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18 良い子 ー浜中幸男ー
しおりを挟む「………………暇だ。」
なんだこのドッキリは?一晩この部屋で過ごしちゃったじゃないか。
そして何も仕掛けてこない。
どうなっているんだ?
食事の中にわさびや、唐辛子を入れてくるとか色々構えていたけど食事は普通に美味しいし、ネタバラシのタレントが出てくることもない。
毎回メイドが食事を運んできて食べ終われば即片付けられる。
ただそれだけ。
スマホも、テレビも、PCもない部屋が暇すぎて早くこのドッキリを終わらせてもらいたい!
軽くノックして「失礼します」とメイドが昼食を運んできた。
イラついた俺はメイドに詰め寄った。
「ちょっと、このドッキリはいつ終わるのかな?いい加減飽きた。家に帰りたいからここから出してくれよ。」
「少々お待ち下さい。」
メイドは平静を保ちながらドアへと逃げて行く。
「待てって!!」
追いかけたが間に合わず目の前で閉じられる。
ドアノブを回そうとするけれど、びくともしない。
「一体なんなんだよっ!! 食事ばっかり運んできたって、この部屋から1歩も出てないから腹も減らねーよ。」
ドアは諦めて窓に向かうがこちらも鍵がかけられて開かない。
窓の景色から推測するとこの部屋は3階にあるみたいだ。
眼下には沢山の木、木、木、木ばっかりで代わり映えのしない景色しかない。
その中をかき分けるようにギリシャ神殿を丸くしたような白い建物が見える。
白い建物の外に沢山の人、まるで白い飴にたかっている蟻のようだ。
一際目立つ服を着ている人物が見える。
あれは、この部屋で見たことある…王子様だ。
あそこでなにをしているんだ?
ん?建物から出てきた人達がこっちを見て手を振っている。
誰に振ってんだろ?
急に窓がガタガタと強風に煽られ割れんばかりに一斉に鳴り出す。
急いで窓から離れると音も風も止んだ。
代わりにガラスを叩く控えめなノックが聞こえる。
「?」
テラスのガラス戸の外に可愛らしい女の子が立っている。
「神子様、中に入れていただいても宜しいでしょうか?」
訂正、この声は男だ。
どうして3階の窓の外にいるのか、不思議だが開けてやりたくても全部に鍵が掛かっている。
「入れてやりたくても、ここは鍵がかかって開かない。」
小さく鍵の開く音がして「失礼します。」とガラス戸を開けて入ってきた。
ゆるくウェーブのかかった黄緑色の髪は逆光で透けてキラキラ光っている。
映画からそのまま出てきたような魔法使いのローブを着て、色白の肌に、袖から除く手は細くて綺麗だ。
「お初にお目にかかります。私、選ばれし12人のうちの一人、魔道士のエイプ・フリーレルと申します。」
「あ…はじめまして浜中幸男と言います。」
俺の足元で跪き可愛らしい笑顔で挨拶をするから俺もつられて笑顔で答えた。
「今夜『聖なる乙女の儀式』を受けていただくため私が支度に参りました。」
「儀式…?…何だそれ?それしないと帰れないのか?」
やっとドッキリらしい事になってきた。俺はドッキリに引っかかって早く帰ろうと相手の話に乗ることにした。
「良いよ。儀式をすればいいんだな。」
「それでは…魅了。」
エイプの手には小さな杖が握られていて、そこからなにかピンク色にキラキラ光る魔法みたいなものが俺を包んだ。
なんだ、頭がクラクラする。
「なっ、なに、なにしたお前。」
「おや、お体のことを考えて弱い魔法にしたのですが、どうやら弱い魔法では効かないのですね。さすが神子様魔法耐性がお有りなんですね。それでは魅了最上位魔法『愛の奴隷』」
「うわあっ」
頭の中が揺れて、体が………足に力が入らない。倒れるーー
俺の体をガシッと受け止めたのは、あの色白の細い腕だった。
「大丈夫ですか?さあ、立って下さい。今夜の大事な儀式のためにお体を清めに行きましょう。」
エイプの声を聞くと急に手足に力が入る。
「はい、エイプ💗大丈夫です。立てます。今夜の大事な儀式のためにお体を清めに行きましょう。」
(何だこの気色悪い声は俺の声か?!?!)
「良い子ですね。では行きましょう。」
「はい💗良い子です💗」
(うわあああ、まじで何だこれ?!催眠術かなにかかよ。こんなに頭がはっきりしているのに体が言うことをきかない。)
エイプに促されるまま缶詰になっていた部屋から連れ出された。
部屋からでられたのは嬉しいけれど、こんなおかしな状態でどこに連れて行かれるんだ?!
怖い、怖い、儀式って何すんだ?マジで怖い。誰か助けてっ!!
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