幻想美男子蒐集鑑~夢幻月華の書~

紗吽猫

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邂逅逸話 暁のシジル④-1

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   真っ赤な夕陽が部屋を染める。土や石で出来た壁や柱に囲まれた部屋の中央にある玉座。その後ろには明かり取りの小さな窓があるのが見える。そこから赤い夕陽が差し込む。それから、玉座へと続く部屋の入口から伸びる赤い絨毯。その部屋はまるでさながら一般的に言う王の間の様である。部屋の壁にも装飾がなされている。

   そんな部屋の玉座に座しているのはー…。

「ああ…ようやく会えましたね…」

   玉座に向けて跪くように座るフードの男。その男は感慨に満ちた表情で玉座に座する人物を見上げる。玉座はフードの男がいる位置から階段を上がった上だ。

「一体この日どれだけ待ち侘びた事でしょう。先立った者達もきっと喜んでいることと思いますよー…」

   ここで一旦言葉を区切り、深呼吸してから言葉を続ける。

「…我らが王よ」

   そう、このフードの男が対面していたのは彼に、厳密には彼等にとっての王だ。

「…」

   王は一言も発しはしなかった。だが、フードの男にとっては困ることでは無かった。ただ、そこに王が座していることが重要だった。
   フードの男が王に謁見していると、別の人間が部屋の扉を開ける。

「失礼します」

   フードを被った女だ。フードの男は黒いローブを纏っているが、反対に女は白いフードとローブを纏っている。

「なんだ。要件を言いなさい」

   フード…もといローブの男は徐ろに立ち上がり、ローブの女を窘める。

「はっ!…件の魔術師が、捕えられたようです」

「何??…では、傲慢の女は…」

「はっ…!残念ながら、仕留め損ねたようです」

「…まだ生きていると言うのですね…。ああああああああっ!!忌々しい!!」

   ローブの男は苛立ちを隠せないといった風に声を荒らげてその場で地団駄を踏んだ。
だが、直ぐにハッとしたように王に振り向き、非礼を詫びた。

「失礼しました!我らが王よ…!申し訳ございません!」

   そしてすぐさま、ローブの女に指示を出す。

「人員を増やして構いません!こちらに辿り着く前に傲慢の女を排除なさい!」

「はっ!ただちに!」

   ビシッと敬礼をした後、ローブの女は部屋を出て行った。

「傲慢の女…とは誰の事だ」

   王が座する玉座の方から声がし、ローブの男は振り向く。だが、厳密には王が話したのではない。玉座の後ろに控えていた人物が姿を現した。コツン…とヒールを鳴らす。

「…と、王は申しておりますよ」

   口元を隠す様な布、ヘッドドレスの様に頭を飾る宝石が散りばめられた髪飾りに胸元の開いた踊り子のようなドレス。その上にローブを纏っている女性が立っている。
   その彼女は王の側近のようだ。言葉を発しない王の代わりに彼女が代弁している。

「しかし…問題は傲慢の女もですが、あの小煩いネズミ共も動き回っているようです。王の為にも邪魔者は排除なさい」

「貴女に言われずともわかっています…!」

   指摘され苛立った様にローブの男は側近の女を睨みつけ、王の間を出ていく。
   ローブの男が飛び出して行った扉を見つめながら、側近の女は誰に話すとでもなく言葉をもらす。

「…決して、邪魔はさせません。わたくし達の悲願を…成就させるのです」

   女の横で玉座に座する王と呼ばれた人物はそのこぼれた言葉に反応することなく、ただ虚空を見つめていた。そんな彼の金色の長い髪を、明かり取りの窓から夕陽と共に風が吹き抜け撫ぜていた。




「あああああ忌々しい!」

   そう吐き出す様に声を荒らげたのは先程迄、王の間にいたローブの男だ。ザッザッと足音を立てながら苛立ったように廊下を早歩きで歩いている。

「あの女め…側近だからと調子に乗って…!ああっ!傲慢の女といいあの側近のといい…女は忌々しくていけませんね…!!」

   ずかずかと廊下を歩くローブの男が角を曲がろうとすると反対側から先ほど出ていったローブの女が歩いてきた。

「…何をしてるのですか!?ここで。手筈は整えたのですか?グダグダしている暇は無いのですよ!!わかっているんですか!?」

   ローブの男は苛立ったままローブの女を叱責するように言う。

「はっ…!先ほど第一部隊と第二部隊が出発し、傲慢の女、ネズミ共合わせて始末する手筈です」

   ローブの女はローブの男のヒステリックな様子にも顔色を変えることなく答えた。その態度にローブの男は苛立ちを覚えたが、指示したことはしたようだ。少し冷静になり、深呼吸してから次の指示をする。

「わかりました。ですが、第一、第二部隊が失敗した場合の手筈も整えておきなさい」

「はっ…!」

   ローブの女はビシッと姿勢を正すと一礼をしてから駆け足で来た道を戻る。その後ろ姿を見ながらローブの男は呟いた。

「…頼みますよ。邪魔は…我らの邪魔はさせてはなりません」

   くるっと踵を返し、ローブの男は王の間に方に向かう。男の足音だけが響いた。





ザクザク…。

   土と所々に生えている雑草の上を歩く。
   あれから一体どれくらい歩いただろうか。
   目的地はまだ見えないらしい。

   容赦なく照りつける陽射しに、上がる気温。遠くの方を見れば陽炎が起きているのがわかる。さっきまでの灰色の空が嘘のようだった。

「あっつー…なにこれ…何でこんな晴れたのさ…」

   オルメカとシャアムはまだ涼しげな格好をしているが、メイジーもアリスも長袖なため、とても暑そうに見える。汗が滲んでくる。
   メイジーは旅慣れしているのか長距離歩くことも、この気温もさして気にしている風ではない。が、アリスは顔も赤くなってきていて、足元も覚束無い感じだ。流石に気の毒になってきたオルメカはウンディーネを召喚し、周辺に水を撒く。少しだけ気温が下がったが、代わりに蒸し返してくる。

「うーん…逆効果だったか…」

「そのようね」

   ガックリ肩を落とすオルメカをメイジーがちらりと見る。次にアリスにも目をやる。どう見ても無理をしているのがわかる。熱中症にでもなってしまいそうだ。

「シャアム」

   メイジーは前を歩いているシャアムに声をかけ、振り向いた彼に目線で促す。その目線の先に気づいたシャアムはにかーっと笑い、すたすたとアリスの横まで歩いていき、ひょいっとアリスの小柄な体を持ち上げる。

「ひゃあっ」

   アリスの声がひっくり返る。肩に担がれて面を食らう。

「なんやあんさんめっちゃ軽いやん!?ちゃんと食ってるんか!?」

   シャアムは担ぎ上げたアリスの軽さに驚く。

…ああ、まぁ、その子…最近までご飯とか要らない空間にいたからな…。
   オルメカはシャアムのその反応に苦笑いで返す。

「…それで、一体どこまで歩き続ければいいのかしら?」

   メイジーが呆れたように溜息混じりに言う。それを聞いたシャアムが慌てた様に答える。

「いやいや、ちゃんと場所は聞いてんで!?方向もあってるんやで!?ただ…」

「ただ…?」

   オルメカが聞き返す。

「や、ただな、そろそろのはずやねんけどな…。この辺に街があるはずや」

「街?アジトって街なの?」

「なにゃそうらしいで。なんか王城があるらしい」

   王城…だが、辺りを見渡してもそれらしいものは見えない。それほど規模が大きいのなら何処かに見えそうなものだが…。

「デマじゃないでしょうね」

「não não não!!やーの拷問の腕前はべティも知っとってーよ!?デマなんか掴まされると思うんか!?」

   必死の弁解にもメイジーは白い目でシャアムを見ている。シャアムはというと若干涙目だ。この二人は付き合いも長いわけだし、違和感がないのかも知れないが、今日、出会ったばかりのオルメカとアリスは二人の会話にハテナが浮かぶ。多分、べティとはメイジーのことなのは察しがつくが、シャアムが先程フードの男にしていたのは聴取ではなく拷問だったらしい。手甲鉤のような武器に血がついていたのは…そういうことだったのだ。
   シャアムに担がれているアリスも驚いて顔色が悪くなっている。
   ずっと幻想図書館で暮らしていたアリスにとっては今起こっていること全てが初めての経験だ。

   だが、オルメカには気になることがある。さっきからずっと気になっている。
……シャアム君の口調って…どっかの方言?統一感無くない…?可愛くない…?

   どうにも気になって仕方ない。ここにいる誰よりも体格も背も高い青年でありながらにかーっと笑うのが癖で話し方も特徴的。そして、美男子だ。写真に収めたい衝動に駆られている。

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