余白怪談

蒼琉璃

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第四話 暗闇を恐れる

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「えー! なんでこの部屋、こんなに暗いの? 電気つけといてよ。俺、暗いの怖いんだよ」

 情けない声を出してフロアに入ってきたのは、塩田さんだった。
 残業時間をかなりオーバーし、こんな泣き言を言いながら事務棟に入ってくるのが、いつもの挨拶だ。
 塩田さんは恰幅が良く、たぬきのような顔立ちをしたおじさんで、配送ドライバーをしている。
 お客様から注文を受け、それをまとめて事務棟にいる私たちに持ってくるのが、一日の終わりだ。

「ああ、そっちのフロアは全員帰っちゃったから消しているんですよ。節電です、節電」

 私は思わず笑ってしまった。
 縦にも横にも大きいおじさんが、入り口付近のフロアが暗いというだけで怖がっているのだから、おもしろい。

「塩田さん、案外怖がりなんですねぇ」
「いや、俺さぁ。配送で夜中走るだろ」

 私の会社で製造している製品は、夜中に配送ドライバーが荷物を積み込み、早朝にかけて各店舗に配達する。
 納品場所は、会社や病院、学校やスーパーなど、様々だ。都会を走ることもあれば、田舎の夜道を通ることもある。
 稀に助っ人がつくこともあるが、基本はひとり体制で荷下ろしをしていた。

「……俺たちドライバーは全員、お店のスペアキーをもらうんだ。いつも裏口から納品するんだけど、奥で何かがぶら下がっているのが見えちゃってさ。なんだろうと思って明かりをつけたら、店長がそこで首を括ってたんだ。そのあと警察呼んだり、大変だったよ。実はその店、経営に困っていたみたいで、支払いも滞りだしていた。あそこは倒産するかもしれないって、別会社のドライバーから聞いていたんだけどねぇ。店の人は俺があの時間に来ると分かっていて、首を括ったんだよ。……あれから俺は暗い場所が苦手になったんだ。怖いから部屋の電気もつけて寝る。それに、俺はお化けが見えちゃうからなぁ」

 塩田さんはそういうと、フロアの奥にある、真っ暗になった給湯スペースを見つめた。
 ここにも、時々男の人の霊が立っているよ、とぼそりとつぶやく。
 私の職場は築年数が古く、このフロアが事務棟になる前は、男子寮として利用されていた。
 その当時は地方や離島から出てくる新入社員が多く、気軽に親元に帰れない環境のもとで、上司からのパワハラがあったようだ。

 それが原因で精神を病み自死した人がいる。
 GW明けに実家から寮に戻り、そのまま首吊りをした。
 塩田さんが時々見る男の霊は、彼だろうか。
 残念ながら、女子寮でも遠距離恋愛の末に失恋し自死した子がいる。噂によるとその霊が、女子寮の四階と五階の廊下をあてもなく徘徊している姿を見かけるんだとか。

「ともかく、電気はつけておいてね! 怖いから」

 そう言うと、塩田さんはさっさと足早に事務棟から出ていった。
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みんなの感想(1件)

橘しづき
2026.03.03 橘しづき

第3話が好き!
読みやすくてじわっとくる怖さがいい…
隙間時間に最高!

2026.03.03 蒼琉璃

わー!しづきさん、ありがとうございます(*´ェ`*)
今回は読みやすくじわっと怖いを目指しました❤️
3話のあれは当時すごく怖かったです…
感想ありがとうございます!

解除

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