27 / 36
漆、冥府の君主―其の壱―
「――――闇落ち?」
八種の言葉に、須佐之男は眉を顰めた。若菜を晴明から、寝取るつもりでいる彼にとって、邪魔者がどうなろうと知った事ではない。
だが、母親の言葉で闇落ちしてしまったという事に、須佐之男は言いしれぬ不快感を覚えた。
「なーに、須佐之男ちゃん。そいつの事が気になるわけ?」
「別に」
初めて八種の言葉に反応を示した須佐之男に興味を持ったのか、彼を振り返ると、探るように見つめる。
一見、年端も行かない美少女のような容姿をした八種だが、彼の体と奇抜な服装からして、深淵の闇のような禍々しい気配が漂っている。お互い、気に食わない者同士で、睨み合いを続けた。
「クソ生意気なその態度、ベキベキにへし折ってやりてぇわ。ギャン泣きして、許して下さいって泣くまで拷問してぇ♡ あーー、ちなみにさぁ、お前の図体でけぇから、お義兄ちゃんなんて呼んだけど、実質天照大神やお前なんかより、俺のほうが早く生まれてんだわ。馬鹿は馬鹿なりに、神話復習しといてね」
「無駄口を叩くな。さっさと俺を母上の元へ案内しろ」
八種は須佐之男に凄むと、中指を立てた。
そして、言いたい事だけを言ってソリから降りる。荒神と言われた須佐之男は、いつでもこの生意気な義兄の体を、引き裂いてやろうという気持ちを胸に秘めつつ、冥宮に降り立った。
八百万の神々を産んだ伊邪那美は、黄泉国へ下ったのち、冥府の君主となって君臨した。
その権力を象徴するかのように冷たく薄暗い豪華な城には、神の役目を終えた者、善人として死んだ者が、自分達に与えられた仕事を担い、生活している。
冥宮の奥に進みにつれ、冥府の王である伊邪那美の力が強くなる。その証に、黄泉国にしか生息しない、青白く発光する彼岸花が城の中で数多く咲き乱れていた。
そして地下深く潜ると、そこには一際大きい空間が広がり、そこには高天原と同じく社殿が建っていた。
「――――ママ、約束通り須佐之男ちゃんを連れて来たよ」
「八種、苦労を掛けたな。私はこの時が来るのを指折り数えて待っていた。会いたかった、我が息子よ」
社の奥から聞こえてきたのは、凛とした女性の声だった。
現れたのは、足元まで伸びた薄い藍色の髪を垂らした、氷の美貌を持つ女性だった。白と紫の神御衣を身に着け、袴から見える裸足の足の爪は黒く色香が漂う。
彼女は冥府の王としての威厳と、それと同時に、女としての艶やかさを兼ね備えている。
母に会う事を待ち望んでいた須佐之男は、今直ぐにでも駆け寄り、母との再会を喜んで、縋りつきたい気持ちで一杯だった。
しかし、その眼差しには、母と慕う須佐之男を、突き放すような冷たい印象がある。
「――――母上、お会いしたかった」
「私もだ、須佐之男。さぁ、母の元においでなさい」
ふと、その表情が一瞬にして消え、両手を広げる彼女の顔は、母性に満ち溢れている。伊邪那美の、氷のような冷たい視線は、須佐之男の気の所為だったのだろうか。
退屈そうにする八種をよそに、須佐之男は彼女の元まで来ると、うやうやしく跪く。その様子に満足したのか、彼女は息子の両頬を包み込んでやる。
「俺は、幼い頃から母上の事ばかり考えておりました。何度、黄泉国を訪れようと思い、父上にきつく叱られた事か」
母の温もりを感じ、須佐之男の頬に自然と涙が零れた。その様子を伊邪那美はじっと見つめ、優しく微笑むと抱きしめる。そんな親子のお涙頂戴の再会を、八種は白けた目で見つめていた。
「存じておる。伊邪那岐の命を破って、私の元へ来ようとした事も。お前が母を慕う気持ちは、黄泉国にもきちんと届いていますよ」
「母上……。取り乱してしまい、申し訳ありません。それで、文にあった用とはなんでしょう」
須佐之男は涙を拭くと、真剣な眼差しで母を見上げた。彼女は妖艶に微笑むと、優しく須佐之男の頬を撫でながら言った。
「最近の天魔や妖魔達は、聞き分けが良くてな。天魔も妖魔も、人を殺さぬようになってしまった。それでは、黄泉国の力は脆弱になり、基盤が脆くなるのだ。運命の死が滞り始めてしまうと、私の計画が上手く進まない」
人は必ず死を迎える。
伊邪那美の話しぶりからすると、今は彼女が一日に決めたという、黄泉国の死者の数を、満たす事が出来なくなっているのだろうか。
母の計画は分からないが、彼女には死者の魂を増やし、黄泉国の力を安定させたいという気持ちがあるようだ。
「飢饉や戦を待つのは、あまりにも人間任せ。だから、穏健派の第六天魔王には退位してもらわなくてはな」
「――――母上は以前のように、天魔や妖魔が娑婆世界で、人間を脅かす脅威の存在でいる事を、望んでおられるのか」
伊邪那美が頷くと、八種はポケットに入れた飴玉を舐め、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。八種にとって、人が死ぬという事は、彼の玩具が増えると考えているようだ。
「天魔界には、相応しい者を第六天魔王にしようと思う」
「相応しい者ですか」
彼女が視線を向けると、反応するように脇から、銀髪の長い髪を伸ばした長身の男が表れた。
「私のお気に入りの男だ。この男なら、生温いやり方などせず、上手く天魔と妖魔を導き、黄泉国に魂を供給する事が出来るだろう」
その男の姿は、容姿端麗で一見すると女のようにも見えるが、瞳は汚泥のように暗く、退廃的で妙に艶めかしい。
「――――土御門光明。いや、芦屋道満と呼ばれる方が、好きか? さぁ、遥々黄泉国に訪れた我が息子に、歓迎の挨拶を」
「ふふふ……我が主よ。道満の名は、過去に捨て去った名前です。どうか私の事は光明とお呼びください。これはこれは須佐之男様。こうしてお会い出来るとは、至極光栄に存じます」
紫色の、狩衣に似た服を纏う光明の頬を、伊邪那美が愛しそうに撫でる。須佐之男の父である、伊邪那岐と最悪な形で別離をしてしまった母が、黄泉国で、お気に入りの愛人を作ってもおかしくない。
そう思うものの、息子としては複雑な思いだ。
「母上、その男を次代の第六天魔王として即位させたい、という事ですか。そのために俺の力を借りたいと」
「そうだ。さすが我が息子、物分かりが良い」
どう見てもこの光明、元は人間の死者のようだが、黄泉国に下り伊邪那美によって力を授かったのか、半神と似た神通力を感じる。
確かに、天界に牙を向けた朔とは異なり、今の天魔界を統べる穏健派の第六天魔王と張り合うならば、実力的には申し分がない、霊気を漂わせていた。
「しかし、天魔どもは納得するでしょうか」
「須佐之男様、私は生前より天魔の事を熟知しております。それに、死んだ天魔達の声を聞けば、今の第六天魔王の評価は、二分しているようですね。恐らく、人間の摂取を制限されているからでしょう。魔王を、邪魔だと感じる者がいると言う事です」
「…………」
光明は妖艶な微笑を浮かべる。
この男から滲み出る、蛇が纏わりつくような不快感は、言葉では形容し難い。
須佐之男はこの時ばかりは事を荒立てず、感情を押し殺した。八種は相変わらず冷めた表情で、三人の会話を無言のまま見守っている。
「それだけではない。須佐之男、私はお前に、根の国を統治して貰おうと思っている。そうすればいつでも、母はお前に会えるのだから」
「根の国……ですか」
「お前は黄泉平坂を通り、この黄泉国にやってきただろう? その隣にある異界が、根の国だ。国津神が住まう死者の国を、須佐之男に与えたい。母と共にこの黄泉国で、仲睦まじく暮らそう」
高天原に住む、八百万の神々は天津神と呼ばれる。彼らは死ぬと、神々の母である伊邪那美を求めて、黄泉国へと向かう。
それとは別に、元々地上に住んでいた古き土着の神々を、国津神と呼んでいた。どうやら死者の国はここでも二分しており、高天原の天津神が行き着く先は黄泉国で、国津神が行き着く場所を根の国と呼び、どちらも伊邪那美が統治しているようだ。
高天原を追われた、元天津神の須佐之男に、根の国を譲り渡すという事か。
「母上の願いならば、俺はなんでもするつもりです。だが、少し時間を頂けないだろうか」
母である伊邪那美の事は、何より大事に思っている。
だが、人間の死者を増やすため、第六天魔王の座に、この得体の知れない光明という男をすげ替えて良いものか。それこそ、天帝が嫌う命の均等を破って、宇宙の逆鱗に触れるのではないかと思った。
須佐之男も、高天原では傍若無人な振る舞いで、恐れられている存在だが、人を護る神である。人間のために剣を奮った事もある彼にとって、納得出来ない部分があった。
天魔界と天界が敵対関係もなくなった今、この平和を自らの手で壊すという選択は、かなり重い物である。
「そうか。時間は十分にある。黄泉国を楽しむが良い」
伊邪那美は、須佐之男の答えに不機嫌になる事もなく、頷いた。自分を慕う息子の判断は、分かりきっているかのようだった。
「ところで母上。一ヶ月ほど前、この黄泉国に、半神が降り立ちませんでしたか」
「ふふ、よく知っているな。私としたことが、生者が紛れているとは気付かなかったのだ。光明のおかげでようやく、ネズミが罠にかかった」
須佐之男が晴明について尋ねると、光明は冷酷で醜悪な微笑みを浮かべ、答えた。
「ふふふ……この私が、あの忌々しい安倍晴明の顔を忘れるはずがございません。宿敵ですからね。どうやら、我々の計画に気付き、死者を装って犬のように嗅ぎ回っていたようです。あの男に聞きたいことは、個人的に山ほどありますからね。口を割らないので、犬は犬らしく繋いでありますよ」
「聞きたいことは山ほどある」と言った光明の表情は、なぜか恍惚としていた。
「――――安倍晴明。死者と縁の深い男。誰の命令でここへ来たのか、頑なに口を割らず、私に従おうとしない。だが、あの美しい男は心の中に闇を飼っているようでな。私の手にかかれば、簡単に堕ちていく」
伊邪那美はそう言うと、妖艶に微笑んだ。
八種の言葉に、須佐之男は眉を顰めた。若菜を晴明から、寝取るつもりでいる彼にとって、邪魔者がどうなろうと知った事ではない。
だが、母親の言葉で闇落ちしてしまったという事に、須佐之男は言いしれぬ不快感を覚えた。
「なーに、須佐之男ちゃん。そいつの事が気になるわけ?」
「別に」
初めて八種の言葉に反応を示した須佐之男に興味を持ったのか、彼を振り返ると、探るように見つめる。
一見、年端も行かない美少女のような容姿をした八種だが、彼の体と奇抜な服装からして、深淵の闇のような禍々しい気配が漂っている。お互い、気に食わない者同士で、睨み合いを続けた。
「クソ生意気なその態度、ベキベキにへし折ってやりてぇわ。ギャン泣きして、許して下さいって泣くまで拷問してぇ♡ あーー、ちなみにさぁ、お前の図体でけぇから、お義兄ちゃんなんて呼んだけど、実質天照大神やお前なんかより、俺のほうが早く生まれてんだわ。馬鹿は馬鹿なりに、神話復習しといてね」
「無駄口を叩くな。さっさと俺を母上の元へ案内しろ」
八種は須佐之男に凄むと、中指を立てた。
そして、言いたい事だけを言ってソリから降りる。荒神と言われた須佐之男は、いつでもこの生意気な義兄の体を、引き裂いてやろうという気持ちを胸に秘めつつ、冥宮に降り立った。
八百万の神々を産んだ伊邪那美は、黄泉国へ下ったのち、冥府の君主となって君臨した。
その権力を象徴するかのように冷たく薄暗い豪華な城には、神の役目を終えた者、善人として死んだ者が、自分達に与えられた仕事を担い、生活している。
冥宮の奥に進みにつれ、冥府の王である伊邪那美の力が強くなる。その証に、黄泉国にしか生息しない、青白く発光する彼岸花が城の中で数多く咲き乱れていた。
そして地下深く潜ると、そこには一際大きい空間が広がり、そこには高天原と同じく社殿が建っていた。
「――――ママ、約束通り須佐之男ちゃんを連れて来たよ」
「八種、苦労を掛けたな。私はこの時が来るのを指折り数えて待っていた。会いたかった、我が息子よ」
社の奥から聞こえてきたのは、凛とした女性の声だった。
現れたのは、足元まで伸びた薄い藍色の髪を垂らした、氷の美貌を持つ女性だった。白と紫の神御衣を身に着け、袴から見える裸足の足の爪は黒く色香が漂う。
彼女は冥府の王としての威厳と、それと同時に、女としての艶やかさを兼ね備えている。
母に会う事を待ち望んでいた須佐之男は、今直ぐにでも駆け寄り、母との再会を喜んで、縋りつきたい気持ちで一杯だった。
しかし、その眼差しには、母と慕う須佐之男を、突き放すような冷たい印象がある。
「――――母上、お会いしたかった」
「私もだ、須佐之男。さぁ、母の元においでなさい」
ふと、その表情が一瞬にして消え、両手を広げる彼女の顔は、母性に満ち溢れている。伊邪那美の、氷のような冷たい視線は、須佐之男の気の所為だったのだろうか。
退屈そうにする八種をよそに、須佐之男は彼女の元まで来ると、うやうやしく跪く。その様子に満足したのか、彼女は息子の両頬を包み込んでやる。
「俺は、幼い頃から母上の事ばかり考えておりました。何度、黄泉国を訪れようと思い、父上にきつく叱られた事か」
母の温もりを感じ、須佐之男の頬に自然と涙が零れた。その様子を伊邪那美はじっと見つめ、優しく微笑むと抱きしめる。そんな親子のお涙頂戴の再会を、八種は白けた目で見つめていた。
「存じておる。伊邪那岐の命を破って、私の元へ来ようとした事も。お前が母を慕う気持ちは、黄泉国にもきちんと届いていますよ」
「母上……。取り乱してしまい、申し訳ありません。それで、文にあった用とはなんでしょう」
須佐之男は涙を拭くと、真剣な眼差しで母を見上げた。彼女は妖艶に微笑むと、優しく須佐之男の頬を撫でながら言った。
「最近の天魔や妖魔達は、聞き分けが良くてな。天魔も妖魔も、人を殺さぬようになってしまった。それでは、黄泉国の力は脆弱になり、基盤が脆くなるのだ。運命の死が滞り始めてしまうと、私の計画が上手く進まない」
人は必ず死を迎える。
伊邪那美の話しぶりからすると、今は彼女が一日に決めたという、黄泉国の死者の数を、満たす事が出来なくなっているのだろうか。
母の計画は分からないが、彼女には死者の魂を増やし、黄泉国の力を安定させたいという気持ちがあるようだ。
「飢饉や戦を待つのは、あまりにも人間任せ。だから、穏健派の第六天魔王には退位してもらわなくてはな」
「――――母上は以前のように、天魔や妖魔が娑婆世界で、人間を脅かす脅威の存在でいる事を、望んでおられるのか」
伊邪那美が頷くと、八種はポケットに入れた飴玉を舐め、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。八種にとって、人が死ぬという事は、彼の玩具が増えると考えているようだ。
「天魔界には、相応しい者を第六天魔王にしようと思う」
「相応しい者ですか」
彼女が視線を向けると、反応するように脇から、銀髪の長い髪を伸ばした長身の男が表れた。
「私のお気に入りの男だ。この男なら、生温いやり方などせず、上手く天魔と妖魔を導き、黄泉国に魂を供給する事が出来るだろう」
その男の姿は、容姿端麗で一見すると女のようにも見えるが、瞳は汚泥のように暗く、退廃的で妙に艶めかしい。
「――――土御門光明。いや、芦屋道満と呼ばれる方が、好きか? さぁ、遥々黄泉国に訪れた我が息子に、歓迎の挨拶を」
「ふふふ……我が主よ。道満の名は、過去に捨て去った名前です。どうか私の事は光明とお呼びください。これはこれは須佐之男様。こうしてお会い出来るとは、至極光栄に存じます」
紫色の、狩衣に似た服を纏う光明の頬を、伊邪那美が愛しそうに撫でる。須佐之男の父である、伊邪那岐と最悪な形で別離をしてしまった母が、黄泉国で、お気に入りの愛人を作ってもおかしくない。
そう思うものの、息子としては複雑な思いだ。
「母上、その男を次代の第六天魔王として即位させたい、という事ですか。そのために俺の力を借りたいと」
「そうだ。さすが我が息子、物分かりが良い」
どう見てもこの光明、元は人間の死者のようだが、黄泉国に下り伊邪那美によって力を授かったのか、半神と似た神通力を感じる。
確かに、天界に牙を向けた朔とは異なり、今の天魔界を統べる穏健派の第六天魔王と張り合うならば、実力的には申し分がない、霊気を漂わせていた。
「しかし、天魔どもは納得するでしょうか」
「須佐之男様、私は生前より天魔の事を熟知しております。それに、死んだ天魔達の声を聞けば、今の第六天魔王の評価は、二分しているようですね。恐らく、人間の摂取を制限されているからでしょう。魔王を、邪魔だと感じる者がいると言う事です」
「…………」
光明は妖艶な微笑を浮かべる。
この男から滲み出る、蛇が纏わりつくような不快感は、言葉では形容し難い。
須佐之男はこの時ばかりは事を荒立てず、感情を押し殺した。八種は相変わらず冷めた表情で、三人の会話を無言のまま見守っている。
「それだけではない。須佐之男、私はお前に、根の国を統治して貰おうと思っている。そうすればいつでも、母はお前に会えるのだから」
「根の国……ですか」
「お前は黄泉平坂を通り、この黄泉国にやってきただろう? その隣にある異界が、根の国だ。国津神が住まう死者の国を、須佐之男に与えたい。母と共にこの黄泉国で、仲睦まじく暮らそう」
高天原に住む、八百万の神々は天津神と呼ばれる。彼らは死ぬと、神々の母である伊邪那美を求めて、黄泉国へと向かう。
それとは別に、元々地上に住んでいた古き土着の神々を、国津神と呼んでいた。どうやら死者の国はここでも二分しており、高天原の天津神が行き着く先は黄泉国で、国津神が行き着く場所を根の国と呼び、どちらも伊邪那美が統治しているようだ。
高天原を追われた、元天津神の須佐之男に、根の国を譲り渡すという事か。
「母上の願いならば、俺はなんでもするつもりです。だが、少し時間を頂けないだろうか」
母である伊邪那美の事は、何より大事に思っている。
だが、人間の死者を増やすため、第六天魔王の座に、この得体の知れない光明という男をすげ替えて良いものか。それこそ、天帝が嫌う命の均等を破って、宇宙の逆鱗に触れるのではないかと思った。
須佐之男も、高天原では傍若無人な振る舞いで、恐れられている存在だが、人を護る神である。人間のために剣を奮った事もある彼にとって、納得出来ない部分があった。
天魔界と天界が敵対関係もなくなった今、この平和を自らの手で壊すという選択は、かなり重い物である。
「そうか。時間は十分にある。黄泉国を楽しむが良い」
伊邪那美は、須佐之男の答えに不機嫌になる事もなく、頷いた。自分を慕う息子の判断は、分かりきっているかのようだった。
「ところで母上。一ヶ月ほど前、この黄泉国に、半神が降り立ちませんでしたか」
「ふふ、よく知っているな。私としたことが、生者が紛れているとは気付かなかったのだ。光明のおかげでようやく、ネズミが罠にかかった」
須佐之男が晴明について尋ねると、光明は冷酷で醜悪な微笑みを浮かべ、答えた。
「ふふふ……この私が、あの忌々しい安倍晴明の顔を忘れるはずがございません。宿敵ですからね。どうやら、我々の計画に気付き、死者を装って犬のように嗅ぎ回っていたようです。あの男に聞きたいことは、個人的に山ほどありますからね。口を割らないので、犬は犬らしく繋いでありますよ」
「聞きたいことは山ほどある」と言った光明の表情は、なぜか恍惚としていた。
「――――安倍晴明。死者と縁の深い男。誰の命令でここへ来たのか、頑なに口を割らず、私に従おうとしない。だが、あの美しい男は心の中に闇を飼っているようでな。私の手にかかれば、簡単に堕ちていく」
伊邪那美はそう言うと、妖艶に微笑んだ。
あなたにおすすめの小説
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。