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疑惑③
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あの人の良さそうな大祖母さんから発せられた言葉に、僕は思わず怯んだ。だが、僕もこの屋敷には長居したくないと思っている。
それはおそらく梨子や琉花さんたちも同じだろう。
「すみませんでした。僕たちは今から帰りますので」
「二度とこの家にはきねぇようになぁ」
険しい表情をした大祖母から逃れるようにして、僕たちは廊下を歩き玄関先まで来た。ちょうどその頃、本家に一台の高級車が止まって中から運転手と、加奈さんの父親と思われる男性が出てきた。
運転手は三十半ばくらいだろうか、くたびれた様子だけど、若い頃は女性に人気がありそうな顔立ちをしていた。林田さんは僕たちに視線を送り、何か言いたそうな顔でチラチラと見ている。
「浄寛さん、お久しぶりですね。もう用事は住みましたか? もう少しゆっくりされても宜しいでしょう。ご住職は息災ですか」
「ええ、元気にしています。少し加奈さんにお伺いしたい事がありまして……お忙しい中、予定よりも大人数でお仕掛けてしまったので、おいとまさせて頂く事にしました」
明くんはそう言うと両手を合わせた。社長は残念そうにすると、林田さんに荷物をもたせて本家の方へと向かっていく。
すれ違いざまに挨拶を交わすと、僕たちは来た道を引き返した。
僕は妙な感覚がして、肩越しに振り返る。
そこには無表情のまま立っている大祖母、大祖父、加奈さん、社長と林田さん。そしてどこから現れたのか、それとも他の部屋でずっと息を潜めていたのか、母親や祖父母らしき人まで一列に並んでこちらを見ていた。
僕は、家族総出の異様さに急いで視線を逸らすと前を向く。
「なんなの、あの家気持ち悪い……急ごうよ。もうやだ、琉花帰りたい」
「歓迎されてなかったみたいですね。とりあえず私は、真砂を東京まで連れて帰ります」
「佐伯さんが、学校を辞めてからどうなったのか調べなくちゃだね、健くん」
「そうだな……取り敢えず、加奈さんは無事そうだし、今度は佐伯さんの居場所を聞きこまないと。杉本さん、琉花さん最寄り駅まで送ります」
琉花さんも気付いたのか、疲れ切った様子の杉本さんが言った。
取り敢えず、僕は百合さんが死霊ではなく、生霊だと確信したので彼女に会わなくちゃいけない。
たいてい生霊は、自分が意識していない間に憎しみを持った相手や、好きな人に霊を飛ばしてしまう事が多い。だが、今回は呪術が関わっているようなので、優里さんの故意の可能性が高い。
とはいえ、彼女の言動から見て謎の部分は多いし何より優里さんの居場所を探して彼女に直接確かめ、止めなければいけない。
「なぁ、梨子、雨宮。俺が車で二人を駅まで送るよ。お前らせっかくだし晩ごはんうちで食べねぇか? なんなら泊まっていっても良いぞ。話してぇ事もあるし、俺のクールなラップ聞いて帰れ」
「あー、そうだねぇ。久しぶりに亜矢子さんの手料理食べたいなぁ。あんな感じだけどギャルママでお料理も上手なんだよねぇ」
明くんは、嬉しそうに同年代の僕を誘うが最後の言葉に願望が凝縮されている気がする。梨子と晩ごはんを食べで、初めてのお泊りか……もちろん、何かあるわけじゃないけど、梨子と距離が縮まるのは嬉しい。
それに、僕はなんだか加奈さんの事が気に掛かっていた。そう、お馴染の嫌な予感だ。
『あんた、梨子ちゃんと付き合うなら身内からせめていきなさい』
「う、うん……良いのかな? 僕がお邪魔しても迷惑じゃないならお言葉に甘えるよ」
ばぁちゃんが耳元でアドバイスをくれる。それはともかく、梨子も嬉しそうにしているし泊まりの用意はしてないが、会社も辞めたので甘えさせて貰うことにした。
✤✤✤
梨子が言ったように、亜矢子さんの料理は美味しかった。田舎でギャルママするには中々勇気がいりそうだが、二世帯住宅で幸せそうな家庭だった。
明くんの説法ラップは僕にはちょっと良くわからなかったけど、さすが読経で鍛えた声は良かった。梨子は当然ながら、亜矢子さんの方の住居に泊まる事になり、僕は寺の方の客間を使わせて貰う。
――――ピロロン。
コンビニに寄って、旅行用の歯ブラシなどを購入し、風呂に入って部屋に戻ると、突然LINEの通知が鳴ったことに驚き、僕は布団の上で携帯を手に取った。
『こんばんは、雨宮くん。その後、なにか進展はあったかい?』
メッセージの送り主は間宮さんだった。大学の仕事が忙しいようだけど、やはりオカルトの事に関しては興味が尽きないようだ。僕は、寝転びながら、間宮さんに返信する。
『こんばんは、間宮さん。色々とわかりました。少し知恵を貸して貰えませんか? えっと……どこから話せば良いのかな』
『もちろんだよ! 聞かせてくれないかな』
僕は今までのあらましを、間宮さんに伝えた。『闇からの囁き』を見た朝比奈女子高等学校の元美術部の学生が三人亡くなっていること、そして僕と琉花さんが動画を見て呪われたこと。
それから、菊池加奈さんが憑きもの筋で『ネブッチョウ』を祀ってあるという事。
この事件には、虐められた女子高生の生霊が関係しているかも知れないと伝えた。
『ネブッチョウかい、珍しいなぁ! 秩父の三害と言われた憑きものだね。オサキ狐のように有名じゃないから、あまり記録や証言が無くてねぇ。
蛇である事は分かっているんだけど、どうやら菊池さんの家系は、婿養子を取ってネブッチョウが他の家に移らないようにしているようだ』
間宮さんの文面を見ても、生き生きとしているのが良くわかる。
『ネブッチョウを祀る家系の土地に触れたり敷地に入ると、祟りがあると言われている。だから昔はなかなか嫁げなかった。家を存続させる為には、婿養子を同じ憑きもの筋から選ぶか、憑かれる事の付属として、ついてくる富を目当てにしている人か……何も知らない他の地域の人から選ぶか』
『加奈さんの父親は社長をしてるし、あの地域の世間の目を気にしないなら、恩恵に預かれていますね』
これは僕の完全なる邪推で、普通に恋愛し地域の差別を無視して結婚したのだと思うが、あの気味の悪い目が忘れられない。
それにしてもなぜ、林田さんはあの家のお抱え運転手になったのだろう。恩恵を受けているようには見えない。
『ああ、また僕はウンチク語ってしまったね。しかし……なるほどなぁ』
それはおそらく梨子や琉花さんたちも同じだろう。
「すみませんでした。僕たちは今から帰りますので」
「二度とこの家にはきねぇようになぁ」
険しい表情をした大祖母から逃れるようにして、僕たちは廊下を歩き玄関先まで来た。ちょうどその頃、本家に一台の高級車が止まって中から運転手と、加奈さんの父親と思われる男性が出てきた。
運転手は三十半ばくらいだろうか、くたびれた様子だけど、若い頃は女性に人気がありそうな顔立ちをしていた。林田さんは僕たちに視線を送り、何か言いたそうな顔でチラチラと見ている。
「浄寛さん、お久しぶりですね。もう用事は住みましたか? もう少しゆっくりされても宜しいでしょう。ご住職は息災ですか」
「ええ、元気にしています。少し加奈さんにお伺いしたい事がありまして……お忙しい中、予定よりも大人数でお仕掛けてしまったので、おいとまさせて頂く事にしました」
明くんはそう言うと両手を合わせた。社長は残念そうにすると、林田さんに荷物をもたせて本家の方へと向かっていく。
すれ違いざまに挨拶を交わすと、僕たちは来た道を引き返した。
僕は妙な感覚がして、肩越しに振り返る。
そこには無表情のまま立っている大祖母、大祖父、加奈さん、社長と林田さん。そしてどこから現れたのか、それとも他の部屋でずっと息を潜めていたのか、母親や祖父母らしき人まで一列に並んでこちらを見ていた。
僕は、家族総出の異様さに急いで視線を逸らすと前を向く。
「なんなの、あの家気持ち悪い……急ごうよ。もうやだ、琉花帰りたい」
「歓迎されてなかったみたいですね。とりあえず私は、真砂を東京まで連れて帰ります」
「佐伯さんが、学校を辞めてからどうなったのか調べなくちゃだね、健くん」
「そうだな……取り敢えず、加奈さんは無事そうだし、今度は佐伯さんの居場所を聞きこまないと。杉本さん、琉花さん最寄り駅まで送ります」
琉花さんも気付いたのか、疲れ切った様子の杉本さんが言った。
取り敢えず、僕は百合さんが死霊ではなく、生霊だと確信したので彼女に会わなくちゃいけない。
たいてい生霊は、自分が意識していない間に憎しみを持った相手や、好きな人に霊を飛ばしてしまう事が多い。だが、今回は呪術が関わっているようなので、優里さんの故意の可能性が高い。
とはいえ、彼女の言動から見て謎の部分は多いし何より優里さんの居場所を探して彼女に直接確かめ、止めなければいけない。
「なぁ、梨子、雨宮。俺が車で二人を駅まで送るよ。お前らせっかくだし晩ごはんうちで食べねぇか? なんなら泊まっていっても良いぞ。話してぇ事もあるし、俺のクールなラップ聞いて帰れ」
「あー、そうだねぇ。久しぶりに亜矢子さんの手料理食べたいなぁ。あんな感じだけどギャルママでお料理も上手なんだよねぇ」
明くんは、嬉しそうに同年代の僕を誘うが最後の言葉に願望が凝縮されている気がする。梨子と晩ごはんを食べで、初めてのお泊りか……もちろん、何かあるわけじゃないけど、梨子と距離が縮まるのは嬉しい。
それに、僕はなんだか加奈さんの事が気に掛かっていた。そう、お馴染の嫌な予感だ。
『あんた、梨子ちゃんと付き合うなら身内からせめていきなさい』
「う、うん……良いのかな? 僕がお邪魔しても迷惑じゃないならお言葉に甘えるよ」
ばぁちゃんが耳元でアドバイスをくれる。それはともかく、梨子も嬉しそうにしているし泊まりの用意はしてないが、会社も辞めたので甘えさせて貰うことにした。
✤✤✤
梨子が言ったように、亜矢子さんの料理は美味しかった。田舎でギャルママするには中々勇気がいりそうだが、二世帯住宅で幸せそうな家庭だった。
明くんの説法ラップは僕にはちょっと良くわからなかったけど、さすが読経で鍛えた声は良かった。梨子は当然ながら、亜矢子さんの方の住居に泊まる事になり、僕は寺の方の客間を使わせて貰う。
――――ピロロン。
コンビニに寄って、旅行用の歯ブラシなどを購入し、風呂に入って部屋に戻ると、突然LINEの通知が鳴ったことに驚き、僕は布団の上で携帯を手に取った。
『こんばんは、雨宮くん。その後、なにか進展はあったかい?』
メッセージの送り主は間宮さんだった。大学の仕事が忙しいようだけど、やはりオカルトの事に関しては興味が尽きないようだ。僕は、寝転びながら、間宮さんに返信する。
『こんばんは、間宮さん。色々とわかりました。少し知恵を貸して貰えませんか? えっと……どこから話せば良いのかな』
『もちろんだよ! 聞かせてくれないかな』
僕は今までのあらましを、間宮さんに伝えた。『闇からの囁き』を見た朝比奈女子高等学校の元美術部の学生が三人亡くなっていること、そして僕と琉花さんが動画を見て呪われたこと。
それから、菊池加奈さんが憑きもの筋で『ネブッチョウ』を祀ってあるという事。
この事件には、虐められた女子高生の生霊が関係しているかも知れないと伝えた。
『ネブッチョウかい、珍しいなぁ! 秩父の三害と言われた憑きものだね。オサキ狐のように有名じゃないから、あまり記録や証言が無くてねぇ。
蛇である事は分かっているんだけど、どうやら菊池さんの家系は、婿養子を取ってネブッチョウが他の家に移らないようにしているようだ』
間宮さんの文面を見ても、生き生きとしているのが良くわかる。
『ネブッチョウを祀る家系の土地に触れたり敷地に入ると、祟りがあると言われている。だから昔はなかなか嫁げなかった。家を存続させる為には、婿養子を同じ憑きもの筋から選ぶか、憑かれる事の付属として、ついてくる富を目当てにしている人か……何も知らない他の地域の人から選ぶか』
『加奈さんの父親は社長をしてるし、あの地域の世間の目を気にしないなら、恩恵に預かれていますね』
これは僕の完全なる邪推で、普通に恋愛し地域の差別を無視して結婚したのだと思うが、あの気味の悪い目が忘れられない。
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