【R18】桃源郷で聖獣と霊獣に溺愛されています

蒼琉璃

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【番外編・玄武】

初恋の玄武様①

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 まだ、鳴麗が幼獣こどもだったころのこと。いつも大好きな義兄の後を追って、どこまでもぴょこぴょこと、後ろをついてまわっていた思い出がある。

『にーにー!』
『こら、鳴麗。走ったらまたこけるよ。ここの床はすべりやすいから危ない。おとうさんと、おかあさんにまた怒られちゃうよ』

 両親ともども、北の宮廷に来たのはどういう経緯だったのか。鳴麗は幼すぎて分からなかったが、その日の光景は今でも鮮明に思い出せる。
 玄天上帝、つまり四聖獣の中で一番の年長で権威と、霊力を持つ、玄武の祝の席だったように思う。宮廷には、主人である玄武のために多くの黒龍族が集まっていた。
 成獣おとなたちは、陽気に酒を飲み、歌と踊りを披露して、完全にお祭り気分だった。空から、仙術のような幻想的で綺麗な七色の花弁が落ちてくると、鳴麗は目を輝かせ、それを追いかけては、夢中になって捕まえていた。
 龍月にそれを見せようと走り回り、軽く叱られたが、はしゃぐ彼女を止めることはできない。
 鳴麗はどんどん、両親から離れ、黒龍族の輪からも離れて、キラキラと舞う花弁を追いかけていく。

『わぁっ』

 床は龍月が言ったように滑りやすく、花弁を踏んだ瞬間に、鳴麗はびたんと転んだ。膝を擦りむいてポロポロと涙を零し、鼻水を垂らして、泣くまいと唇をぎゅっと噛む。
 ふと、長身の男性にふわりと抱き上げられた。

『大丈夫ですか。ここはとても滑りやすいですから、走ってはいけませんよ。おや、膝を擦りむいているようですね?』  
『う、うん……ひっく、いたいよぉ、えーーん』
『これは痛そう。私が治しますから大丈夫ですよ。君の名を教えてくれませんか』

 綺麗な長い黒髪。
 中性的な雰囲気だが、目鼻立ちはハッキリとしていて凛々しい。額に埋め込まれた不思議な緑の宝石は、優しげな目と同じ色だ。鳴麗にとって、片眼鏡は初めて見るもので、より一層彼を知的に見せている。
 泣く鳴麗の気分を、紛らわせようとしているようだった。

『……みんりぃ』
『そう。可愛い名前ですね』

 青年が微笑むと、ジンジンとしていた膝の痛みがなくなり、あっという間に傷が塞がる。ありがとう、と鳴麗が言うと、彼は頷いて優しい微笑みを浮かべた。
 鳴麗が彼の名前を聞こうとした瞬間、後ろから慌てて自分の名前を呼びながら、両親と義兄が走ってくる。

『も、申し訳ありません! 玄天上帝様。私どもが目を離している隙に、娘が居なくなってしまい……! ご迷惑をおかけしました』
『こら、鳴麗、私たちから離れては駄目と言ったでしょう! 玄天上帝様になにかご無礼なことをしなかったですか』
『無礼なことなど、なにもありません。幼獣は元気ですから、目を離さないように。大きな怪我をしてしまったら大変ですよ』

 両親も龍月も真っ青になっていたが、玄武は柔らかく微笑んで、母親に鳴麗を渡した。この方が玄武様なんだ、と鳴麗は両親に叱られることも気にせずに彼を見ていた。
 鳴麗の小さな心臓がドキドキと高鳴る。
 あの方が、みんなのいう黒龍族の主様と目を輝かせた。

 ――――げんぶさま、すき。


✤✤✤

 それが、玄武と鳴麗の初めての出会いだった。幼獣ながら、初めて雄を意識した瞬間で、おそらく初恋。
 それから、食卓の席で玄武様と番になると言い出して、ずいぶん両親を驚かせ、笑われたものだ。
 大きくなるにつれ、鳴麗は面と向かって両親に玄武様に今でも恋してると、口にすることはなかったが、着々と宮廷に女官として向かう準備はしていた。
 ようやく難しい試験に合格し、下働きとして宮廷で働けるようになり、霊獣生じんせい順風満帆じゅんぷうまんぱんかと思っていたのだが……。

「龍月兄さんが、玄武様の側近になってくれて本当に嬉しく思ってるの。いっぱい玄武様のお話し聞かせてっ。好きな食べ物とか趣味とかっ。雌のタイプとか! なんかないっ!?」

 もっぱら資料整理の日々である鳴麗は、女官として玄武に近付けないどころか、そうそうお姿も見れない。
 理想と現実に歯ぎしりをして、とうとう我慢ができず、龍月にグイグイと詰め寄った。
 龍月は側近ではあるものの、もちろん玄武を支える高級官吏は彼の他に数人おり、たまの非番の日を利用し、屋敷で義妹とゆっくり過ごそうと思っていたのだが。
 まさかこんなに、玄武の情報開示を迫られるとは思わず、深いため息をついてしまった。

「鳴麗。まさかお前は本当に玄武様と番になりたくて、宮廷に入ったのか? 幼獣の時はその言葉も許容できたが……。もういいかげんに成獣おとなになりなさい」
「なんでぇ? 運命は作るものだよ。聖獣様は番を作らないの?」
「四聖獣は四國を統治する神聖な獣だ。天帝のお声を聞いて、半永久的に霊獣たちを導く。我々のように番になって子孫を作ったり、伴侶を娶るような、俗物的なことはされない」

 玄武が、過去に一度だけ例外的に雌を娶り、子孫が絶えるまで見守っていた話は、伝説的に聞いたことがある。けれど世間では天帝に近い彼らは、基本的に神様や偶像のような扱いで、番を持つものはいない。
 とはいえ、白虎帝のように側室を持っている四聖獣もいれば、公にできない恋仲の相手がいる聖獣も過去には、いただろうが。

「でもっ、白虎帝様は何人も側室がいるじゃない。私も、玄武様の側室から番になれるかもしれないでしょ?」
「鳴麗。真面目な性格の玄武様が、側室などと……。今でさえ、そんな雌は一人もいないのだぞ」

 鳴麗は頬を膨らませ、尻尾をブンブンと振った。誰よりも溺愛している義妹だが、あまりにも現実離れして、応援できない馬鹿な夢を見ている。玄武に憧れる女官や、一般霊獣はいるだろう。けれどさすがに、本気で彼と結婚したいなどと叫ぶ雌はいないし、あまりにもお花畑すぎる。
 椅子に座り、お茶を飲む義妹を龍月は呆れた様子で見た。

「龍月兄さんだって、高級官吏になるって夢を叶えたでしょ。私だって夢を叶えたい。難攻不落な玄武様と、まずはお近づきになりたい!」
「どうやって? 鳴麗は下級の女官であるし、玄武様の世話を直接できるわけではないのだぞ」
「えっと……天帝様に恋愛成就のお祈りして、真面目に、お仕事頑張る」

 それならば、まだ建設的かと龍月は自分の顎に手を置く。位が上がれば、そのうち彼の世話をできるかもしれないが、いつになることやら、と龍月は肩をすくめた。
 そしてふと、五年に一度四神たちが天帝に忠誠を誓い、さまざまな種族の聖獣や、霊獣たちが交流を深める大きな催事さいじ武陵桃源ぶりょうとうげんの誓いがあることを思い出した。
 可愛い義妹を独り占めしたいほど、愛しく思うものの、兄心としては妹を応援してやりたいと思う。

「ならば私が武陵桃源の誓いで、玄武様に鳴麗を紹介しよう。名前だけは私から聞いて知っているはずだから、不自然に思わないだろう」
「本当? 龍月兄さん大好き!」

 とたんに鳴麗の膨れっ面は、笑顔になって立ち上がると、龍月の側まできて抱きついた。
 
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