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疑惑②
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優里さんはもともとこの地方の出身ではなく、小学校の時に父親の仕事の関係で埼玉県に引っ越してきた。
小さい頃から絵を描くのが好きだった優里さんは中学生の時に美術部へ入部し、高校も文化部が有名な朝比奈女子高等学校に入学したのだという。
体を動かすのが好きな活発な女の子、と言う訳では無かったが、明るくて可愛らしい子で、入学当初はいじめは無かった。
美術部に入学し、同じクラスの加奈さんと坂裏さん、二組の曽根さんと梶浦さんが美術部員となった。先輩とも彼女たちは仲良くやっていたのだが、高校二年に上がった時に変化があった。
『優里って最近なんかむかつくんだけど。コンクール優勝したのも先生に言い寄ったからじゃない?』
そう言い出したのは、梶浦さんだという。顧問の林田拓哉がこの学校に赴任し、彼が美術部の顧問になった。
若い男の先生と言うだけで、一部女子高生には騒がれていて、そこそこ人気があったようだ。
「結菜、あの当時はちょっとスランプだったんですよね。彼女は漫画家目指してて、色々悩んでたから、コンクールで続けて入賞した優里に……言い方悪いけど、嫉妬してたんです」
梶浦さんの愚痴に乗ったのは、彼女と一番仲が良かった曽根さんだ。曽根さんは林田先生に恋心を抱いていて、優秀な優里さんを構う事に嫉妬していたのだという。
『わかる、なんか色目使ってるんだよね、キモいつーの。林田先生って純粋だからすぐ騙されそうじゃん。もう構わないでほしいわ!』
『あいらちゃんは先生が好きだもんね。やばいよね、クスクス……。あっ、優里がきたよ』
『もう、やめなって』
坂裏さんは、常に何かの発信源になる事が大好きだった。噂の元、拡張器みたいな子だったようで、彼女にとって退屈な田舎の学生生活の中で唯一の楽しみといえば、誰かの醜聞だ。
『みんなもう来てたんだ、早いね! あのね、みんなが美味しいって言ってくれたクッキー買ってきたんだ。みんなで食べよう?』
『……優里』
『…………』
『…………』
『…………』
『優里、今日はいいよ。あたしら帰るから』
「あの時の優里の顔が忘れられなくて……何となく彼女なりに違和感があったんだと思います。私は……そう言うのは止めようって言ってたんですけど、さくらの噂が学年中に広まって尾ひれがついたんです」
「優里さんは、顧問の先生と関係があったわけじゃないんですね」
「そうです。根も葉もない噂と悪意が学校中に広がって、優里と林田先生を追い詰めたのです」
最初は無視から始まって、クラスの女の子から陰口を言われるようになったという。それでも彼女は学校だけはきちんと行っていたようで、美術部にも顔を出すようにしていた。
加奈さんは、美術部の次期部長になりにいじめを止めさせようとしていたが、それでも一度広まった噂や偏見は、止める事が出来ない。
特に、美術部の先輩達が引退してからの三人の優里さんに対するいじめは酷かったようだ。
僕は、優里さんの事を思うと可哀そうで気分が悪くなってしまった。
「美術部のみんなが表向き私の言うことを聞いても、私の見えない所では何があったのかわかりません。みんなは、憑きもの筋の事を恐れたり、崇めたりしますけど……私のいない所では不気味がっていますから」
僕たち五人は、思わず沈黙してしまった。
朝比奈女子高等学校で、佐伯優里さんは美術部に所属し、友人同士の亀裂から変な噂がたって、同じ学年のクラスメイトから虐められるようになってしまった……それが全貌だろうか。
だけど何かが引っ掛ってモヤモヤする。
「加奈さん、つまり……佐伯さんがこのメールを送ってるんじゃないかと思っていらっしゃるんですか?」
「わかりません。優里はあれから学校に戻れず辞めてしまってから、どうなったのか分からないんです。ご両親とご兄弟も引っ越しされたみたいなので。だけど……」
加奈さんは言葉を濁した。
明くんの話だと、自殺未遂した加奈さんは助かったと言う話を聞いているので、彼女がなにかしらの呪術的な事をしているのだろうか。
自殺をするまで追い詰められていたのだから、彼女が動画を作りメールを送信した犯人であってもおかしくなはない。
僕の優里さんに対する違和感は、死霊の波動では無く、生きている霊の波動を持っていたからだ。つまり、僕の目の前に現れたのは優里さんの生霊だ。
だけど、なぜ優里さんは高校生の姿なんだ?
どうして、僕と琉花さんまで呪われたんだ。
彼女の言葉は、いったい何を意味する?
「健くん、大丈夫?」
「あ、うん……ごめん梨子。菊池さん……とりあえず、今後とも気を付けて下さい。あの呪詛はかなり強いです。とりあえず佐伯優里さんを探して見ましょう」
僕は、念の為に加奈さんにそう言うと三人に提案しこの家を早々に立ち去ろうとした。この事件の根っこが、優里さんに対する『いじめ』だと確信できただけでも良しとする。
ともかく、このどんよりとした気味の悪い家から出たい。
「雨宮さん、優里が見つかったら……いじめを止められなくてごめんなさい、って伝えて下さい」
「…………はい」
申し訳なさそうにしている彼女だが、僅かに微笑んでいる様子がなんだか気味が悪い。それは、僕に頼む事ではなく、本人に直接謝罪しなければいけないことだと僕は思う。
僕だって偉そうな事は言えないし、彼女の立場だったら止められるか分からないが、それでも誠意を見せるべきだ。
「雨宮、帰ろう。菊池さん、お忙しい中ありがとうございました」
「ええ、お気を付けて」
明くんの言葉に、全員が緊張した体の力を抜くと立ち上がってそれぞれ挨拶する。
そしてこの部屋を出ようと、障子を開いた目の前に、大祖母さんが立っていて思わず梨子と琉花さんが驚き悲鳴をあげた。
例に漏れず僕も驚いて声をあげたのだが。
にこにこ目を細めていた大祖母さんが僕を見るとカッと目を開いて指差した。
「おめぇには大きな龍神さんが憑いとるべ。お蛇様が怖がる。はよぉ、けぇれ、けぇれ!」
小さい頃から絵を描くのが好きだった優里さんは中学生の時に美術部へ入部し、高校も文化部が有名な朝比奈女子高等学校に入学したのだという。
体を動かすのが好きな活発な女の子、と言う訳では無かったが、明るくて可愛らしい子で、入学当初はいじめは無かった。
美術部に入学し、同じクラスの加奈さんと坂裏さん、二組の曽根さんと梶浦さんが美術部員となった。先輩とも彼女たちは仲良くやっていたのだが、高校二年に上がった時に変化があった。
『優里って最近なんかむかつくんだけど。コンクール優勝したのも先生に言い寄ったからじゃない?』
そう言い出したのは、梶浦さんだという。顧問の林田拓哉がこの学校に赴任し、彼が美術部の顧問になった。
若い男の先生と言うだけで、一部女子高生には騒がれていて、そこそこ人気があったようだ。
「結菜、あの当時はちょっとスランプだったんですよね。彼女は漫画家目指してて、色々悩んでたから、コンクールで続けて入賞した優里に……言い方悪いけど、嫉妬してたんです」
梶浦さんの愚痴に乗ったのは、彼女と一番仲が良かった曽根さんだ。曽根さんは林田先生に恋心を抱いていて、優秀な優里さんを構う事に嫉妬していたのだという。
『わかる、なんか色目使ってるんだよね、キモいつーの。林田先生って純粋だからすぐ騙されそうじゃん。もう構わないでほしいわ!』
『あいらちゃんは先生が好きだもんね。やばいよね、クスクス……。あっ、優里がきたよ』
『もう、やめなって』
坂裏さんは、常に何かの発信源になる事が大好きだった。噂の元、拡張器みたいな子だったようで、彼女にとって退屈な田舎の学生生活の中で唯一の楽しみといえば、誰かの醜聞だ。
『みんなもう来てたんだ、早いね! あのね、みんなが美味しいって言ってくれたクッキー買ってきたんだ。みんなで食べよう?』
『……優里』
『…………』
『…………』
『…………』
『優里、今日はいいよ。あたしら帰るから』
「あの時の優里の顔が忘れられなくて……何となく彼女なりに違和感があったんだと思います。私は……そう言うのは止めようって言ってたんですけど、さくらの噂が学年中に広まって尾ひれがついたんです」
「優里さんは、顧問の先生と関係があったわけじゃないんですね」
「そうです。根も葉もない噂と悪意が学校中に広がって、優里と林田先生を追い詰めたのです」
最初は無視から始まって、クラスの女の子から陰口を言われるようになったという。それでも彼女は学校だけはきちんと行っていたようで、美術部にも顔を出すようにしていた。
加奈さんは、美術部の次期部長になりにいじめを止めさせようとしていたが、それでも一度広まった噂や偏見は、止める事が出来ない。
特に、美術部の先輩達が引退してからの三人の優里さんに対するいじめは酷かったようだ。
僕は、優里さんの事を思うと可哀そうで気分が悪くなってしまった。
「美術部のみんなが表向き私の言うことを聞いても、私の見えない所では何があったのかわかりません。みんなは、憑きもの筋の事を恐れたり、崇めたりしますけど……私のいない所では不気味がっていますから」
僕たち五人は、思わず沈黙してしまった。
朝比奈女子高等学校で、佐伯優里さんは美術部に所属し、友人同士の亀裂から変な噂がたって、同じ学年のクラスメイトから虐められるようになってしまった……それが全貌だろうか。
だけど何かが引っ掛ってモヤモヤする。
「加奈さん、つまり……佐伯さんがこのメールを送ってるんじゃないかと思っていらっしゃるんですか?」
「わかりません。優里はあれから学校に戻れず辞めてしまってから、どうなったのか分からないんです。ご両親とご兄弟も引っ越しされたみたいなので。だけど……」
加奈さんは言葉を濁した。
明くんの話だと、自殺未遂した加奈さんは助かったと言う話を聞いているので、彼女がなにかしらの呪術的な事をしているのだろうか。
自殺をするまで追い詰められていたのだから、彼女が動画を作りメールを送信した犯人であってもおかしくなはない。
僕の優里さんに対する違和感は、死霊の波動では無く、生きている霊の波動を持っていたからだ。つまり、僕の目の前に現れたのは優里さんの生霊だ。
だけど、なぜ優里さんは高校生の姿なんだ?
どうして、僕と琉花さんまで呪われたんだ。
彼女の言葉は、いったい何を意味する?
「健くん、大丈夫?」
「あ、うん……ごめん梨子。菊池さん……とりあえず、今後とも気を付けて下さい。あの呪詛はかなり強いです。とりあえず佐伯優里さんを探して見ましょう」
僕は、念の為に加奈さんにそう言うと三人に提案しこの家を早々に立ち去ろうとした。この事件の根っこが、優里さんに対する『いじめ』だと確信できただけでも良しとする。
ともかく、このどんよりとした気味の悪い家から出たい。
「雨宮さん、優里が見つかったら……いじめを止められなくてごめんなさい、って伝えて下さい」
「…………はい」
申し訳なさそうにしている彼女だが、僅かに微笑んでいる様子がなんだか気味が悪い。それは、僕に頼む事ではなく、本人に直接謝罪しなければいけないことだと僕は思う。
僕だって偉そうな事は言えないし、彼女の立場だったら止められるか分からないが、それでも誠意を見せるべきだ。
「雨宮、帰ろう。菊池さん、お忙しい中ありがとうございました」
「ええ、お気を付けて」
明くんの言葉に、全員が緊張した体の力を抜くと立ち上がってそれぞれ挨拶する。
そしてこの部屋を出ようと、障子を開いた目の前に、大祖母さんが立っていて思わず梨子と琉花さんが驚き悲鳴をあげた。
例に漏れず僕も驚いて声をあげたのだが。
にこにこ目を細めていた大祖母さんが僕を見るとカッと目を開いて指差した。
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