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【水狼編】
番らしいことをしよう①
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「え、もう帰るの……? もう少し俺と一緒にいようよ。ちゃんと朝は宮廷まで送るから、今日はうちで泊まらない?」
「駄目だよ、今日は龍月兄さんが早く帰れるって言ってたし。着替えも持ってきて……あ~~もう、なんですかーーーー!?」
しょんぼりとした水狼は、残念そうに耳を垂らすと鳴麗を背後からぎゅっと抱きしめる。
名残惜しそうに、すりすりと頭に頬を擦り寄せ、ペロペロと首筋を舐めては彼女の気を引こうとする水狼に、心臓が破裂しそうだ。
鳴麗は、聞いたこともないような甘えた声で水狼に懐かれ、動揺を隠せなかった。
やんちゃな水狼に、こんな可愛い面があるなんて、幼獣の時から一緒にいたのに、全然見たことがなかった。どきまぎして、たまらず鳴麗の顔は熱くなっていく。
(他の雌に、水狼の可愛い所は見せて欲しくないな。あぁぁぁもう、可愛い!! 尊い!!)
✤✤✤
晴れて、水狼と鳴麗は恋仲になった。先日水狼に、せっかくだから恋仲の雄と雌が行くような場所に行ってみないか、と誘われたのだが妙に緊張してしまう。
「恋人同士らしいお付き合い……。そんなこと改めて言われたら照れる! あぁあ、今日の私の格好は大丈夫? はぁぁ……待って、落ち着こう。 若晴さんに流行りの紅と可愛い漢服のお店も教えて貰って買ったし、今、私は最強なはず!」
若晴は同じ黒龍族で先輩にあたる女官だ。鳴麗が宮廷に女官として入った時から何かとお世話になっていて、最近では、すっかり彼女と打ち解け、公私共に親しい友人になった。
そして、ずっと親友だった雄の水狼と恋仲になった瞬間、何を着てどう振る舞えばいいのか分からず、思わず先輩の彼女に相談することにした。
彼のことを大好きなのに、意識しすぎて妙に緊張してしまう。それが悩みの種である。
「若晴さんは『幼なじみとの恋仲!? 可愛いって』大興奮だったけど……いやいや、こっちは変に緊張して駄目だ~~!」
若晴は、小説から宮廷の秘密の恋まで、とにかくロマンスが大好きな雌で、恋愛テクニックの師匠でもある。
彼女の的確な助言のお陰で、どんなに冷静沈着で、どんなに堅物の雄を好きになっても、番になれた女官たちは、星の数ほどいると噂されているほどだ。さすがに大袈裟すぎると思ったが、彼女の助言は勇気を与えてくれる。
「貴女はそのままで自信を持って、可愛い自分でいること、かぁ……。でも、可愛いお洋服着たら、なんか元気出てきた!」
そして、彼女に鳴麗に似合う服と紅を選んで貰うと、髪まで結ってもらった。緊張はまだ解れないけれど、無自覚モテ男の番になる自信はついた気がする。
今日が休日だったはずの龍月は、朝早くから西の國に向かう玄天上帝様の護衛をするために、宮廷に向かった。
鳴麗は義兄に水狼とのことを、きちんと話したいと思っていたのだが、多忙な義兄と中々時間が合わず、まだ恋仲になったという報告ができていない。それだけが心に引っかかっていた。
「もうすぐ、水狼が来る時間……」
鳴麗は、尻尾でペシペシと居間の床を叩きながら、幼なじみが来るのを待っていた。何度、時計を確認したか分からない。
軽く屋敷の格子戸をノックする音がして、水狼の影が見えると、鳴麗は頬を赤らめながら戸口まで走る。
「鳴麗、迎えに来たよ。そろそろ行こうぜ」
水狼の声が聞こえ、鳴麗は髪を整え尻尾を撫でると扉を開けた。宮廷に行く時よりもラフだが、少しばかり洒落た正装姿の水狼に、鳴麗は頬を染め、見惚れてしまった。
水狼もまた、珍しく髪をアップにして流行りの漢服を着ている彼女を見ると、あまりの可愛さに頬が緩み赤く染まる。
「――――可愛い。もしかして、すげぇ自意識過剰なんだけど、今日は俺のためにお洒落してくれた? いつもの鳴麗も可愛いけど、今の鳴麗はとびきり可愛い」
「ハッ! 出た無自覚モテ男のテク……! お気に入りの服なんだけど、に、似合ってる?」
「モテ? ああ、可愛い。すっごい可愛いから……このまま寝室に」
「もうっ、駄目だってば! ちゃんと番らしいことをするんでしょ?」
発情モードになりそうな水狼の胸板をぐいぐいと押して、玄関から彼を押し出すと二人は笑いながら歩き始めた。
そして水狼は、鳴麗に彼の飼っている天馬に乗るようにと促す。
彼女を前に乗せ、水狼が後ろに乗って手綱を握ると天馬を走らせ、空を駆け上がった。
天帝からの贈り物と言われる天馬は、どんな遠い所でも一瞬にして行くことができる優れた乗り物だ。水狼がどんなところに連れて行くつもりなのか、鳴麗は全く想像もつかなかった。
「天馬に乗るってことは、遠出するの?」
「うん。あ、その服や靴が汚れたりする場所じゃないから、大丈夫だよ。番に人気がある逢瀬場所があるらしくてさ」
「むむむっ、何? 私全然知らないや」
「鳴麗はどちらかというと、美味しい甘味や包子のお店にしか興味がないもんなぁ。まぁ、そこは、美味しいものもありそうだよ」
水狼が言う通り、色気より食い気の鳴麗はお洒落な観光場所や、恋仲の霊獣たちが集う場所なんて、全然詳しくない。
食い意地ばっかり張ってるみたいに言わないで、と頬を膨らませて怒る彼女に、水狼はクスクスと笑う。
気を取り直すように鳴麗は晴れた空と、美しい霊峰を眺めていると、青い羽の鸞が、側を横切って飛んでいった。
あの幸せの青い鳥が飛ぶ限り、この武陵桃源には平和が保たれている。ぼんやりと鸞を目で追っていると、雲の切れ間から緑豊かな國が見えた。
「わぁぁっ、ここってもしかして青龍帝様が統治する、東の國? 初めて来た! 東の國は、本当に緑が一杯なんだ」
「ああ、木を司る青龍帝様の國は春の気に満ちて、四國のなかじゃ一番緑が多いんだって。ほら、あそこ」
感動して目を、キラキラさせ耳を動かす鳴麗に水狼が指差す。
そこは平になった崖があり、美しい緑の真ん中に、高級茶楼がある。この高価で芸術的な建物の規模からして、随分と古く格式のある茶楼のようだった。
よく見るとそこは庭園もあり、また崖から東の國全体を見下ろせるような、絶景の場所だ。
なぜ、恋人たちに人気があるのか、よく分かるような逢瀬場所で、鳴麗は感嘆の声を上げる。
「わ、番っぽい霊獣たちが一杯……!」
「駄目だよ、今日は龍月兄さんが早く帰れるって言ってたし。着替えも持ってきて……あ~~もう、なんですかーーーー!?」
しょんぼりとした水狼は、残念そうに耳を垂らすと鳴麗を背後からぎゅっと抱きしめる。
名残惜しそうに、すりすりと頭に頬を擦り寄せ、ペロペロと首筋を舐めては彼女の気を引こうとする水狼に、心臓が破裂しそうだ。
鳴麗は、聞いたこともないような甘えた声で水狼に懐かれ、動揺を隠せなかった。
やんちゃな水狼に、こんな可愛い面があるなんて、幼獣の時から一緒にいたのに、全然見たことがなかった。どきまぎして、たまらず鳴麗の顔は熱くなっていく。
(他の雌に、水狼の可愛い所は見せて欲しくないな。あぁぁぁもう、可愛い!! 尊い!!)
✤✤✤
晴れて、水狼と鳴麗は恋仲になった。先日水狼に、せっかくだから恋仲の雄と雌が行くような場所に行ってみないか、と誘われたのだが妙に緊張してしまう。
「恋人同士らしいお付き合い……。そんなこと改めて言われたら照れる! あぁあ、今日の私の格好は大丈夫? はぁぁ……待って、落ち着こう。 若晴さんに流行りの紅と可愛い漢服のお店も教えて貰って買ったし、今、私は最強なはず!」
若晴は同じ黒龍族で先輩にあたる女官だ。鳴麗が宮廷に女官として入った時から何かとお世話になっていて、最近では、すっかり彼女と打ち解け、公私共に親しい友人になった。
そして、ずっと親友だった雄の水狼と恋仲になった瞬間、何を着てどう振る舞えばいいのか分からず、思わず先輩の彼女に相談することにした。
彼のことを大好きなのに、意識しすぎて妙に緊張してしまう。それが悩みの種である。
「若晴さんは『幼なじみとの恋仲!? 可愛いって』大興奮だったけど……いやいや、こっちは変に緊張して駄目だ~~!」
若晴は、小説から宮廷の秘密の恋まで、とにかくロマンスが大好きな雌で、恋愛テクニックの師匠でもある。
彼女の的確な助言のお陰で、どんなに冷静沈着で、どんなに堅物の雄を好きになっても、番になれた女官たちは、星の数ほどいると噂されているほどだ。さすがに大袈裟すぎると思ったが、彼女の助言は勇気を与えてくれる。
「貴女はそのままで自信を持って、可愛い自分でいること、かぁ……。でも、可愛いお洋服着たら、なんか元気出てきた!」
そして、彼女に鳴麗に似合う服と紅を選んで貰うと、髪まで結ってもらった。緊張はまだ解れないけれど、無自覚モテ男の番になる自信はついた気がする。
今日が休日だったはずの龍月は、朝早くから西の國に向かう玄天上帝様の護衛をするために、宮廷に向かった。
鳴麗は義兄に水狼とのことを、きちんと話したいと思っていたのだが、多忙な義兄と中々時間が合わず、まだ恋仲になったという報告ができていない。それだけが心に引っかかっていた。
「もうすぐ、水狼が来る時間……」
鳴麗は、尻尾でペシペシと居間の床を叩きながら、幼なじみが来るのを待っていた。何度、時計を確認したか分からない。
軽く屋敷の格子戸をノックする音がして、水狼の影が見えると、鳴麗は頬を赤らめながら戸口まで走る。
「鳴麗、迎えに来たよ。そろそろ行こうぜ」
水狼の声が聞こえ、鳴麗は髪を整え尻尾を撫でると扉を開けた。宮廷に行く時よりもラフだが、少しばかり洒落た正装姿の水狼に、鳴麗は頬を染め、見惚れてしまった。
水狼もまた、珍しく髪をアップにして流行りの漢服を着ている彼女を見ると、あまりの可愛さに頬が緩み赤く染まる。
「――――可愛い。もしかして、すげぇ自意識過剰なんだけど、今日は俺のためにお洒落してくれた? いつもの鳴麗も可愛いけど、今の鳴麗はとびきり可愛い」
「ハッ! 出た無自覚モテ男のテク……! お気に入りの服なんだけど、に、似合ってる?」
「モテ? ああ、可愛い。すっごい可愛いから……このまま寝室に」
「もうっ、駄目だってば! ちゃんと番らしいことをするんでしょ?」
発情モードになりそうな水狼の胸板をぐいぐいと押して、玄関から彼を押し出すと二人は笑いながら歩き始めた。
そして水狼は、鳴麗に彼の飼っている天馬に乗るようにと促す。
彼女を前に乗せ、水狼が後ろに乗って手綱を握ると天馬を走らせ、空を駆け上がった。
天帝からの贈り物と言われる天馬は、どんな遠い所でも一瞬にして行くことができる優れた乗り物だ。水狼がどんなところに連れて行くつもりなのか、鳴麗は全く想像もつかなかった。
「天馬に乗るってことは、遠出するの?」
「うん。あ、その服や靴が汚れたりする場所じゃないから、大丈夫だよ。番に人気がある逢瀬場所があるらしくてさ」
「むむむっ、何? 私全然知らないや」
「鳴麗はどちらかというと、美味しい甘味や包子のお店にしか興味がないもんなぁ。まぁ、そこは、美味しいものもありそうだよ」
水狼が言う通り、色気より食い気の鳴麗はお洒落な観光場所や、恋仲の霊獣たちが集う場所なんて、全然詳しくない。
食い意地ばっかり張ってるみたいに言わないで、と頬を膨らませて怒る彼女に、水狼はクスクスと笑う。
気を取り直すように鳴麗は晴れた空と、美しい霊峰を眺めていると、青い羽の鸞が、側を横切って飛んでいった。
あの幸せの青い鳥が飛ぶ限り、この武陵桃源には平和が保たれている。ぼんやりと鸞を目で追っていると、雲の切れ間から緑豊かな國が見えた。
「わぁぁっ、ここってもしかして青龍帝様が統治する、東の國? 初めて来た! 東の國は、本当に緑が一杯なんだ」
「ああ、木を司る青龍帝様の國は春の気に満ちて、四國のなかじゃ一番緑が多いんだって。ほら、あそこ」
感動して目を、キラキラさせ耳を動かす鳴麗に水狼が指差す。
そこは平になった崖があり、美しい緑の真ん中に、高級茶楼がある。この高価で芸術的な建物の規模からして、随分と古く格式のある茶楼のようだった。
よく見るとそこは庭園もあり、また崖から東の國全体を見下ろせるような、絶景の場所だ。
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