11 / 22
タイタンにて
衛生探索Ⅲ〜その先に〜
しおりを挟むこつり...こつりこつりこつり。
二人は氷上を歩く............ファットという男を放っていきながら。
「マーシェル!!! 助けて!! ごめんって!!!」
彼はどうやら、マーシェルをカンカンに怒らせてしまって氷のクレバスに突き落とされたらしい。
彼の宇宙服から異常を検知したせいで、他の2人の服にもアラームが煩くブーブーと鳴きやまない。
「うるさいわね....この音は。 さすがにもう助けてあげたら?」
怒りを足音に表現するマーシェルへ説得しようとするが、さすがに無理があった。
マーシェルは氷の上をどしどしという音に変え歩いて行った。そしてブーッブーッと鳴き止まないアラームの音。
「............帰ったら宇宙船でお菓子あげるわよ」
ルーカスは耳に聞こえるブーブー音がウザくなったのもあり、お菓子で釣ろうとして彼女を甘い誘惑へ陥れた。
すると餌に魚が寄ってきた。マーシェルはその言葉を聞いては即座に
「本当に?! ......分かった、ファットさんを助けるよ......」
彼女はお菓子で釣られるほどの年齢だったかは知らないが、これで探検に集中できる。
ルーカスはこれも必要な嘘だと自分に言い訳して、何も音が聞こえないことをひそかに喜んだ。
マーシェルは黙ったまま、宇宙服に付属していた折り畳み式の棒を取り出しファットに差し出した。
「......はい」
ファットも十分反省はしている。すこし震えてもいるのか......。
ファットが無事にその裂け目から脱出すると、マーシェルへ抱き着くようにして謝罪をした。
まあ、そうなるだろう。クレバスは底なしと言っていいほど奥が深いから。下手したら死んでいたかもしれない。
軽く殺人をしようとしたマーシェルは三人の先頭を行き、本題である鳥のような足跡の先を追った。
それはひだりみぎ、ひだりみぎと。そして外を向くようにして映されていた。
こつこつこつと、何十分も氷上を歩いた彼ら。始めに疲れが出たのはやっぱり彼、ファットだった。
「いつまで歩くのだ? 結構な距離歩いたぞ......」
それとは逆なマーシェルは体力の消費を知らずに、他の二人はヘトヘトでも先をずっと歩いた。
「マーシェル。 それ以上歩くと帰れなくなるわよ......」
ルーカスもファットより体力はあるが、ほぼ限界に達していた。
しかしずうっと歩き続けるマーシェル。すさましい集中力だ。
そしてもう数分歩き続けると、ついに足跡はだんだん消えていった。
二人に追いつくようにして走ってくるとファットが喋った
「消えたな......。この足跡はどういうことだ?」
その後、足跡が消えたことでやる気をなくしたファットは、そのまま帰るそぶりをした。
しかし、それと同時にその足跡が何なのかがはっきりと分かった。
「......これは、何の鳥............?」
マーシェルは初めて目にしたその足跡を付けた鳥をみて、首を傾げた。
その鳥は、七色に輝く羽を持つとともに、嫌みなほど目が大きくて、地球の鳥よりも何倍も巨大な......。
フラットなこの星に輝く、違和感のある鳥。
三人は土星を見たときとはまた違った、どちらかというと謎に包まれる雰囲気で、その七色鳥をじいっと見るのであった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる