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悪意の巣②
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梨子からのメッセージを見ると、僕はやはりと確信した。こんな夜分に彼女は良くやってくれたと思う。本当に僕には勿体ない相棒だ。
「千堂くん、早朝に僕たちは東京に帰るよ。とりあえず、今日はもう大丈夫だと思う」
「そうか。まぁ、なんかとんでもねぇーことに巻き込まれたな。またいつでも来いよ。あんだけすげぇ必殺技を見せられたら、雨宮に助けて貰う事もあると思うしな」
僕は頷くと、清められた土地を見渡した。
あの囚われた地縛霊のような存在も消えてしまい、どうやら浄霊されたようだ。ただ一つ気がかりなのは、菊池家を守護していた『お蛇様』が消えてしまったこの家は、遠からず没落して行くのでは無いかと言う事だ。
ただそれも、今は自業自得のように思える。
――――翌日、僕たちは早朝から車に乗り込んで東京に帰る事にした。僕が眠りにつく頃には
、ばぁちゃんも琉花さんの元から帰っていた。
ばぁちゃんが駆け付けた時には、彼女も金縛りにあっていて、僕と同じように『闇からの囁き』の呪詛に苦しめられていたようだけど、烏帽子姿の守護霊と共にしばらく力技で格闘していたようだ。
そして、僕が龍神真言を唱えた瞬間に、琉花さんへの呪詛も消えたらしい。
もしかすると、この呪いは地中で根っこのように繋がっているのかも知れない。
「今から東京に向かったら間に合うよ。朝早くから起こしてごめん」
「良いよ。もう起きてたし、琉花さんから聞いた情報と、健くんの話が繋がってしまったから」
「うん、でも……本当の事を言うと、僕もまだ確証は無いんだ。だから病院に行って確かめてみる」
僕は、夢の中で優里さんに話しかけていた人物の声が気になって、梨子に色々と確認して貰った。
先日、喫茶店で曽根さんの話を教えてもらったゴスプリのメンバー、そして安否を心配し連絡した琉花さんからも情報を聞く事が出来た。
琉花さんは、事務所のえらいさんを叩き起こしたようだけどあんな事が起こった後だから、すぐに対応してくれた。
「それにしても……全然気が付かなかったな。琉花さんも、健くんもぜんぜん関係ない相手なのに」
「――――だから、あんなに動揺していたんだよ、梨子。僕と琉花さんがあのWEBサイトに接続出来るなんて、杉本さんは想定していなかったと思うんだ」
琉花さんが『闇からの囁き』にアクセス出来た事に動揺し、杉本さんは喘息を起こした。
杉本貴志さんは、中学生までこの地方に一時住んでいたと、漏らした事がある。
琉花さんの話によれば彼のご両親は高校の時に離婚し、病気の姉の為に自分も働くようになったと聞いたことがあるそうだ。彼女は長い間の闘病生活でせいで、植物人間のように意識が戻らなくなってしまったと言っていたそうだけど、自殺に失敗した後遺症なんだと思う。
林田さんの情報からすると、自殺なのかもあやしいけれど。
何年も意識の無い、植物人間のような姉を見ながら、彼はおそらく憎しみを募らせていたんじゃないか。
そしてこの呪詛を計画する。
まるで都市伝説のように、掲示板で流行らせ恐ろしい土台を、作っていったんじゃないか。
メンバーの話によると、杉本さんの前職はシステムエンジニアだったようだ。
最初に『闇からの囁き』の呪詛に触れた時に感じたあの苦しげな呼吸音は、杉本さんの持病の喘息の発作に似ている。
彼の目的は、いじめの中心人物になった四人を実の姉と同じ目に合わせる事だ。いや、それ以上に……彼女達が命を落とすように仕向ける事。
「でもそれって、杉本さんも呪詛をコントロールできて無いって事だよね。なのにどうして呪詛を強めたの?」
「それは多分、菊池さんの家で加奈さんの様子を見たからだと思う。僕たちについてきたのは、おそらく、いつまでも呪詛の効力が見られない加奈さんの様子をうかがうためだ」
杉本さんは表面的には怪しまれないように、協力的だったが、呪詛を僕が浄化したと知ればかなり追い詰められる事になる。
その後の彼の行動が僕には予想できない。
『きっと杉本さんは、ネブッチョウを知らんかっんだろうねぇ。それで、焦って捨て身の呪詛を使ったんだよ。それにしても、素人があんな呪詛を扱えるものかねぇ』
ばぁちゃんは、腕を組みながらブツブツと首を傾げてぼやいている。
僕には、具体的にどんな呪詛を使っているのか分からないし、知識も無い。
けれど杉本さんの呪詛が、優里さんを苦しめている事だけは肌で感じ取った。
✤✤✤
耳元で携帯の着信音が鳴り響いた。
私は気怠い体を起こしながら、水と共に枕元に置かれていた携帯を取った。
大きな顔の優里に『お蛇様』が食い殺された瞬間から、私の記憶は途切れていた。ディスプレイの表示された電話番号は知らない人の番号だったが、私は特に気にする事もなくボタンを押す。
『――――優里の事で話がある。お前とっては命取りな事だ』
「…………分かった。どこに行けばいいの?」
――――優里。
いつの間にかぞうきん女と影で呼んでいたわね。
懐かしい彼女の顔が蘇ってくる。
いいえ、ずっと自分の記憶の中に閉じ込めていた彼女への感情が溢れ出してきて、おかしな笑いが起こった。
あの日、あの屋上で私の感情が爆発してしまったせいで『お蛇様』が優里に向かって襲いかかってしまった。彼女の体は宙に舞って、運良く木に引っ掛かってクッションとなり地上に落下したが、再び意識を取り戻すことは無かった。
命は助かったけど、事実上死んでしまったのと同じ優里。
――――殺そうと思ったことなんて無い。
――――私は優里に、林田と一緒に居て欲しく無かっただけ。
――――こんな事になるなんて。
――――そんなつもりは無かったのに。
「もう終わりにしなくちゃね」
「千堂くん、早朝に僕たちは東京に帰るよ。とりあえず、今日はもう大丈夫だと思う」
「そうか。まぁ、なんかとんでもねぇーことに巻き込まれたな。またいつでも来いよ。あんだけすげぇ必殺技を見せられたら、雨宮に助けて貰う事もあると思うしな」
僕は頷くと、清められた土地を見渡した。
あの囚われた地縛霊のような存在も消えてしまい、どうやら浄霊されたようだ。ただ一つ気がかりなのは、菊池家を守護していた『お蛇様』が消えてしまったこの家は、遠からず没落して行くのでは無いかと言う事だ。
ただそれも、今は自業自得のように思える。
――――翌日、僕たちは早朝から車に乗り込んで東京に帰る事にした。僕が眠りにつく頃には
、ばぁちゃんも琉花さんの元から帰っていた。
ばぁちゃんが駆け付けた時には、彼女も金縛りにあっていて、僕と同じように『闇からの囁き』の呪詛に苦しめられていたようだけど、烏帽子姿の守護霊と共にしばらく力技で格闘していたようだ。
そして、僕が龍神真言を唱えた瞬間に、琉花さんへの呪詛も消えたらしい。
もしかすると、この呪いは地中で根っこのように繋がっているのかも知れない。
「今から東京に向かったら間に合うよ。朝早くから起こしてごめん」
「良いよ。もう起きてたし、琉花さんから聞いた情報と、健くんの話が繋がってしまったから」
「うん、でも……本当の事を言うと、僕もまだ確証は無いんだ。だから病院に行って確かめてみる」
僕は、夢の中で優里さんに話しかけていた人物の声が気になって、梨子に色々と確認して貰った。
先日、喫茶店で曽根さんの話を教えてもらったゴスプリのメンバー、そして安否を心配し連絡した琉花さんからも情報を聞く事が出来た。
琉花さんは、事務所のえらいさんを叩き起こしたようだけどあんな事が起こった後だから、すぐに対応してくれた。
「それにしても……全然気が付かなかったな。琉花さんも、健くんもぜんぜん関係ない相手なのに」
「――――だから、あんなに動揺していたんだよ、梨子。僕と琉花さんがあのWEBサイトに接続出来るなんて、杉本さんは想定していなかったと思うんだ」
琉花さんが『闇からの囁き』にアクセス出来た事に動揺し、杉本さんは喘息を起こした。
杉本貴志さんは、中学生までこの地方に一時住んでいたと、漏らした事がある。
琉花さんの話によれば彼のご両親は高校の時に離婚し、病気の姉の為に自分も働くようになったと聞いたことがあるそうだ。彼女は長い間の闘病生活でせいで、植物人間のように意識が戻らなくなってしまったと言っていたそうだけど、自殺に失敗した後遺症なんだと思う。
林田さんの情報からすると、自殺なのかもあやしいけれど。
何年も意識の無い、植物人間のような姉を見ながら、彼はおそらく憎しみを募らせていたんじゃないか。
そしてこの呪詛を計画する。
まるで都市伝説のように、掲示板で流行らせ恐ろしい土台を、作っていったんじゃないか。
メンバーの話によると、杉本さんの前職はシステムエンジニアだったようだ。
最初に『闇からの囁き』の呪詛に触れた時に感じたあの苦しげな呼吸音は、杉本さんの持病の喘息の発作に似ている。
彼の目的は、いじめの中心人物になった四人を実の姉と同じ目に合わせる事だ。いや、それ以上に……彼女達が命を落とすように仕向ける事。
「でもそれって、杉本さんも呪詛をコントロールできて無いって事だよね。なのにどうして呪詛を強めたの?」
「それは多分、菊池さんの家で加奈さんの様子を見たからだと思う。僕たちについてきたのは、おそらく、いつまでも呪詛の効力が見られない加奈さんの様子をうかがうためだ」
杉本さんは表面的には怪しまれないように、協力的だったが、呪詛を僕が浄化したと知ればかなり追い詰められる事になる。
その後の彼の行動が僕には予想できない。
『きっと杉本さんは、ネブッチョウを知らんかっんだろうねぇ。それで、焦って捨て身の呪詛を使ったんだよ。それにしても、素人があんな呪詛を扱えるものかねぇ』
ばぁちゃんは、腕を組みながらブツブツと首を傾げてぼやいている。
僕には、具体的にどんな呪詛を使っているのか分からないし、知識も無い。
けれど杉本さんの呪詛が、優里さんを苦しめている事だけは肌で感じ取った。
✤✤✤
耳元で携帯の着信音が鳴り響いた。
私は気怠い体を起こしながら、水と共に枕元に置かれていた携帯を取った。
大きな顔の優里に『お蛇様』が食い殺された瞬間から、私の記憶は途切れていた。ディスプレイの表示された電話番号は知らない人の番号だったが、私は特に気にする事もなくボタンを押す。
『――――優里の事で話がある。お前とっては命取りな事だ』
「…………分かった。どこに行けばいいの?」
――――優里。
いつの間にかぞうきん女と影で呼んでいたわね。
懐かしい彼女の顔が蘇ってくる。
いいえ、ずっと自分の記憶の中に閉じ込めていた彼女への感情が溢れ出してきて、おかしな笑いが起こった。
あの日、あの屋上で私の感情が爆発してしまったせいで『お蛇様』が優里に向かって襲いかかってしまった。彼女の体は宙に舞って、運良く木に引っ掛かってクッションとなり地上に落下したが、再び意識を取り戻すことは無かった。
命は助かったけど、事実上死んでしまったのと同じ優里。
――――殺そうと思ったことなんて無い。
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