと、多分、ソロモンはもう世界の歪の向こうにいるのね」
「え!?ど、どうしてですか?!一人で行っちゃったんですか?」
「んー、自分で行ったのか、歪み発生時に巻き込まれたのかはわかんないけど、召喚に反応が無いの」
「異世界に行ったら召喚出来ないんですか?」
「いやいや、そんなわけないよー。だからまぁ、多分…何かあったんだと思う。何かの理由で魔力干渉でも受けてるのかもしれない」
オルメカの話がいまいち頭に入りきっていないアリスは未だキョトンとしている。だが、世界の歪みが発生している時間は限られている。行ってみるなら今しかない。
オルメカは部屋に転送魔法陣の出口を展開する。
「何をしているんですか?」
「転送魔法陣の出口作ってんの。帰ってこれなくなっちゃうからね」
一度、展開した魔法陣は強く光って消えていった。
「…これで大丈夫なんですか?」
「うん。大丈夫。じゃあ、行こう!」
オルメカはまとめた荷物を持ち、アリスを連れて街の空に発生した世界の歪みの元へ駆け出した。
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