【R18】桃源郷で聖獣と霊獣に溺愛されています

蒼琉璃

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桃源郷の聖獣たち③

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 羅刹鳥も縊鬼も『死』から生まれる魔物だ。なにか不吉な事の前触れだろうか、この北のくには気候も良く豊かで霊獣達も幸せに暮らしている。
 そんな不気味な兆候があるなんて、と不安になって考え込んでいると白虎帝に茶菓子を出すと言う大事な役目を忘れそうになり、鳴麗は一歩出遅れた。
 慌てた様子で鳴麗は、揚げ菓子や饅頭まんじゅうなどを乗せた六角の皿を、白虎の斜め横から丁寧に置く。
 その様子をちらりと視界の端に見た白虎が楽しげに鼻で笑った。
 さきほどの事もあり頭を下げ、すみやかにその場を去ろうとした鳴麗の手首を掴むと引き寄せられ、耳元で囁かれた。

「黒龍族の雌はどの霊獣より手際が良く賢い。だからこそ玄武の元で働けるのだ。だが、お前はどうやら本当にノロマのようだな、鳴麗よ」
「も、申し訳ありません。白虎様……さ、先程のお話が気になって故郷を思っておりました。魔物なんて恐ろしくて……見た事も無いのです」
「ふぅん……。それでボッーと突っ立ていたのか。そんなことを、こんな時にこの俺にバカ正直に答えるのはお前だけだぞ。――――おかしな雌だな」

 白虎に手首を捕まれ、何やら耳打ちされている様子を周囲はハラハラとして見守っていた。
 鳴麗の不手際が彼の機嫌を損ねて、怒りを買ってしまったならば玄天上帝の元で働く事はおろか、荒くれ者の白虎に龍の尻尾を切り落とされてしまうかも知れない。
 どう反応していいか戸惑っている鳴麗の耳元に唇を寄せると、白虎帝は言う。

「月が満ちて、お前に印が現れたらお前をおんなにしてやる」
「…………? はい」

 鳴麗はその言葉の意味を理解できず不思議そうに白虎帝を見つめきょとんとした。何も知らないような鳴麗の反応に思わず白虎帝は吹き出す。ようやく白虎帝に手首を離された鳴麗は頭の中で疑問符が幾つも現れ、赤面しながらおずおずと下がっていった。
 ――――なにかの謎掛けなのだろうか?
 諌めるように、玄武が咳払いするとまた二人の会話が始まった。
 新人の自分を意地の悪い白虎帝がからかったのだろうが、あの薄い氷のような青い瞳の奥は鳴麗が知らないような熱を宿していて顔が熱くなる。
 よく分からない事は義兄の龍月に聞けば良いと鳴麗は頭を振って、ひとまず考えるのを止めると、初めての大きな仕事が終わった安堵感に胸を撫で下ろした。

✤✤✤

 同僚の黒龍族の友人や目上の人に、白虎帝に何を言われたのかと興味津々で話しかけられたが、何となく彼らに言うのははばかられて、うやむやに言葉を濁した。
 黒龍族の雌の中には、武神の白虎帝に憧れを抱いている者も多い。唯一の凶性を持つ彼の第一印象は、鳴麗の尻尾が丸くなるほど怖い顔をしていたが、高圧的なものの悪い聖獣ひとような印象は受けなかった。
 北の城壁に護られた玄天上帝の宮廷、そして同じく厚い壁に護られたこの城郭都市じょうかくとしである香安こうあんの街は活気に満ちている。
 武陵桃源は、天帝がおわす霊峰を中央として、それを囲むかのように、東西南北を四神の聖獣帝がそれぞれくにを統治していた。
 霊峰に住む応龍おうりゅうつがいが生むと言われる、空を駆ける天馬達に乗れば遠く離れた國にも、数十分で行き来が出来てしまうので、それぞれ四神である聖獣帝に仕える役人もそれ以外の霊獣も、各々おのおの好きな土地に移住していた。
 ようやく成獣になり、親元を離れた鳴麗は、香安の宮廷に近い場所に邸を建てた龍月の邸に転がり込んでいた。
 義兄の側で生活すれば両親が安心するのもあるが、龍月が義妹が一人暮らしをする事に難色を示していた事も理由にある。

「龍月兄さんもう帰ってるかな、あんなに資料の整理を任されるとは思わなかったよ~~! お腹減った~~」

 新人の鳴麗は、何かにつけて目上の女官に仕事を任されてしまう。
 特に今日は彼女の機嫌が悪く、勤務二日目にしてこんな洗礼を受けるとは思わなかった。しかし心当たりはありすぎるほどなので文句は言えない。
 この時間ならば、もうとっくに龍月は邸に帰っているだろうと、今日の食事当番である鳴麗はあわてて家路を急いだ。
 赤い提灯がぶら下がる門を潜ると、ハスの花が咲く、小さな橋を渡って玄関まで行くと扉を開いた。
 もうすでに食事を先に済ませてしまったのか、食堂や居間には義兄の姿は無く、寝室か書斎にいるのだろうかと思い、鳴麗は首を傾げながら廊下を歩いていると書斎の扉が開いて、見知った顔が出てきた。

「あっ、カルマ……来てたの?」
「……っっ、鳴麗さんか。びっくりした」

 カルマと呼ばれた華奢な霊獣が、服を整えながらバツの悪そうな表情で鳴麗を見下ろした。水狼と同じく、ラァン族の流れを組む一族でゴウ族で、霊獣達の中では非常に不憫ふびんな扱いを受ける。
 身体的や霊獣として能力が劣る、ラァンになりそこねた彼らは生まれた瞬間、またはその兆候が見て取れると、ゴウとして追われてしまい、行き着く先は貧民街で阿漕あこぎな商売をするか、都合の良い妓女ぎじょのような職につくしかない。
 橙色だいだいいろの髪に耳と尻尾が生えている。青年のように見えるが、カルマには性別が無く生殖が出来ない。
 雄としての生殖器もなければ、雌としてのなだらかな曲線を描く肉体も乳房もない。
 しかし、蝶よ花よと育てられた鳴麗にとって仄暗い世界の話など知るはずもなく、服を直しながら現れたカルマに不思議そうに首を傾げていた。
 彼女にとって狗族を見るのはカルマが初めてで、接点がないぶん、世間の霊獣達が眉をひそめるような存在だとは思いもしなかった。

「うん、ちょっと今日は遅くなっちゃって。私がご飯作る番だったんだけど、もう食べた? 食べてないなら龍月兄さんと一緒に食べない?」
「いや、俺はもう他で食べたから。次の仕事があるからさ。じゃあ、お勤め頑張って」

 澄んだ瞳で見上げられると、カルマはバツが悪そうに目線を反らした。自分の事を龍月の恋人か何かのように勘違いしているような眼差しで見つめられるので、居心地が悪い。
 義妹として世話を焼こうとする鳴麗の頭を優しく撫でてやるとカルマは邸を出ていった。
 不満そうに口を尖らせる鳴麗に、背後から声をかけられる。

「鳴麗、カルマに世話を焼く必要はない。長居されても困る。私もあれも暇じゃないからな」

 長い黒髪をかきあげ、服を整えるように出てきた義兄に鳴麗は少し頬を染めるように目線を反らした。
 共に育った龍月も、別の卵から生まれているせいか成獣おとなになったせいなのか分からないが、時々雌よりも色香が漂う瞬間があってドギマギしてしまう。

「う、うん。あの、龍月兄さん……遅くなっちゃったけどご飯食べちゃった?」
「ああ。お前の分も用意している」
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