【R18】桃源郷で聖獣と霊獣に溺愛されています

蒼琉璃

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【龍月編】

口付けの痕は誰のもの

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★これまでもあらすじ★
物語は共通ルート、武陵桃源の集いで白虎様に迫られた直後からスタートします。

✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤

 ――――とんでもない事になってしまった。
 『月の印』の衝動を抑えられず、白虎帝の愛撫に身を任せて龍月に教えられたあの感覚に達してしまった。
 しかも、その最中に意図せず上司である玄天上帝様に助けらるような形になったのだ。
 なんという失態だろう、明日からどんな顔をして宮廷に出向けば良いのだろうと鳴麗は赤面し、パニックになっていた。

「ぎやぁぁ!! 私のバカッ……あ、アレはお家で処理しなさいって龍月兄さんに言われてたのに、だって白虎帝様があんな、あんなっっ」

 ブンブン尻尾を振りながら小声で叫ぶと急いで水狼や同期の友人たちがいる会場へ戻るために小走りで廊下を駆け抜けた。
 急いで扉を開けた瞬間に、誰かの胸板にぶつかって鳴麗は悲鳴をあげる。

「ぶはっ、ごめんな……っ、ろ、龍月ロンユエ兄さん、ど、ど、どうしてここに?」
「っ……鳴麗、大丈夫か? 白虎帝様に抱えられながら会場を出たと聞いた。お前のことだから飲みすぎたのではないかと心配になったのだ」

 抱き止めてくれたのは、義兄の龍月だった。心配そうな表情で鳴麗を見下ろし息を切らしている。昔から過保護かほごな所がある兄だったが、どこを見渡しても義妹の姿が見えなくなった事を心配したのだろう。
 まさか、白虎帝に『月の印』の症状を鎮めて貰っていたなんて家族に言えるはずもない。
 いや、家族だからというより、初めて『月の印』の衝動を、龍月の手で鎮めて貰ってからこれまでになく義兄を雄として意識しているからだ。
 龍月にとってあの時の行為は、苦しむ義妹を助けるための応急処置おうきゅうしょちにしか過ぎないかも知れないが、鳴麗にとって初めて成獣おとなの階段を一歩登った出来事だった。

「う、うん。一気飲みしちゃったからクラクラ来てそれで」
「――――鳴麗。この痕はどうしたんだ?」
「えっ……?」

 ふと龍月が鳴麗の首筋を指先でなぞると鋭い視線でそこを見つめた。いつもの優しい兄とは違う、怒りを含んだような眼差しに鳴麗な耳をペタリとへならせた。
 何のことだろう、虫にでも刺されたのだろうかと不思議そうにしていると、龍月は溜息をついて義妹の両肩に手を置いた。

「鳴麗………。もし、お前が望まない形で白虎帝様に酷い目に合わされたのならば、玄武様を通じて抗議をする。四神とはいえ、私は許すことは出来ない」
「えっ、ら、乱暴なことをされたわけじゃないよ。その、えと、酔っ払って『月の印』の症状が出て来て尻尾を撫でて貰ってそれで落ち着いたから」

 鳴麗はビクビク赤面しながら素直に答えた。龍月はピクリと眉を上げたものの、四神の権威けんいを使って義妹と無理矢理交尾をしたわけではないと知ると安堵する。
 ただ、幼獣から成獣になったばかりのむすめに黒龍族の尻尾の性感帯を遊びで教えるなどと許し難い。
 たとえ桃源郷の守護神であり英雄である聖獣からの寵愛ちょうあいでもこんなに腹立たしく思うのは、幼獣こどもの頃からずっと大事に守ってきた妹だからだ。
 たとえつがいとして自分が結ばれることは叶わなくても、大切に扱わない雄に鳴麗は渡したくない。

「――――ともかく、お前が無事で良かった。飲酒して『月の印』の症状が出ると言うのなら、少なくとも制御できるまで飲ませるわけにはいかない」
「う、……ごめんなさい、龍月兄さん」

 心から心配するように、龍月は鳴麗を抱きしめた。鳴麗はドキドキしながら龍月の胸に頬を寄せる。
 いつも、鳴麗のやりたいことは見守り応援し時には助言してくれた義兄が、これほど心配し制限をかけてくる事は初めてだ。
 蝶よ花よと育てられた鳴麗が悪い道に行くこともなく真っ直ぐ育ったせいもあるが、いつもの龍月とは違う側面を見て、妙に嬉しくドキドキしている自分に鳴麗は戸惑っていた。

「へぇ、美しい兄妹愛だな。しかし、いかんせん過保護過ぎて兄離れができなくなりそうだ。鳴麗に好きなおとこができたらどうするつもりだ?」
「……白虎。君も褒められた行動はしていないですよ。そうでなくとも君は目立つのですから」

 鳴麗と龍月はハッとして後ろを振り返る。
 そこには気怠そうにする白虎帝と、彼の隣には先ほど心配して様子を見に来た玄天上帝が歩み寄ってきたからだ。
 龍月と抱き合っているところを見られた鳴麗は真っ赤になって、ビュンっと離れると耳をピクピクと動かした。
 龍月は玄天上帝がその場にいた事にうやうやしく拱手きょうしゅし頭を垂れる。

「玄武様、義妹は気分が優れないようですので私が連れ帰ります。このような祝の席に申し訳ありません。この鳴麗、まだ親元から離れたばかりの幼獣こどもです。聖上のお相手を務めるには未熟過ぎます……あまり、義妹をからかわないで頂きたい」

 そう言うと龍月はちらりと白虎帝に冷たい眼差しを向けた。
 鹿ルー族の雌のように線の細い軟弱な雄だとばかり思っていたが、その視線はしっかりと龍の威厳いげんを宿していた事に白虎帝は口端に笑みを浮かべる。
 張り詰めた二人の間に入るように玄武が咳払いした。
 
「構いませんよ。この行事はそこまで堅苦しいものでは無いと言うのはお前も良く知っているでしょう? さぁ、鳴麗を連れて帰りなさい」
「ふーん、まぁ……頑張れよ。またな、鳴麗」
「~~~~!! はい、さよなら! お元気でっ」

 白虎帝は鼻で笑いヒラヒラと手を降ると、鳴麗は赤面して龍月の背中に隠れた。
 二人の隣を通り抜けると、白虎帝は再び武陵桃源の会場へと向かう。彼を追うように玄天上帝がその場を立ち去り、龍月はようやく肩の力を抜いた。

「龍月兄さん、ごめんなさい」
「………ああ。これからは他の雄と二人きりにならないようにしなさい。水狼スイラァンともだ」
水狼スイラァンとも? 龍月兄さんどうしてそんなに怒ってるの? なんだか変だよ」

 不安そうにする鳴麗を見て、龍月はバツの悪そうな顔をして視線を逸らした。
 箱入り娘の義妹を心配するというより、彼女に触れた白虎帝に対して、嫉妬心のようなものを感じた。
 白虎帝が放った『鳴麗に好きな雄ができたらどうするんだ』という言葉は深く胸に突き刺さる。
 その言葉を恐れ、鳴麗が成獣に近付くにつれて何度も何度も頭の中で繰り返し考えてきた。
 龍月は、鳴麗の手を握ると義妹に顔を見られないように背中を向ける。

「――――帰ろう、鳴麗。お前の好物の白菜と鶏肉の清湯チンタンを作ってやる」
「えっ! 久しぶりに龍月兄さん特製の清湯食べれるのっっ、ふぁ、それに包子パオズがあれば完璧すぎるっ」

 単純な鳴麗は目を輝かせると、さきほどの事など忘れてしまったかのように龍月の手を握り返した。
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